第78話 走馬灯と喪失
ーーここは濃紫沢小学校 今の俺は小学五年生
相変わらず居場所が無く 学校では樫村達にイジメられている
だけどこの頃一番辛かったのは
〝 行方不明だそうです 父親ならまだしも母親まで…… 〟
〝 誰が賢也を引き取る? 家は子供が三人居てだなぁ 〟
〝 家は子供いませんけど…… 養育費を誰かが出すなら面倒見ますよ 〟
〝 皆自分達の生活でイッパイだが…… それ以前に付いて回るリスクがなぁ…… 〟
〝 あの過激派の孫ってだけで腫れ物扱いしないってのも無理があるぜ 〟
〝 俺は勘弁だからな…… 俺の家族にまで石を投げられちゃぁ敵わん…… 〟
〝 そんなこと言ったら私だって…… そもそもあそこの家族とは何十年も疎遠だったのよ? 〟
〝 だからって僕んところもな…… ん? おい賢也がいないぞ!! 〟
ーーそうそう 家では親戚のヘイトを食らってて逃げたっけ
そして逃げる場所はいつも決まってあの公園 郷愁の広場
思い出して来た 確かここで誰かと遊んでいたなぁ
〝 今日もここにいるんだな 光子 〟
〝 あっ賢也君……!! 待ってたんだよ 〟
〝 待ってたって…… 電話してくれれば…… あぁ駄目か 〟
〝 うん…… 何回電話しても繋がらなかった…… 〟
〝 今日は何して遊ぶ? 〟
〝 土管の中でお医者さんごっこ!! 〟
〝 やだよ光子!! また俺のズボン脱がすだろ?! 〟
〝 それが目的の遊びだよ?! 〟
〝 嫌だって!! 〟
ーー芽神はこの頃 まだ年相応の見た目だったんだな
中学生になるくらいに成長が急に止まったのか
〝 賢也君のママの話は訊いたよ 学校には来れるの? 〟
〝 住んでる場所が変わるだけ 〟
ーー土管の上にある滑り台の上で 日が暮れるまで話す
そういえばここに来ればいつも芽神と遊んでいたのか
友達が一人もいないと思い込んでいたのはおそらく……
〝 そっかぁ…… でも私は転校するんだぁ 〟
〝 えっ…… そうなんだ…… 〟
〝 だから東海林妖様にごたんがんしたんだぁ
もし賢也君も引っ越したら私と同じ場所にして下さいって 〟
〝 しょ…… しょうじょう? って何だ? よく教室でも叫んでいるよな? 〟
〝 私のパパの家が北陰市にあるの 休日で一人で遊んでいるとき
大きなお山の近くに公衆電話があってね そこで東海林様とお話が出来るのね? 〟
〝 ヘェ…… すごいなぁ…… 〟
ーー話半分で聞いてたんだよな 妖怪っていう認識すらしてなくて
何言ってんだろうコイツみたいな感じで それよりも転校するって話がショックだったんだろうな
当時の俺はこの頃から荒み始めていたから 何事も顔に出ることも無かっただろうし
〝 いつ転校するの? 〟
〝 来週にはもう…… 初めての転校だからママとパパの緊張も伝わって来ちゃって
家で居心地が悪いから公園にいる時間の方が長いかも 〟
〝 ……親がいるだけマシだろ だけど俺達は似た者同士だな 〟
〝 そうだよね?! じゃぁお医者さんごっこしよ!! 〟
〝 意味が分からない!! 〟
〝 知らないの?! お医者さんごっこすれば結婚出来るんだよ?! 〟
〝 益々分からない…… 誰が言ってたんだよそんなこと……? 〟
〝 公民館に行った時によく酔っ払った人が言ってた 〟
〝 どうせ冗談だろ…… 医者から結婚って滅茶苦茶過ぎ…… 〟
ーー気が付けば辺りが暗くなっていた 時間が過ぎていることに心地良さを感じていたっけ
嫌な親戚達と会いたくない方法を考えていたっけ
小学校には 行かなきゃいけない圧に屈していたよなぁ
〝 じゃぁね賢也君 その…… 私に会い来てね!! 〟
〝 無茶言うなよ…… 何処に行くんだよ? 〟
〝 ……分からないけど 分からないけど賢也君にまた会いたいから 〟
〝 えぇ~~…… 〟
〝 私…… 賢也君のこと…… 〟
〝 おぉい光子ぉ~~ そろそろ帰るぞぉ~~ 〟
ーーあれは楽長の佐田晃信 昔に出会っていたんだな ……若いな
〝 じゃぁ…… またね 賢也君…… 〟
〝 あぁ…… どっちも住所変わるかもだけど 絶対すぐまた会えるって!! 〟
〝 うん……!! 〟
ーー父親に連れられて 確かこの日を境に芽神と会うことは無かったんだ
大事なことを忘れていたな 〝またね〟か
さざ波の音が聞こえる
砂利が口に纏わり付く感触は大変不快なものだ
視界がボヤける安斎は意識がはっきりしない 恐らくまた気絶するのだろう
いや このまま死んでいくのだろう
人の足音が聞こえてきた 身体を動かすことが出来ないので音だけが唯一の情報
その足音は安斎の前で止まる そして身体に激痛が走る
男は自分を持ち上げ そのまま何処かへと連れて行かれてしまった
ーーここは何処だ……? 俺は…… アレ……? 今まで何を思い返していたんだっけ……?
……俺は ……誰だ?




