第67話 棘岬高等学校
頭が置いてけぼりの椎野は昨日の安斎との会話を思い出す
「俺と沙希がメディアに顔を晒したのも奴等の狙いなのか?」
「おそらく本家に認知される為……
子供は覚え辛くても何度か沙希さんは社交場に顔を出していただろうし
……まぁそれが駄目だったから四季園蕾を誘拐したってのが今まで創ったシナリオだ」
次に松原が質問する
「よぉ じゃぁ四季園蕾の親御さんの保険金疑惑はどう解釈するよ?」
「元々発信源は松原さんっすよ? そっちでネタをあげて下さいよ
勝手な予想で良いんならそうですね…… ただでは転ばなかったとか?」
「実際に誘拐はされたが 本家の資金調達の件もある
だからどうせならピンチをチャンスに変えちまおうってか?」
「金稼ぎが上手い人間の図太さは計り知れませんからね~~
誘拐保険に目を付けることで娘の奪還と跡取りの座を奪うことで一石二鳥ですしね」
「……そこだな 実際に身代金の話が出てねぇのに保険屋に何の助けを乞うのか疑問だったんだ」
「えぇ…… ですが憶測ですのでちゃんと裏取って来て下さいね!!」
「あぁブンヤの知り合いにこの話をしてみるわぁ!!」
まるで記者の如く松原は病院から出て行ってしまった
「じゃぁ俺も病室に戻るわ……」
「猛省しろよ椎野…… そしたらもう一度赤坂沙希さんに遭わせるチャンスを与えてやる」
「……お前にそこまでの力ねぇだろ安斎」
「あの人と約束したんだ…… 赤坂舞香ちゃんを連れ戻すって……
そん時にお前もセットにしてやってもいいぜ?」
「……会えるとしても何年後だろうな」
椎野を置き去りにした事に気付いた松原は慌てて戻り
ついでに言い忘れていたことを安斎に伝える
「そういや弱竹亜純との接見の件 何とかオーケーが出た」
「本当っすか? よく許可降りましたね」
「大変だったんだぞコノヤロー 俺が付き添うが問題ねぇな?」
「えぇそれで通るなら」
松原は車椅子の椎野を押して今度こそ病室を出て行った
「弱竹亜純は誘拐事件にどう関係してくるのでしょうか……?」
「俺は二つの財閥のいざこざの外側にいる第三者だと睨んでいる
まぁでも行ってのお楽しみだな!! ……お前はこれからどうすんだ?」
「所長が入院してるからまた独断で調査ですねぇ」
「目星付けたのか?」
「弱竹さんに会うってことなので…… 棘岬町に戻って彼女が赴任していた高校に出向いてみます」
「……よく知る人間がいればいいんだけどな」
「事務所からも近いですし こっちはゆっくりやらせて貰います」
「分かった 日取りが決まれば連絡する」
ここからは再び柴塚のターン
一旦家に帰れば 替えのスーツに身を包み
丁度放課後を迎える棘岬高等学校へと足を運んだ
毎回遠出に苦しんでいた為 近場で調査出来るのは久方振りだ
「まさかここでの毒殺事件が無関係じゃ無いとはねぇ……」
今年の初めに起きた大きな事件にも関わらず 校門から見える校庭の空気は他校と変わらなかった
さっそく職員室にお邪魔する柴塚を教員が出迎えてくれる
「お電話してくれた柴塚久留美さんでしょうか?」
「はいそうです…… 受話器を取ってくれた嘉村先生ですか?」
「えぇそうです ご用件は電話の通りで?」
「実はこちらでの依頼を進めた先で 弱竹亜純さんの事を調べなければならなくなりまして……
赴任されている先生達の間でもまだ消化し切れていないと思います
ですので彼女をよく知る方からお話を伺えればと……」
「それでしたら…… 私がお請けします
他の人達は部活の顧問やら先に帰ってしまわれたので……」
「あっ…… よろしくお願いします」
柴塚は校舎を案内されながら嘉村と二人で話し合う
「それにしても…… あの弱竹先生があんな悍ましい事件を引き起こしたなんて……」
「まだ最近の出来事ですよねぇ…… 嘉村先生から見て意外な人物だったんですか?」
「よく二人でお酒も飲みに行きました 人付き合いも良く……
ですが娘さんが亡くなられてから 明るい彼女は消えてしまいました」
「確か…… ゴミ処理場で遺体が見つかったんでしたよね?」
「死亡推定時刻のその日 高校ではボランティア活動をしていたんです
弱竹先生も母子家庭だったので 娘さんを連れていらしての参加でした
ですが日が暮れても万里紗ちゃんは帰ってこず 見つかったのは暗くなる頃……
未だにその犯人は分かっていません」
「だけど…… 弱竹さんは犯人を決めつけてあの事件を起こした……」
辿り着いた場所はかつて血の海で溢れかえった教室
気味が悪いという理由でここだけポツンと空き部屋になっている
「誰もここには立ち入っていません まぁ警察の方々が調べ尽くしたと思いますけど」
「そうですねぇ…… パッと見て何かが分かる筈も……」
綺麗サッパリとした空間に求めるのはあまりにも乏しい
ふと教壇の机の中を覘いてみれば 中には卒業アルバムが置かれていた
「毒殺された何名かの生徒が率先して卒業アルバムを作成していたんですよ
去年の12月頃から力を入れてくれていた推薦組の子達で……
楽しかった思い出がアルバムだけを残してるなんて 虚しいですよねぇ」
「……積極的な生徒が多かったんですね」
柴塚はアルバムを一枚一枚捲って拝見していた
最後のページには 本来色紙の役割を果たしたであろう真っ白いページだけが
戻って生徒一人一人の名前と写真を見ていると
「……ん?」
「どうかされましか柴塚さん……?」
「……四ノ海泉太郎?!」




