第5話 合わせ鏡
5月22日 明朝 トアル探偵事務所
「おはようございま~す…… うぉ?!」
「おう……」
「昼まで寝てる所長が早起きですね~~ 今日は霰ですかぁ??」
「こっちの依頼は運悪く継続になっちまった……」
「えっ?! 本当にお化けが出たんですか?!」
「違うがまぁ…… 俺の悪運の強さは怪異っちゃぁ怪異だよ」
「ふぅん…… まぁ互いに別件の依頼で忙しいって良い事じゃないですか!!」
「そっちはどうなんだ…… どうせ進展なんて無いんだろ?」
「うぐぅ……」
「だからやめとけって言ったのによぉ……」
「もう調査費用とか諸々の前金は貰っちゃってるんです!!
中途半端に投げ出せませんよ!!」
柴塚が喧嘩の口火を切らないでソファーに突っ伏すときは
大抵ストレスと疲労が同時に溜って気力が無い時だと安斎は知っていた
それ程まで彼女の方の依頼は難航しているのだろう
「手伝ってやろうか?」
「遠慮しま~~す 難事件を解決して私に足向けて寝られないようにしま~~す」
「……依頼報酬はいくらだったんだっけ?」
「二千万……」
「ハッ……!! 俺の百倍以上か そりゃぁ物にしたいわな」
柴塚と入れ替わりで仕事に行く安斎
昨日にメールが届き 芽神から明朝集合の連絡があった
「朝早いが条件の怪談でもあるのか? 何だってこんな時間に?」
「おはようございます安斎先生!! 朝の内にやらないと怖い奴なんです」
朝の肌寒さが堪える季節
互いに着込んできた二人は早速校内へ
「先生は合わせ鏡はご存知ですか?」
「昔からある奴だよなぁ 対になる壁に鏡を飾って覗けば
奥行きのある無数の空間が生み出される不思議な体験
目に見える分 一番怖い怪談だよなぁ
確か数居る自分の中に一人だけ死者がいて異世界に引き摺り込むだったっけ?」
「風水では気が滞留するらしいですね」
特定の場所の指定は無い
芽神が持参した大きめの化粧鏡と女子トイレの鏡があれば成立する
「じゃぁやってみますね?」
鏡を掲げてトイレの鏡と対の位置で留めた
「……まぁ何も起きねぇわな しかし久し振りに見たがやっぱ気味悪いな」
「ですねぇ~~……」
「これは他と比べると化学的に証明されてる奴だからなぁ
この場合の実証成功は異世界に行く事か? 魂が抜ける事か?」
「う~ん……」
暫く鏡を覗いていると トイレの外から足音が聞こえた
それは徐々に近付いて来て
「おや安斎先生と芽神さんじゃないですか?
いけませんなぁ先生 女子トイレにズカズカ足を踏み入れるなど」
「楽長先生…… おはようございます」
朝一番で校舎に入るのが日課になっていた楽長は顔に出さずも驚いていた
「でも丁度良かった…… お二人に手伝って貰いたいことがあります」
安斎と芽神は顔を見合わすが取り敢えず彼の後ろを付いて行く
場所は隣の男子トイレ なんと奥の掃除用具入れの個室の床にはハッチが
「怖がる必要はありません 私に付いて来て下さい」
楽長が先に行き 次に安斎が降りる 最後に芽神
下は真っ暗で楽長が三人分の懐中電灯を用意してくれた
「ここは通路ですか?」
「えぇ…… 教師達は皆知っていますが安斎先生にはまだ知らせてませんでしたので」
暫く通路を下る 感覚的に下り坂なのが分かった
楽長はスタスタと奥に進むが 安斎は警戒し 芽神は安斎の裾を握って付いて行く
「芽神さんの依頼の方の進捗はどうですかな?」
「まぁ運に助けられて何とか前向きです」
「それは良かったです 何の成果も無く我が校の手伝いだけさせては心苦しいですから」
「……そろそろここの説明の一つでもあった方が気も楽なんですがねぇ」
「おっとすみませんでした」
楽長は通路のあちこちを照らしながら説明する
「ここは昔 戦時中に兵士を埋葬していた場所なんです」
「ほぉ…… ほぉ……」
「驚かせてすみません 山は墓石の代わり…… なんてのがここら一帯の昔の考え方でして
実は暁風楽校の土地と物件を安く手に入れられたのは
曰く付きに助けられた面が大きいのです それくらい資金に余裕を持って開業するのは困難でした」
「……んでここに来た理由ってのは?」
「安心して下さい!! 勿論この先に頭蓋骨が溢れかえってるとかは無いので
仏さんが埋まっているのはこことは別の入り口です ここは備蓄保管庫として使われていました」
「そぉれを先に言って欲しかったぜぇ」
「まぁ大昔の事なんで 実際何処で何が行われていたのかは定かではありませんがね」
「飽きねぇ会話するぜぇ楽長さんよぉ……
退屈な朝礼の挨拶をする全国の校長に聞かせてやりたいぜ」
突き当たりの扉を開けると 中に入れば古い物から新しい物まで荷物が収納されてる部屋に出た
古い物で1944年記載の箱も置かれている
「ここは気温が一定しているので何かと保存が効くのですよ」
「んで? ここで何をするんだ?」
「うちは個別主義の授業形態なので そうそう校舎に保管出来ない教材もあるのです
例えば理科の薬品とか 家庭科で使う食材とか まぁあとは文房具とかですね
寮生活の生徒さんには予め親御さんから金を頂いて こういう必需品を支給できる形にしてます」
「まさか全部……?」
「三人で地上に持てる分だけ運びますよ」
それぞれ担当を決めて段ボールを持ち上げる三人
一番危険な薬品を楽長が持ち 一番軽い文房具を芽神が
そして一番重い食材を安斎が持つ羽目になった
「それでは地上に上がります お二人共こちらへ」
帰りは炭鉱採掘などで使われているエレベーターで昇り
地上に出ると朝日が嫌みったらしくその日差しを自分達に向けていた




