第65話 千切れた尻尾の情報量
6月16日 前と同じく入院した北陰市内の病院
「ここは…… どうなったんだっけ俺?」
「安久谷のヘリから落されて 左腕を骨折…… あとは所々のケガで済みましたよ」
「そうか…… イテテ……」
無理に起き上がる安斎を柴塚はハリセンで頭を叩く
「もうちょっと考えて行動して下さい…… ヘリに飛び移るとかその後のプランとか無いですよね?!」
「ちょっとだけ安久谷達の良心が助けてくれるかなって思ってたが甘かったわ……」
「甘々です…… まぁ昨日は私も覚悟の上だったのでこれ以上は何も言いませんが……」
「そうだなぁ…… 久々に命を掛けたな……
……あぁそうだ椎野はどうなった?!」
「同じくこの病院に入院してますよ?
目覚めた情報は来てませんが 今は松原さん達が近くにいると思います」
「アイツに確かめたいことがある…… うぉあ痛ってぇ!!!!」
「全身負傷してるんですから歩けるわけないじゃないですか……
15メートルからコンクリートに落されたんですよ? 骨折だけで済んで奇跡と医者は言ってました」
「丈夫なのが俺の取り柄だからな…… じゃぁ車椅子で連れてってくれ」
「嫌です 私は所長を甘やかさないって決めたので」
「えぇ……」
ハンドリムが付いている自走用車椅子で院内を移動する安斎はどこか楽しげだ
「不謹慎発言だけどよ 自動で上下に動くベッドや自動で走る車椅子に憧れていたんだよなぁ!」
「良かったですね~~ 乗れて~~」
「特撮ヒーロー物にロボット出てくるだろ?!
昔はあれに乗って見たかったんだが 現実に存在してなくて失望したもんでよ
だけど病院に行く機会があって 自動で患者をサポートしてる機械の数々を見つけては……
興奮したことを今でも覚えてるぜ」
「私はその後の時間帯にやっていた 女児向け変身アクションアニメを見てたので共感は出来ません」
椎野は退院が可能な状態になれば 身柄は警察のもとに引き渡されるので
贅沢にも安斎と違って個室に入院させられていた
院内は当然禁煙なので 松原は廊下の隅っこで貧乏揺すりをしている
「煙草吸えなくて辛いっすねぇ松原さん」
「おぉ目覚めたか…… お前は怪我してるから吸う気になれねぇのが羨ましいよ
って最近お前怪我ばっかりして入院してるよな 俺の実家の猫かってくらいだ」
「椎野は目覚めましたか?」
「あぁ…… 少しだけ会話が可能だったもんで粗方聞いた
別の病院で殺された新垣清太のことも自白したよ 学生時代の報復だってよ」
「建守と同じか…… 荒んだ心で奥さんや娘さんに暴力振るってたって訳か」
「前にお前が向かった赤坂家だったか……?」
「えぇ俺もそのことでちょっと椎野と話したいんです 許可貰えますか?」
「分かった…… 俺も同行する」
病室に入ると 外を虚無の表情で眺めている包帯グルグルの椎野
「気分はどうだ?」
「互いにただでは済まなかったな安斎…… 気分は最悪だ
まぁあぁいう組織にいたんだ 裏切られるのが意外って事もねぇよな」
「……聞きたいことがあるんだ椎野 赤坂沙希とは連絡取ってるか?」
「俺が気が付いたときにはもう荷物まとめて出てったんだぜ? 電話に出るかっての……」
「まぁ俺がそれを促したからな ぶっちゃけお前は褒められた人間じゃねぇ」
「ハハァ…… 入院中に罵声を浴びるのって辛ぇな」
「まぁそれは過ぎた話にしとく 赤坂は奥さんの方の性なのか?」
「……俺は実家に勘当された身だ
大人しかった子供が急に荒れに荒れて親も疲れたんだろう
家を追い出された後にネカフェで沙希と出逢い
家出して来たアイツと一緒にあの家で暮らし始めたんだ
俺も親が嫌いだったから とにかく自分の情報を向こうに飛んで欲しくなかった」
「だからあっちの苗字を借りたのか……」
「……何だよ?」
安斎は少し黙り そしてまた口を開く
「お前に声を掛けてきた闇バイトの奴とはどこで知り合った? 今度は話してくれるよな?」
「別に…… 競馬場だよ 負けて頭抱えている俺にあの袴田が近付いて来たんだ」
「袴田って安久谷の腰巾着の?」
「今回ユザブルに入ったのも アイツが俺の連絡先を知っていて誘ってきただけって話だ」
「……引っ掛かるな」
安斎が何に直感が働いているのか まるで分からない柴塚は聞いてみる
「何が引っ掛かるんです?」
「安久谷は自分を四ノ海の中間管理職って言っていた
そんな奴の右腕が態々交渉役なんて下っ端の仕事をやるか?
しかもここいらじゃ攫い子・受け子・リクルーター・指示役なんてのも数多く存在していた
普通はそいつらに任せて自分達は安全な場所にいた方がマシ
だから首謀者なんてのは簡単に捕まりにくい そうですよね松原さん?」
「まぁ都合の良い芋づるなんてそうねぇからなぁ……
こいつが首謀者かと思えば もっと裏にはヤクザやらマフィアやら権力者が絡んでいて
そこで尻尾を切られるなんてのはよくある話だ 奥の黒幕には届かないって奴だな」
彼は頭を働かせた すると思いもつかない指示を柴塚に伝える
「なぁ…… 赤坂家を調べてくれないか?」
「それなら…… 家族構成はそこの椎野さん含めて三人……」
「いや違う 〝実家〟の方だ」
柴塚と松原は互いを見やって首を傾げるが
彼女はすぐにパソコンを開き 松原は部下達にも協力を促した
ただ一人 椎野だけは置いてかれている
「何なんだよ一体…… 教えろよ安斎」
「まだ仮定の段階だから上手く言えない
因みに誘拐された後の募金活動は誰の提案だ?」
「……袴田だよ 儲かるし手を貸してやるって言われたんだ
取り敢えずメディアに顔を晒してくれって頼まれて んで手数料を少し寄越せって条件でやった」
「そうか…… じゃぁ間違いないかもな」




