第73話 芽神の思想
「毒薬の威力は絶大 棘岬高校のクラスで 間近に見ていて想像を遙かに超えた惨劇だったわ」
「自分の血で大量の人間を殺したんだぞ? 嬉しいのかそれ?」
「まぁ私の標的は谷村紫龍だけだったからあんまり良い気はしていない……
そうそう二つの旧財閥との関わりだったわね」
感想をひけらかしたかった芽神はテンションを下げて続きを話した
「私は今 四ノ海の人間として行動しているの
目的は育児に限界を感じる日本から子供を助ける為」
「子供を助けるだぁ? ……グラスフロッグってお前じゃねぇだろうな?」
「残念ながら違います グラスフロッグは安久谷が総力を上げて捜しているまた別物よ」
「お前は心当たりねぇのか? そいつだけ未だに謎に包まれてるんだ
俺達が予想した限りじゃ 安久谷達が認知してねぇだけで四ノ海の関係者だと踏んでるんだが?」
「さぁね…… 孰れ潰す四季園と四ノ海との間柄がどうなろうと知ったこっちゃないわ」
「あぁ時雨山での発言は出鱈目って訳じゃないんだな
……誘拐された人間は何処に行くんだ? イメージじゃぁまともな扱いは期待されねぇんだが?」
「どうしようもないクズならそういう口で売られるだろうけど
ところがどっこい…… 安久谷を含めた四ノ海の一部の人間はバランタイン公国に学校を新設してるわ」
「ハァ?!!! 何でまた……?」
「言ってしまえば練兵施設ね」
「……やっぱり兵隊を増やしてやがんのか」
「大人はどうなるか分からないけど
でも私が調べた限りじゃ多種多様な設備が整えられた夢の学校だったわ
配属予定の教員の中にはメンタルカウンセラーも見掛けたし配慮にも長けている
妻夫木と日野もおそらくそこにいるんじゃない? 知らんけど」
「悪友同盟を築いていたクセに…… 随分とドライだなぁ」
「そりゃぁそうよ…… まだまだ何万人って子供を助けなきゃいけないんだから」
「……まだ攫う気か?」
「日本は少子化問題を掲げている割に 子供を守る意識が足りていない
虐待や性犯罪に手を染める保育士 自殺に追い込む体罰に盗撮して私欲を満たす学校教員
家では虐待を受けて犯罪予備軍を作り出し 近隣住民は下手な介入に臆している
こども家庭庁? 精神科医? 保健所? 第三者委員会? これだけ雁首揃えてるのに
目に見える被害者だけ救えて 本当に弱い人間は救えていないじゃない
だから真意は分からないけど 四ノ海の裏側の連中が誘拐している事に関しては感銘を受けた」
「だから利用するだけ利用しようってか…… 頭数は揃ってそうだしな
お前のその思想はやっぱり自分の身に起きた出来事から生まれて来たのか?」
「えぇそうね…… 親が子供に愛を注ぐのが当たり前とは思えなくなっちゃった……」
「……だが虐待されている子供の中には やっぱり親元を離れたくないって子がいるだろ?
そういうのに苦しみつつ真摯に向き合おうとしてる奴が 今挙げた組織の中にもいるんじゃないのか?」
「それじゃ遅いから強引な活動を支持してるのよ 死んだら元も子ないでしょ?
実際安久谷達の提案に耳を貸して子供を捨てる親がどれだけいたことか……
安斎先生も見て来たんじゃないの? それが今日本中で起きているの」
「……スケールと主語がデケぇなぁ
赤坂舞香の母親が 実は娘を渡したくなかったなんて言ってもお前には効かなそうだ」
「まぁ立ち止まりはしないわ 引いては世界中の困ってる子供を救うのが私の目指す場所……
無償の愛で私を助けてくれたあの人の背中を追うことに繋がるのよ」
「……?」
芽神は立ち上がって腕を伸ばす スッキリした表情で安斎を見ると
「楽しかったなぁ…… イッパイお喋り出来て
やっぱり安斎先生は…… 賢也君には話し掛けて損は無いね!」
「普通に帰ろうとするじゃん…… 気分が良いとこ悪いが逃がさねぇよ」
「私はこれからもやる事いっぱいあるし…… 見逃して欲しいんだけど?」
脇目も振らず立ち去ろうとする芽神の腕を安斎は掴んだ
やれやれといった表情で正面を向く彼女は少々殺気を放っている
「ここで殺された門脇さんはお前から見てどうだったんだ?」
「パワフルですごい人だったよね
お世話にもなったし…… これでもここに来た時は手を合わせたんだよ?」
「お前さっき言ったこと覚えてるか? 安久谷達のやってることを支持してるだぁ……?!
親切にしてくれた身近な人間が死んだってのに小さい出来事で済ましてたのも納得がいくわな」
「……どうしたの賢也君? 顔怖いよ?」
「お前は良かれと思ってやってんだろうが……
同じ志を持っていた筈の人間が殺されても何も思わねぇのはズレてるよ
……お前達の危ない活動が彼女を死なせたんだろうがぁ?! あぁ?!
それで世界の子供を救うだぁ?! お前がやってんのはただの自己満足だ」
「ハァ…… やっぱり敵側になっちゃうのかなぁ……
でも門脇さんは現状をどうにかするだけで 不公平な世の中を変えようとしなかったよ?」
「何だと?」
「受け皿を作ってそこに行き場の無い子供を流し込んでいても 束の間の幸せ
一人一人が社会に出て ここの寮だけが楽園だったことに皆気付く
……社会人になれば嫌な現実が待っていて 周りが自分達を受け入れてくれるとは限らない
寮に帰りたいけど いつまでもここに溜まってたら溢れちゃう…… でしょう?」
半身になり 武道の心得があるのか構え始めた
「おいおい中学生相手にやり合うのは……」
「言ったでしょ? この身体は汎用性があるって
まともな人間ほど隙を見せてくれるの 有り難いことに
……ここで捕まるわけには行かないのよ!!!!」




