第6話 講演
地下通路の出口は楽校から少し離れた資材置き場だった
校舎の背後に構える裏山を 道なりに沿って一本道の先にある場所
「段ボールはリアカーで運びますので積んで下さい」
「もしかしてこのまま楽校に?」
「えぇ…… 運動不足解消です 勿論強制ではありませんので」
芽神は恐怖故にヘトヘト状態
なので前方を楽長が 後方から安斎が押して校舎まで戻った
「毎回これじゃ大変じゃないっすかぁ……?」
「毎回じゃありません 必要な時に限りです 他の教員達は手一杯ですからねぇ
私の仕事は主にフリースクールの経営 一応民間ですからね
まだまだこの業界は世に広まっていません
ですから看破してくれるスポンサーは限られていますし
いつも試金石として試されるんです」
「保護者達の金だけじゃ足りないと?」
「教員達の給料は通常より好待遇に設定しております
当然です…… それは安斎先生も見ている通りで
それにうちの楽校には孤児も多いのです
最近では赤ちゃんポスト出身者の入園も受け入れ始めています
一応それらの場合に限り 公的機関から少しばかり援助をして貰ってますが……
正直微々たるものです」
「大変なんすねぇ」
「金の流れは一通ではありません
一般の小中高大への入学・編入への資格を獲得した生徒を送り出した場合
入学先・編入先の学校から信頼を得て連携という形でこれまた援助金が入りますからね
あまり生徒を経営の道具にしたくはないのですが…… 嫌でも無視は出来ません」
校舎に近付くにつれて二人の息は上がり 後半は無言で懸命に引く
「頑張って下さい先生方……」
「おうよ…… お前は疲れてないのか?」
「疲れました…… 地下空洞なんて恐怖でしかありませんでしたもん」
「そうか…… そうだよなぁ 無理せず休んでもいいんだぞ ですよね楽長?」
「えぇ勿論です」
目的地目前の商店で休憩をとる三人
楽長は気を利かせて 店の前の自販機までジュースを買いに行った
「ハァハァ…… 気付いてますか先生」
「ゼェ!! ゼェ!! 今は何も考えられねぇ!!!! 教えてくれ!!!!」
「合わせ鏡の怪談…… クリアだと思います」
「何だってぇ……?」
「地下通路ですよ 山は墓石の代わりでしたよね?
今で言えることなんですが あそこは兵隊の魂が彷徨っていた場所なんですよね?
……つまりあそこはあの世と言ってもほぼほぼ同義なのかと進言します」
「まぁ他に解決方法は思い浮かばねぇからそれでいいと思う……
ただ幽霊は目視していないんだが それはスルーか?」
「見えない物は見えません ただ見えないだけでそこに幽霊が存在していれば
目視していないだけで視界には入っている つまり見ているって事になるのでは?!」
「屁理屈だが…… まぁ保留も大事だ 最終的に東海林妖が現れればいいんだからな」
息を切らしながら今回の怪談を半ば無理矢理に完結させる二人
缶を抱き寄せて戻って来た楽長からジュースを受け取り
生き返ると同時に 残りの力を振り絞って楽校へと戻った
到着して仰向けで寝転がる安斎に 楽長は今日のスケジュールを渡す
「昨日の職員室会議で打ち合わせた事は覚えてますね?」
「えぇ…… 大丈夫です」
「講演会は四時間目です それまで休んでいて下さい」
「お言葉に甘えます……」
職員室の向かい側にある談話室にて爆睡の安斎
今日のイベントである講演会では 彼が体育館の壇上に登って話すのだ
それぞれの三時間目が終われば 次第に参加する生徒や教員達が体育館に集合する
驚いたのは全校生62人の内 57人が集結した事である
いつもお堅い講師のお堅いお話とは違い 漫画やアニメに登場しそうな探偵となれば
不思議と興味が湧き出てくるのも無理はなかった
『本日は特別講師の安斎賢也先生に来て頂きました
彼は隣町に事務所を構える探偵さんです 皆さんがイメージしている職業の方ですので
貴重な体験だと思って 有意義な時間を過ごしてみて下さい』
楽長の挨拶が終われば 壇上にいる安斎は全校生徒に向けて気さくに挨拶から始める
『初めまして…… 安斎賢也です
俺はこういうのに慣れておらず…… 正直心臓バクバクです
ですので事前に話すことを二つに分けて来ました』
「「「「「 ………… 」」」」」
『まずお話しするのは とある有名な宇宙飛行士が公演でよくやる三次元アリというお話です
簡単に説明すると まず一列に歩くだけの蟻の行列が前方に直進しています 一次元アリですね
すると前に大きな岩が置かれて 蟻達の行く手を阻んでしまいました
決められた方向にしか行けない蟻さんは絶対絶命です そんなところに
岩を横から回って進む蟻さんが現れたのです 二次元アリの登場です
次に天高く聳える崖が現れました またしても蟻さん達はピンチですね
すると今度は崖を登る蟻さんが現れました 三次元アリの誕生です』
「「「「「 ………… 」」」」」
『このお話は何を伝えたいかと言いますと
宇宙という地球の外側から 地球が抱える問題などを調べる
上からでも下からでも視点を変えることで 見えてくる解決策がありますよと
そう言いたい訳ですね
……では一つ目のお話は終わりです これから二つ目の話をします
中学三年生の織田努君 立って下さい』
「えっ……?! えっえぇ……」
唐突に指名された生徒は思わず 教師陣の方へ助けを求める視線を向けた
「安斎先生…… さすがに生徒一人を名指すのはちょっと……」
『これから皆さんには…… ちょっと三次元アリになって貰います
楽しいクイズバトルだと思って下さい 如何でしょう織田君? 参加しますか?』
「っ…… 参加します」
何故か乗り気に出た織田に教師陣は目を丸くする




