第8話 メアリーさんとジャイアントスイング
六時間目を担当する生徒のもとへと向かう安斎は
廊下を歩く途中で中西に声を掛けられた
「すみません安斎先生」
「どうされました?」
「昨日逃げてしまったもう一人の社会人の子なんですが…… 今日欠席らしくて」
「建守颯颯…… そう言えば講演会にも居ませんでしたね」
「なので変更を伝えに来ました ……大丈夫ですか?」
「……断りも出来ないでしょう?」
「それが…… 担当して欲しいのは園児なんです」
「明日は筋肉痛かな?」
「えぇ…… しかも保育の方は……」
二階へ降りて保育園のある教室へ向かうと
「先生遊んでぇ!!」
「先生ぇ!!!! むぅちゃんが私の玩具壊したぁ!!!!」
「……まさか全員を一人で担当とは」
普段担当する保育士が急用で退勤してしまったらしい
中西に応援されながら安斎は一人 ジャングルに放り出された
「先生!! じゃいあんとすいんぐしてぇ!!!!」
「……どうすりゃいんだ 本当に園児にジャイアントスイングしていいのか?」
彼は初めて汗を掻くほどの思考を回転させた
探偵のスキルが微塵も活かせないこの伏魔殿で閃いたのは
「よぉし!! 紙芝居だ!! 紙芝居をしてやろう!!」
紙芝居なら全員が大人しく聞いてくれる その筈だった
「「「「「 じゃいあんとすいんぐぅ!! じゃいあんとすいんぐぅ!! 」」」」」
子供達の要求は一択 譲らない
安斎の回路はショートしてしまった
「おりゃぁぁぁぁ!!!!」
「キャハハハハハ!!!!」
園児の両脚をしっかり脇で固定し 棚の置いてないスペースにて丁寧に回して上げる安斎
「次僕!!」
「次あたち!!」
「これは体罰じゃねぇ…… 体罰は大抵子供が嫌がったり黙ったりするのが劣悪な環境の示唆
お子様は天井知らずのスタミナを持っているから…… これは普通…… おそらく普通……
ちゃんと保育について調べてこなかった俺の落ち度……
保育園を軽視する俺の高慢が招いた修行を積む滝行の如く 精進せねばなるまい!!」
三十代の身体に響き渡る電撃 子供は人の顔を伺う観察力の長けた生き物
つまりどれだけ独り言がエグくても笑顔を持続できれば勝ちなのだ そしてやり切る
「ゼェゼェ……!!!!」
時刻は終礼を迎えた 気付けば十八時
七名の園児達は全員孤児なので専用の寮へと帰って行くのだ
「「「「「 先生さようならぁ~~ 」」」」」
「おぅ……」
積み木や折り紙などが散乱する広い場所で安斎は真っ白になっていた
そんなところに 芽神が現れる
「さぁ…… 怪談を探しに行きましょう!!」
「……子供は悪魔やぁ」
今日の探し場所は校外
使われない公衆電話のメアリーさんだった
「結局は公衆電話を探せばいいのか?」
「えぇ…… ですが目星は付いてますので今日は楽ですよ」
「それならいいんだが……」
「今日の安斎先生はかっこ良かったです……」
「講演会か? 口八丁が俺の特技だからな」
「それもですが…… 溝口先輩との雑談や園児達の遊び相手になってるところも含めて」
「おぉそうか…… ありがとうよぉ」
目的地は裏山沿いの道にある寂びた電話ボックス
実は楽長と一緒にリアカーを引っ張っていた時に目撃可能な場所にあったのだ
しかし押すことに集中していた安斎は当然無視して通り過ぎている
「そういえば朝も含めて今日は肉体労働が激しかったぜ」
「お疲れ様です じゃぁちゃちゃっと怪異を見ちゃいますか」
芽神が電話ボックスに入り受話器を取る
当然十円を入れても音すらしない壊れた公衆電話だ
「……誰も出ませんねぇ」
「この際メリーさんでもメアリーさんでも どっちでも良いから出てくれぇ」
しかし誰とも通話することなく芽神はボックスから出て来た
「ここに来て運に見放されるかぁ……」
「さすがに上手く行きすぎましたねぇ 勝手な解釈な所もありますけど……」
二人は諦めた 自分達のそばにもう一人の影が在る事も知らずに
校舎に戻った芽神は提案する
「これから帰るのも一苦労だと思いますので 今日は寮に泊まりませんか?」
「さすがに子供がいる場所に中年が転がり込むのはぁ……」
「……私の部屋で良ければ寝てって下さい」
「尚更ダメだよ せめて空き部屋だろ?」
「じゃぁ寮母さんに相談してみるので付いて来て下さい」
連れて行かれたのは暁風楽校より少し離れ
キューブ型住宅に囲まれた味のある寮
「元々はアパートで 解体される前に楽長が買い取ったらしいんです」
「古風だなぁ…… 沢山の漫画家達が詰めて住んでそうだ」
「1960年代に建築されたから間違ってないんじゃない?
ここで待ってて 寮母さんと話してくるから」
寮門前で安斎が煙草を吸っていると
ドタドタと忙しない足音と共に 箒が彼の頭にクリーンヒットする
「煙草吸う奴は許しまへんぇ…… 子供に影響してしゃぁないんでなぁ!!」
「痛っつぅ~~!!!!」
「初めましてここの寮母 つまり支配者の門脇米だよ
米と書いてメーテルさ!! よろしく!!」
「……メートルじゃなくて?」
「昭和生まれの訛りの強い親が 博打で名付けた子への命名が今の時代に運良くハマったのさ!!」
「キラキラネームの制限でギリ拒否られそうだけど…… まぁ今更だしな」
「んで安斎先生…… 寮内は禁煙だからね?」
「承知しています ていうか良いんですか? こんなオッサンが……」
「咲彩ちゃんから事情は聞いてるからね 依頼がもうすぐ終わるって話じゃないか!!」




