第30話 人に歴史有り
建守はそのまま向こうへ逃げる
柴塚をその場に残し 安斎は彼を追いかけた
しかし建守の走る速度はそこまでではなく
物の数十秒で立ち止まる
「ハァ……!! ハァ……!!」
「どうしたぁ?! もっと走っても良いんだぞ?」
「うるさい…… こんなひ弱じゃねければ俺だって……」
「……何で逃げたんだよ? お前を助けてやっただろ?」
すぐ近くの空き地に入る建守 三方向に雑居ビルが建っていて薄暗い場所
三角に置かれている土管に手を置く彼は 近付いて来る安斎を睨んでいた
「あんな場所でバイトしてる奴なんか信用できるかよぉ?」
「……お前のいるNPO団体は信用できんのかぁ?」
「その組織名は【ユザブル】 ユーザーブルーの略称でNPO法人が設立したサイト名だ
平和・誠実・集中・清潔・憂鬱・孤独 青のイメージの全てをテーマとして活動しているんだ」
「主な活動は?」
「ネットで不満を撒き散らす暇人ではなく
実際に行動に移したいけど どう行動すればいいか分からない人の為にサポートしてくれてる
臭いものに蓋をしたくない連中がネットを介して集まり
この前みたいに悪の秘密結社を徹底的に追い込んでいくんだよ」
「なるほど…… ようやくあの光景の意味が分かったぜ
要は生焼け連中の寄せ集めだった訳だ」
「っ……!!」
「あぁいう組織に切り込んでいく連中だから
俺はてっきりどんな図太い奴がリーダーかと思ってよぉ
そしたらまさしく…… 蓋を開けてみればって奴だな
建守を置いて一斉に逃げたことに納得だ」
「……あ 相手が悪かったんだ!! アイツらはクソだ!!」
「向こうも思ってるぜ? 一人先走って迷惑な野郎だってな」
「くぅ……!!」
「要はお前等に団結力なんて無かったんだよ 初めから
ネットで集まっただけで どうせ陸に互いの素性も知らねぇんだろ?
それで? 一気に大勢の人数が集まってテンション上がった? その程度で無敵になったんだろ?」
「あぁもうさっきからうぜぇんだよマジで!!」
建守は近くから鉄パイプを取り出す
「意味分かんねーんだよテメェ!! 高が外部講師が教師気取りかよ?!」
「フゥ…… そういう物を持ったらなぁ 遊びじゃなくなるんだよ」
構えを取る安斎を見て 彼は既に竦み上がっていた
だが今更引っ込みが付かなくなった為 生半可な攻撃が安斎を襲う
しかし普段から強気な人間を相手にしている所為か
プライドをへし折るが如く片手で鉄パイプを掴み そのまま後ろに押し出してやった
「うぅ……!! うぅ~~!!!!」
「おい泣くなよ?! これじゃまるでイジメ現場じゃねぇか……」
「闇バイトで働いてる様なクズのクセに…… まとも振ってんじゃねぇよ!!」
「……いやあれは潜入調査だよ?」
「どうせお前達は心も体も弱い人間の気持ちなんか…… 分かんねぇんだよ!!」
「ごめん分かんねぇ…… 俺は昔から心身共に丈夫だったから……」
「っ…… 俺みたいな奴は学校でイジメに遭って社会に見捨てられるまでがテンプレなんだ……」
「その繋がりも分かんねぇけど…… まぁ俺もイジメには遭って来たよ」
「えっ……??」
「俺の場合は〝迫害〟だけどな? よくいるイジメ加害者の様な暇潰しとは種類が違い
近所の大人も子供も決まって 良かれと思って物やらを投げて来るんだ 俺達家族に」
「何でそんな……」
「俺の祖父は活動家だったんだ 言ってしまえば学生運動の中でも迷惑集団の類だな
当時火力発電所の存在が環境破壊の元凶ということで過激な暴動も起こしていたらしい
……俺の祖父は口で説得する穏健派の部類だったらしいが 仲間に過激派がいれば一括りさ
それで後々に白羽の矢が飛ぶのがその身内 つまり俺とその両親
父親も母親も別々に逃げて俺だけ取り残されたよ 祖父も既に死んでいたしなぁ
マンションの大家さんに拾われなきゃ 今の俺はどうなってたか……」
「……なんか壮絶ですね」
建守の手からは自然と鉄パイプが地に落ちていた
「自分語りが過ぎたな…… でもまぁちゃんと楽校には行けよ
俺が怖くなって来なくなったと思っててさ 俺はもうあそこの教員じゃない」
「…………」
「ん? どうした?」
「あそこ…… あそこは何かヤバいんです……」
「……どういうことだ?」
「ヤバいんです…… それしか言えません……」
「……?」
安斎は彼の手を見ている それは微かに震えていた
ーー憶測…… じゃねぇのか?
「帰ります……」
そう言って建守は来た方向へ行ってしまった
すれ違いで柴塚と合流する
「どうなったんです?」
「ますますあの楽校が怪しくなってきた……」
「何か分かったんですね?」
「いいや建守は何も話さなかったが……
前にアイツの出席日数を調べたとき 今までは普通に毎日登校してたらしい
だけど俺がやって来たタイミングで翌日 アイツは授業を放棄して帰り その後は不登校だ
てっきり俺が原因で来なくなっちゃったのかなぁって思ってたが違った
建守は何かを見たか もしくは気付いている」
「……ちゃんと教師やってたんですねぇ 意外です」
次々と絡まってくる細い糸 事件と直結しない辺りは未だ眉唾物の経路
だがバスで揺られながら事務所へ戻る安斎は不思議と
今までの全ての出来事が繋がって来ていると そんな微かな編みロープにしがみついてた




