第7話 壁の奥にある答えの見つけ方
『では第一問!! デーデン♪
内臓に癌がある患者が病院に緊急搬送 医者は放射線療法を試みます
しかしここである〝選択〟が迫られました
・強い放射線は癌を治療可能ですが内臓を酷く傷付けます
・逆に弱い放射線は内臓の損傷は抑えられますが癌を取り除く確率は低いです
この場合なら織田君はどう判断しますか?』
「なっ……」
一見医学界の知識を要する難問 織田は萎縮してしまった
『ではこの問題は保留で次の問題です
第二問 デーデン♪♪
大きなお城に 今まさに自分の国の兵隊が前方から押し寄せる戦いが起こっています
迎え撃つ敵の国には兵隊が周囲を取り囲んでいました
国の周りはお堀があり 自分達は橋を架けなければ向こうに渡れません
そこで自分達が持っている物は 既に造られて掛けるだけの桟橋が二通り
大きめの橋が一本と小さな橋が八本あります ここで選択です
・大きな橋を掛けた場合 城は落とせますが退路が豊富な城の主が逃げる可能性は高いです
・小さい橋を掛けた場合 主は退路を失いますが城を落すのが困難です
この場合なら織田君はどう判断を下しますか?』
「…………」
織田は考えていた 周囲の皆は不思議と彼に目線が向く
「小さい橋の方です…… 力を分散させても戦力は変わらないんだ
一点に集中させるより確実に攻めて行って主を倒す方が…… あぁっ!!」
『ではここで第一問の答えをどうぞ!!』
「放射線を分散させる…… そんなことが可能なのか分からないですけど
もしくは段階的に分けて放射線を放って内蔵に負荷を掛からないようにするとかですか?」
『文句なしの大正解ですよ
線量を分けて正常細胞とガン細胞を攻撃したとして
ガン細胞よりも正常細胞の方が修復能力が高いんです
この要領で修復と照射を繰り返せばガンは消えて正常な細胞だけが残ります
これを〝分割照射〟と言います
さらに正常細胞になるべく放射線が照射されないようにすることも正常細胞を守る重要な方法
多方向から照射することにより正常な臓器に照射される線量を分散する
これを〝多門照射〟と言うんですねぇ…… いやぁお見事です織田君!!』
「すげぇ……」
周りからは拍手喝采
教員の中には涙を流している様子も見れた
当の織田に関しては目の前の安斎が眩しく輝いている
『視点を変えることで見えて来る真実
俺はこの楽校を自分を成長させる上では素晴らしいシステムだと思いました
……まぁちょっと先生の負担も大きいですが
自分で壁を乗り越えられる勇気は社会に出てからの財産です
居心地の良さを糧にして 将来の実になる自由性を育んで下さい
以上で俺の話は終わりです…… やべっ探偵らしいことほとんど言ってねぇ』
安斎がお辞儀をすればまたもや拍手が飛び交った
響かない子には響かず終いだったが それでも何かを残す為に熱弁はするのだろうと
壇上を下りる安斎は必要最低限の仕事をしたと自分に納得させていた
昼休みの職員室では一躍ヒーロー扱い
さりげなく話し掛けてくれる教師は前日と全く違う
「いやぁ一時はどうなるかと思いましたが……」
「織田君が不登校になってここへ来た理由は同学年の人間不信による逃避ですよね?」
「えぇ…… よくお調べで」
「探偵ですのでね 中西先生に頼んで生徒全員分の事情は把握してました
織田君は別に交友関係に荒みを覚えてしまっただけで勉強が嫌いな訳じゃありませんから」
「……どうやら 一般の外部講師に払うお金より少し多めにする必要がありますね」
「いやいいですよ 芽神から貰った十万の内 講師としての経費も込みと考えてます」
「働く者に報酬は当然です 社会の義務を全うさせて下さい」
「……では楽長の気の済むままに」
職員室から退室する安斎は ドアを閉めるなりニヤけ顔を晒した
ーー今の俺には…… 昔自分が欲しかった姿がある
思わず童心に帰ってしまう気持ちを抑え
五時間目を担当する生徒のもとへと直行した
今回担当する生徒 それは昨日会えなかった高校生 溝口遙人だった
「あっ……!!」
「きっ…… 昨日はその…… 逃げてすみませんでした!!」
「いやいや大丈夫大丈夫!! ……そりゃぁ知らねぇ人間が急に担当になったら怖いよなぁ」
「体育館での安斎先生の授業…… 痺れました…… 僕でも先生みたいな人になれますかぁ?!」
「あぅおっふふぅ……!!!?」
今までの人生で向けられた事の無い言葉 故に重い
そして照れ臭く 遂なにかで顔を隠したいが為にジャケットの袖で顔を覆ってしまった
それを教室の窓越しの廊下からニマニマと芽神はご満悦に見ていたのだ
安斎が生徒に教えられるのはあくまで自習する上での補助
驚きなのは ほとんどの生徒は中学・高校ともなると
自分がするべき勉強の範囲を自分で構築していたのだった
改めてここの教員達の手腕には脱帽せざるを得ない
彼の仕事は集中力が切れてしまった生徒の雑談相手
だが侮ることなかれ 彼の持ち合わせる雑学は生徒一人の知見を有意義に広げる
探偵として対象者を分析し その人にどんな話題を持ち掛けるかはお手の物だった
「溝口君は器用だね 俺との会話は言わば雑念が混じる状態なのに」
「そうですねぇ…… どんな時でも余裕が無かった僕には信じられない事です」
「やるべき事が分かっていてちゃんと机に向き合っている証拠だ
容量に隙間が空いたから外からの情報も取り込めるんだ すげぇじゃん!!」
「エヘヘ…… そうなんですかねぇ……!!」




