第70話 弱竹亜純との面会
6月23日 下川市 道中
「泉太郎に似た男…… 谷村紫龍か……」
「そっくりって訳ではないんですけど……
調べてみたら額蔵さんとの共通する顔のパーツも二人にはありまして」
「まぁ弱竹亜純との会話材料がまた増えたな」
「……でもまさか一週間で完治するなんて 丈夫にも程がありますよ」
「事態は一刻を争うかもしれねぇんだ 漫画も読破しちまったしな」
「全200巻ある漫画を一週間で読破するとか…… 暇なんですねぇ病院は」
「退屈し過ぎて…… 必要のねぇリハビリエリアで筋トレしてたくらいだぁハハ……!!
泉太郎は厄介だからなぁ 少しでも強くなっとかねぇと」
「……私も強くならないと」
停車した場所は下川の駅からそう遠くない【下川拘置支所】
先に着いていた松原と合流し ロッカーに手持ちの物を全て預ける
面会室には安斎達三人が待機しており 数分後に監視員と共にやつれた女性は現れる
「初対面なんですけどねぇ…… 初めましてって感じがしませんよ弱竹亜純さん」
「…………」
ダンマリしたまま椅子に座る弱竹
顔は酷くやつれているが 今の状況に不満を抱いている表情ではない
「トアル探偵事務所の安斎です」
「同じく柴塚です こちらは刑事の松原さん」
「安斎…… ね……」
彼の名前に反応する弱竹は 濡鴉の髪を掻き分けて安斎を見つめた
「俺の事はご存知なんです? 芽神…… いや佐田光子から聞かされていたとか?」
「えぇ…… 幼馴染みだそうですね……」
「……残念ながら俺の幼馴染みに現役中学生はいませんよ?」
「フフフ…… あぁなるほど…… そこからなんですね」
「受け持ちの生徒全員ぶっ殺して 後は天国にいる娘さんに会いに行くだけですか……
随分と肝が据わってますねぇ まるで寿命を悟って待つ老人の様だ」
「久し振りの我が子との対面なんです 手土産と土産話があれば十分ですよね?」
怯えている様子は一欠片も無く 受け答えをしてくれている分では普通の人間だ
「芽神咲彩が何者か教えてくれますか? それとも監視員がいる手前話し辛いか?」
「大丈夫です 今日の監視員さんは外部から金を握らせていますので」
「ほぉ…… 聞きました松原さん? 汚職ですよ汚職」
「逮捕だぁ!!!! って言いてぇが話が円滑になるなら見逃してやる
捜査協力の内枠に留めてやるから感謝しな」
監視員はニッコリと満遍の笑みで会釈した
「彼女の背景は知らないわ
私と佐田さんが出逢ったのは娘が亡くなる二ヶ月程前
彼女は彼女で 別の目的があって棘岬高等学校に転校して来たみたい」
「その目的は?」
「……谷村紫龍 うちの生徒の一人を殺す事よ」
あちらの口から谷村の名前を出すことで 柴塚が反応する
「もしかして…… 谷村紫龍君は四ノ海に縁がありますか?」
「縁も何も四ノ海額蔵の妾の子なんじゃないの?」
「やっぱり……」
「そして…… 私の娘を散々嬲った主犯格 フゥ…… 思い出しただけでも殺意が芽生えるわ」
「それを実際に見たのが佐田さんってことですか?」
「あっそういえばもう殺したんだっけ…… 良かったぁ……
佐田さんは常に谷村の動向を探っていた
あの日も丁度ゴミ処理場から谷村達が出て来るのを見てたのよ」
「……でもそれじゃぁ本当に殺したのは誰だか」
「えぇ だから全員殺したの
娘の身体に白い液体がかなり付着してたって話を聞いた時から……
生徒全員が悪魔に見えちゃってね…… 善悪の選別なんて良心はからっきしだったわ」
「…………」
柴塚の顔は剣幕に覆われ 怒りを静める時間を設ける為に安斎とバトンタッチした
「まぁ要するにアンタと芽神は利害一致の関係だった訳か……
標的には勿論 例の谷村が含まれてたんだからな」
「まぁあの子は私に報告してくれただけ
当時の校長を共謀させたのも 医者を雇ったのも全部私の独断だから」
「その医者だが 何処で知り合ったんだ?」
「近くの町医者よ だけどもう高飛びしたんじゃないかしら……
しかも薬は闇ルートから手に入れた試作品だし 名前は確か〝死穢の妖精〟」
「デッドスプライト…… 松原さん もしかして件のボツリヌス菌の?」
「いやどうだろうなぁ…… 生徒は血を吐いたんだろ?
新垣清太や四ノ海栖からはそんな情報は来ていない」
弱竹は薄ら笑いを浮かべていた
「その毒薬にも研究者がいるなら 日々改良に勤しんでいるんじゃない?
私の場合は派手だったけど 本当は足も着かない完璧な証拠隠滅を目的としていたり?」
「とんでもねぇな……」
「ただ…… 実際に聞いたわけではないけど 佐田さんはその毒薬に心当たりがあったみたいね」
「芽神が?」
「使う前に毒薬の話をしたの 当然佐田さんは殺害対象から外そうとしてたので
その説明した直後 前のめりになって今回の犯罪計画を称賛してたわ
全員を殺した後も人知れず嘲笑する顔で谷村をずっと見ていたし 今振り返ると不気味ね」
「アンタが言うかそれ?」
「それ以降は警察に捕まって彼女とは連絡を取ってはいない
捜査の目に届いていないってことは霧の様に姿を消したんだと思うけど」
「……やっぱり芽神本人から聞くしかないのかぁ」
「あぁそれともう一つ 面会時間が迫っているから重要な伝言も渡さなきゃ」
「んっ?」
「今日その佐田さんから手紙を貰ったの…… こちらの監視員さんが受け取ってくれてね
〝深夜に暁風寮の例の場所で待つ〟だそうよ」
「……ハァ?!!!」
「しかも安斎賢也お一人で来ることが条件みたいね 〝お連れさんがいたら逃げる〟だそうよ」




