第36話 不意打ち
6月1日
安斎は柴塚に時雨山であった出来事を全部教えた
芽神が四季園や四ノ海の名前を口にしていた事
しかも世間ではホットな話題である弱竹亜純も含めて
「その二つはともかく…… なんで弱竹亜純まで……」
「……あと最後に〝自分を助けてくれ〟と言っていた 彼女には何かあるんだ」
事務所の階段を音も無く上がってくる黒い影
人影は建物の二階が明るい事を知って踏み込んで来る
得物を構えて扉の前で立ち止まった
「何かって何ですか?
楽校に通う女子中学生が旧財団等と関わりがあると?」
「……その答えを見つける為にもまずは寺田昌治だろ?」
扉は静かに開け放たれた
まるで安斎や柴塚の普段の開け方の様にごく自然に
入って来る顔を覆った人間に 二人が反応したのは酷く遅い
空気の馴染み方を戦法の一つとしている 完全に油断を誘った
「……誰だおまっ」
反応した時には既に得物は安斎の首元を捕らえていた
しかしその得物の正体を見て安斎は怒りを込み上げる
「木刀だとっ?!」
「…………」
寸止めで膠着する安斎と不審人物
柴塚は下手に動けないでいた
「何者だてめぇ? 何で俺にこんなマネをする?」
しかし不審人物は答えない ロッカーからこない手を取り出す柴塚は横から援護に入った
だがそいつは攻撃を振り切って窓の外へ飛ぶ 柴塚はすぐに警察に連絡しようと受話器に手を置いた
一方で安斎も窓の外に 一階の看板に上手く着地しそのまま地上へ 奴は待っている
「まさか不躾な挨拶しといて逃げるなんて考えてねぇよな?」
「…………」
不審人物は構えを取った それは安斎も同じ
「安久谷が寄越した殺し屋か?」
「…………」
「それとも四季園一派か? どっちだ?」
「…………」
「何か言えやぁ!!」
先に動いたのは安斎 不審人物の持っている木刀目掛けて蹴り上げる
奴は敢えて木刀を蹴らせてあげた そしてそのまま肉弾戦にもつれ込むが
安斎の喧嘩スタイルとは違い そいつの動きは磨きが掛かっている
二階から見守っている柴塚視点から見てそれは一目瞭然
ーー全然…… 当たらねぇ……
姿を捉えて放たれる一撃一撃の殴打を全て躱され
その末に貰う脇腹に右フックは 安斎のプライドを一発でへし折った
不審人物の前に座り込む彼の額には大量の汗が
「マジで何なんだお前は…… 殺すなら殺せよぉ……」
「……32点」
「あぁ?!」
そいつはそのまま振り返り 木刀を回収してどこかへ行ってしまった
結局数分後に警察が駆け付けてくれるも 相手の正体は分からず仕舞いだろう
お日様が顔を出して 柴塚は楽校に行く準備を整い終えていたが
安斎は机に突っ伏して不貞寝したままだった
「相当堪えてますね…… 所長があんまり喧嘩で負けたとこ見てないですもん」
「あぁ…… しかも……」
「女性の声でしたね…… 本当にあんな動きが出来る人間がいたんだ……」
「ウダウダしててもしゃぁねぇ!!」
「どうせ中断しないんでしょ? この程度で?」
「分かり切ってたことだ…… 上等だよ次は負けねぇ!!」
「あまり無茶はしないで下さいね……?」
今日の調査内容は身辺情報収集
寺田昌治の家は警察が立ち入り禁止しているので
被害者に縁のある場所は暁風楽校の周辺に絞られる
日曜日ということもあって校舎に誰かいるかは運任せだ
しかし校内を外から覗いても無人
仕方無く近隣住民に聞き込みをしようとすれば
買い出しを頼まれたのか スーパーから大荷物を抱えて帰ってくる芽神と鉢合わせる
「調査お疲れ様です 何か分かりましたか?」
「いいや全然だ…… 色々と巻き込まれてるからな」
あくまで普通を装う安斎と柴塚
時雨山での出来事は柴塚も他言無用と心に誓っている
「丁度良かったです これから寮に来てくれませんか?」
「どうかしたのか?」
「……妻夫木と日野が仲違いしちゃって」
「あぁ…… 俺の所為なんだな?」
取り敢えず現地に向かう三人
寮の顔が見えて来たところに日野が出て行く姿を発見した
「何だ?」
近付いてみるとその後ろから妻夫木が現れた
「あっ安斎先生 こんちわっす……」
「一体どうしたんだジョン……」
「アランが探偵になるのやめるとか言い出して…… 問い詰めてたら喧嘩になって……」
「……俺が原因だよな?」
「そうじゃないって言いたいんですけど アランは安斎先生の説教が効いたらしくて……」
「……よし!! 追いかけよう!!」
妻夫木と安斎がダッシュで行ってしまった
柴塚と芽神も後を追いかけようとしたとき
寮から出て来た門脇に弁当籠を渡される
「咲彩ちゃんお遣いありがとね……
あの二人…… 昼飯食ってなくて詰めといたから 腹減ったら皆で食いな」
「「 ありがとうございます!! 」」
北陰市の河川敷にてやっとこさ日野に追いついた二人
「安斎先生……?」
「よぉアラン お前中々体力あるじゃねぇか……」
「ジョンに鍛えられてますから……」
「探偵やめる理由は俺の説教か?」
「……はい 正直探偵を舐めてました ごめんなさい」
後からやって来る柴塚と芽神 しかし割って入れる雰囲気ではなかった
「バカヤロウ!! アラン!! てめぇそんな事で自分の夢を諦めるのか?!」
「そうだぜアラン……!! せっかく俺は気が合う奴と出会えたと思ったのによぉ!!」
「安斎先生…… ジョン……」
三人のやり取りを柴塚と芽神は暫く座って観ている
「そのままグレちまったら 大人になっても治らねぇんだ……
まだ現場に立って挫折もしねぇで折られてんじゃねぇよ!!
お前は本当に長年憧れて来たもんに終止符打っちまうのかよぉ?!」
「……間違ってます 一つ二つの障壁で落ち込んでたら探偵になんてなれませんね
先生は俺にちゃんとノウハウを授けてくれたのに…… 俺はひ弱で情けないです」
「だったら今持ち直せ まだ何度でも上を向ける若さがあるだろうが……」
「っ…… 安斎先生!! 俺…… 探偵になりたいです……!!」
「諦めたらそこで 試合しゅ……」
「はいアウトです所長」




