第52話 継受と奮起
6月14日 北陰市内の葬儀式場
セレモニーのスタッフが棺桶に花を添える仏さんは門脇米
参列者は0人で無縁遺体として強制的に行われていた こういう場合の出費は自治体が負担だとか
そこにサングラス姿で現れたのは安斎
世話になった恩を返す唯一の手段が 無人の席に座ってお経を聞くこと
お坊さんの声だけがこじんまりとした会場に響き渡るが そこは有人だろうと無人だろうと関係ない
ーー守ってやれなかったな…… すまなかった
するともう一人 制服姿でやって来たのは
「確か…… 井出葉月さん?」
「安斎先生……?! 入院したって聞いてたんで驚きました……」
スタッフの声掛けで棺桶に花を添えさせて貰う二人
顔は見れなかったが両手を合わせて弔う
安斎はついでで他に寄る所があり
井出も彼に同行すると言ってくれた
その道中 中々収まらない心境を安斎に打ち明ける
「妻夫木も日野も…… 寮生のほとんどが行方不明になりました
そして門脇さんが亡くなって…… ホント気持ちの整理がつきません」
「楽校はどうなるんだ?」
「暫く休校と連絡が入りました 私の様な孤児は余所に移されます
噂では中西先生が楽長代理になってくれるなんて話もありますが……」
「……河上は無事だぞ」
「えっ香里奈ちゃん?! 良かったぁ…… 不穏な情報しか入って来なくて……」
「……井出さんは芽神のことは何か知らないか?」
「同じく行方不明扱いです…… もう何が何やらで……」
安斎の目的の場所までまだ距離があるので
途中のコンビニでお昼を奢って上げた
「もしかして誘拐なんですかね…… 安斎先生……?」
「…………」
イートインで昼食を済ます二人
寮で生徒のお姉さん的立場だった井出の覇気はどこにもない
「どうしてそう思うんだ?」
「……私もそうだったんです 寺田さんに誘拐される筈でした」
「えっ?」
「部活練習の集合場所を変更するって事前に楽長から言われてまして
そして待ち合わせの場所に寺田さんがいて自宅に連れて行かれました
だけど寺田さんは取り止めてくれたんです ……それから間もなくして殺されてしまいました」
ーー門脇さんに見られた後の出来事か…… おそらく5月23日
楽長にやめたいと言って そしてそのことを安久谷に報告され
後日 毒殺されて自宅の砂壁に埋められた
「変ですよね…… 呼び出されて手にロープまで持ってたんですよ寺田さん
なのにそのまま帰れって 普通でいられるわけないじゃないですか……」
「そうだな……」
「でも今になって助けてくれたって思えるんです 今までやった事は帳消しになりませんが
後日行われる寺田さんの葬儀にも行こうと思ってるんです
すみません…… 誰を信用していいのか分からなくて安斎さん達に相談出来ませんでした」
「……彼は孤児だったそうだ だけど無縁じゃなくなったな」
容器をゴミ箱に入れれば再び移動再開
「スタッフに聞いたんだが 門脇さんは両親と絶縁していたらしい
火葬も埋葬も拒否していたクセに 遺留金だけは相続したいと揉めてたんだってよ」
「酷い親御さんですね…… 親がいるだけマシって思ってる時期もありました」
「子を愛する親なんて寓話だよ 俺の両親も俺を捨てて散ったしなぁ」
「世の中そんなんばかりじゃないですか……」
「だからかなぁ…… 門脇さんを見てて あぁこういう人が聖母なんだって思わされた」
「……私達が幸せ者だったんですね」
ハンカチで涙を拭く井出に少し笑顔が戻った
そして到着した場所は墓地 そこの端に断つ墓石の前で安斎は屈む
「人の死を身近に感じたとき ふとここに来ちまうんだ……」
「柴塚家の墓…… えっ柴塚って柴塚さんの?」
「そう…… 数日限りの俺の相棒だった人だ その奥さんも眠っている」
「柴塚さんの両親もいなかったなんて……」
「俺達みたいな境遇の人間って多いのか少ないのか知らんけど……
そういう苦しみを知った人間が同じ目に遭ってる人間を助けてるんだって熟々思うよ」
「…………」
「寮母だった門脇さんも 盛り上げ役の日野や妻夫木も……
女子をまとめてた井出さんも…… 俺は尊敬する」
「……ありがとうございます 安斎先生」
「アイツらは死んだと決まった訳じゃない 俺が助け出す」
「はい…… よろしくお願いします」
井出をバスで見送り
事務所からコソコソとパソコンを持って来た安斎は河上宅へ帰った
画面を起動すると
畑仕事を手伝っていた柴塚や岳斗が合流する
「なに見とるんやぁ安斎ちゃん?」
「思い出の記録だよ」
安斎は一つのファイルを開き 動画を再生した
それはとあるドラレコの映像記録で動画内は慌ただしかった
『てめぇ舐めた煽りしてくれるやないかい!! 俺にはドラレコがあるんだぞボケェ?!』
『……それって車の前方ですか? それとも後方ですか?』
『ちゃんと後方じゃぁ!! おぅ…… はよ慰謝料出せやぁ?!』
『じゃぁこのやり取りもしっかり映ってるんですね?』
『あぁ??』
『脅迫罪と器物損壊です』
『何だと?! てめぇが先に喧嘩売って来たんだろうが!!』
人物は映像に映らないが 声を聞いただけで柴塚は反応出来る
「これって…… 所長とうちの父ですか?」
「大家さんに頼んで映像を残して貰ったんだ…… 久し振りに見たくなってよ」
「何でこんなものを持ってるんですか…… うわっ殴り合ってる音がする……」
「でもこれのお陰で…… 他人の命を軽視することは無くなった
この出逢いが俺にとって探偵を志すスタートダッシュだったんだよ」
「……自分の父親が殴られている娘の気持ちも察して下さいよ」
「お前の父親は最愛の人を亡くしても泣き寝入りしなかった……
今はこの人からその力強さを貰ってる」
脇から会話を挟んで来るは岳斗
「デュヒヒ…… 安斎ちゃんにとっての原動力なんやなぁ!!」
「あぁ…… 俺が憧れたオッサンだからなぁ……」
「あぁ分かるでぇ安斎ちゃん!! 漢って生き物はそう来なアカン!!!!」
「あのぉ!!!! 私のお父さんバチボコにやられてるの見せられてるんですがぁ?!!!」




