第4話 男子トイレのオトコンナさん
薄暗い幽暗の校舎はノスタルジックに拍車を駆ける
まだ点灯していない懐中電灯を持ちながら
安斎と芽神は床が軋む校舎を探索していた
「まだ職員室に先生達がいるので 出来れば見つかりたくないですね」
「最初はどの怪談から行くんだ?」
「男子トイレのオトコンナさん」
「……まぁ一番片付けたかった奴だから助かるわ
オトコンナって男の娘ってことでいいんだよな?」
「それしかないと思ってる」
トイレは各階層に男女一つずつ
教員に見つからないように三階から順番に調べ始める
「そういえばお前の願い事は何なんだ?」
「興味ありますか?」
「いいや…… 嫌なら詮索はしねぇ」
「ある人を殺して欲しいの……」
「おっと穏やかじゃない」
「なんてね……! でもこの町の伝説の正体が物騒だから」
「東海林妖か?」
「そうそう…… 七不思議を全て見た者には東海林妖という怖い妖怪が現れて願いを叶えてくれる」
「さらっと濁されたな……」
「正直…… 怪談を紐解いた程度で願いが叶うなら ここに集まる人間の数なんて今の万倍でしょ?」
「なのに十万出して俺の所に依頼に来たってか?」
「はい余計な詮索はしなぁい!! パワハラでぇす!!」
「……うちの相棒に引けを取らない舌で飽きねぇよ」
前に押すタイプの扉を開けて男子トイレの中へ
誰もいない薄暗い室内は不思議と怖さを掻き立てる
「夜の風呂場やトイレって何でこう不気味なんでしょう?」
「俺はタイルが関係してると思うなぁ 間に溝があるから集合体みたいなもんだろ?」
「……ここにはいなさそうなので二階に行きましょう」
「本当に怖いのはオトコンナじゃない何かがヌッと出て来た時だよな」
「……本当に訴えますよ?」
トイレを出た時には既に日が沈みきり
互いに懐中電灯を点けて確認する
「この調子だと一個目で依頼がオジャンになりそうだな」
「そうですね 見つからなかった怪談で諦めが付いた時
依頼は途中達成で構いません 十万円も好きにして下さい」
「……因みに他の怪談は目星が付いているのか?」
「そうですねぇ 全部ではないですが……
使われていない公衆電話は近くの山の入り口にある古びた奴が可能性大ですね
そして人生二周目の教員は……」
通路の角を曲がる二人に 正面から別の灯りが差した
「「 うわっ!! 」」
「うわぁ……!! ……って芽神か こんな時間に何やってるんだ」
「日下部先生…… 驚かさないで下さいよぉ」
「隣にいるのは 今日来たっていう安斎先生か?」
教員が胸を撫でてて心を落ち着かせている
「一応ここへは探偵として来ているんです
依頼内容は言えませんが今は調査中とだけ言っておきます」
「七不思議を全部見つけるんです!!」
「……探偵の守秘義務とは」
「まぁ芽神も寮生活だから心配はしていないが校則違反だ……
普通の学校より数少ない校則なんだから夜中に楽校への侵入は改めてくれ
……申し遅れました 俺は日下部陽です」
ここで生徒を放って置くわけにはいかないので
日下部も同行して怪談探しが続行された
「随分と優しいんだな? 校則違反なんだろ?」
「生徒の意向を尊重してこそのフリースクールですからね
それに本当に怪異が起これば我々が対処しなければ」
「……日下部先生は怪談を信じる派ですか?」
「えぇまぁ…… スピリチュアルな物語は好きでして
現実でも科学じゃ証明されない事象とかあるでしょ?」
「俺は探偵なんで そういうのを意識してしまうと仕事に支障が出ますなぁ」
そんなこんなで二階のトイレに到着
しかし造りは同じなので 三階と然程現場は変わらない
「うめき声とかあれば話が早いんだがなぁ……」
「そういう場合って大体悪霊が主じゃなかったでしたっけ?
私は気軽に挨拶してくれた方が助かります」
「不快な音ほど 実は何かの物が軋む音でしたってあるだろ?
結局そういうのが真実で だが正体に辿り着けばクリアって事にならねぇか?」
「そうであったとしても私は納得出来ませんねぇ 到底」
続いて一階 気が付けば日下部と一緒に夜の校内を巡回していた
彼は荷物を取りに行くと言って安斎達と別れる
「人生二周目の教員の心当たりはあの日下部先生です」
「怪談好きそうだったしなぁ
そういうカルト思考な人間はある意味で生徒達に好かれやすい」
「じゃぁトイレに入ってみますかぁ これで何も無ければ楽して大金ゲットですね先生」
「嫌な言い方するなぁ…… てか金は返すよ」
すると トイレの中からうめき声が
安斎は形振り構わず中へ入った
「誰かいるのかぁ?」
「……助けて」
安斎が個室の扉を一つずつ開けていく 後から入って来た芽神と合流すると
「……確か中学一年の花巻君?」
「おい大丈夫かぁ??」
「ふえぇ…… 怖かったですぅ!!」
すぐに日下部先生も駆け付けた
事情を聴けば 用を足している間に日が沈んで動けなかったらしい
今回の調査はこれにて終了
花巻と呼ばれる生徒は日下部が責任持って帰宅させた
残る芽神に道草食うなよと注意を促して
「まさかオトコンナの正体がお前の一個下の生徒だったとはな」
「…………」
「どうした芽神?」
「花巻君って確か〝性同一性障害〟なんですよ
小学校での環境に適応出来なかったからここに来たんです」
「おいおい…… それってここでイジメが起きてるってことか?
駄目だぞぉ? オトコンナなんて悪口は?」
「いいえ……
この楽校で花巻君へ悪口を言う生徒はいません 彼は人当たりの良い人気者です」
「……それならいいんだ」
「でも実際に男子トイレにオトコンナさんは現れた
……運が味方してると考えても良いのでは?」
「どうだかなぁ…… でも約束は約束だ じゃぁまた明日な」
「……お疲れ様でした」
安斎が手を振って帰っていく
芽神は暫く彼の去った方向を見ながら呆然と立っていた
「これが…… 悪運……」




