第27話 前と違う状況
5月30日
トアル探偵事務所の二日間は静かなものだった
ぶっ通しの調査やら拉致やらで疲れが溜っていた二人
互いに家に帰ろうともせず 事務所を拠点にして只管眠っていたのだ
「あぁ~~!! 二日も休むと働きたくねぇ~~!!」
「同感ですぅ~~ 私まともな仕事に向いてないかも…… 次はどうするんです?」
「寺田さんの死の真相かなぁ…… 四ノ海の倉庫には四季園蕾ちゃんはいなかったわけだし……」
「売り飛ばされたか…… 別の組織が絡んでるのか……」
「後者はねぇだろ…… そうそう奴隷の輸送現場が近隣にあって堪るかっての」
「勘ですか?」
「勘だ…… 近場でそんな大規模な事業を複数展開してたら同業が黙ってねぇし
他人でも範囲が広くなれば広くなるほど警察の目にも映りやすくなる
あそこはヒッソリコソコソしていたからこそ無敵でいられるんだって言ってたな」
「港の件は松原さんに報告したんですか?」
「一応あの人にはした…… だがそうそう情報共有はしねぇだろうなぁ
あくまで噂程度に広まるだけだろうよぉ」
「では取り合えずまた暁風楽校に行くんですね?」
「あぁ…… 今度は外部講師じゃなくて探偵としてな」
互いにナメクジの様に這いながら服を着ると
鍵を掛けていざ暁風楽校へ 柴塚は初訪問なので気になっていたフリースクールにウキウキしている
「一応言っておくけど死人が出てんだからな?」
「分かってますよ? 所長の保護者として楽長先生にご挨拶も忘れません」
「あんまり変なこと言うなよ母ちゃん……」
北陰市のバス停を降りる二人 すると以前に見た顔と鉢合わせた
「あっ……!! 中西先生!!」
「安斎先生どうも!! 急にいなくなったんで心配してたんですよぉ?!」
「依頼が終わればこんな不審者は即退散しますよ ……こっちは従業員の柴塚です」
「柴塚久留美です…… うちの賢也がご迷惑をお掛けました……」
さっそく謎の母親ムーヴを決める柴塚に戸惑う安斎
中西は微笑しながらも自己紹介を交わす
「寺田さんの件は聞きました…… 生徒も不安がっています」
「えぇ…… 因みに私が第一発見者です これから御校に向かう理由もそれに関係します」
「では今度は本当に探偵として?」
「我々が本来追っている事件と繋がりがあるのかは分かりませんが……
お恥ずかしい話 まだ進展するだけの材料が足りないんです」
学生達の登校時間と被ったため 校門前には久しく思える顔触れが
「あれぇ?! 安斎先生じゃないっすかぁ?!」
「よぉつまぶ…… ジョン・ハンコック!!」
妻夫木と日野と そしてその後ろには河上と芽神が一緒に歩いて来た
「また芽神が何か依頼したんすかぁ?」
「いや違う…… 用務員の寺田さんの件だ」
「あぁそうなんすねぇ…… でもまた会えて嬉しいっす
先生の弟子である俺達に何か出来ることありますか?」
「ちょっとそれって私達も入ってない?」
河上が妻夫木と日野に文句を言う
そんな三人を余所に芽神が話し掛けていた
「先日は無理難題な依頼をすみませんでした……」
「何だ気にしてたのかよ…… 中途半端に依頼を途切れさせた俺も悪いからお相子だ」
「……何かありましたら何でも聞いて下さいね? 協力しますので」
お辞儀をする芽神は三人を抑えて校内へと入っていく
安斎と中西も中に入ろうとする中 柴塚は立ち止まっていた
「どうしたんだ?」
「あの芽神って生徒…… 中学生くらいですよね?」
「あぁそうだ」
「……なんか一人だけ子供って感じがしないんですよねぇ」
「おっ! それ俺も思ったんだよぉ!!
でも今のガキは大抵あんなもんだろ? ですよね中西先生?」
「次ガキって言ったら氷漬けにしますからね安斎先生……?」
凍てつく瞳で睨まれた安斎は反射で謝る
中西はそのまま職員室へと行ってしまった
「やぁい怒られてやんの~~」
「……今のは雪女だったなぁ」
「不思議と周囲が寒くなりましたよね……」
まずお邪魔したのは楽長室
コーヒーを淹れてくれる楽長は元気が無かった
「私も驚きましたよぉ 寺田さんは創設メンバーの一人だったんです
長年この楽校を縁の下で支えているという表現が正しい方でした」
「先にご冥福をお祈りします……」
「貴方が第一発見者だったそうですね?
寺田さんの家で発見したとか?」
「聴取を受けたので 大体は警察に聞かされた事が全てだと思います」
「安斎先生が今どんな調査をしているのか 守秘義務があるでしょうから問いません
……寺田さんの家の中は見たんでしょ?」
「えぇ…… 調査の過程ですみません」
「寂しいものだったでしょう? そこそこ広い間取りでもずっと独り暮らしだったんです
寺田さんも孤児でしてね…… 共鳴という形でフリースクール立ち上げに協力を惜しみませんでした
それなのに…… あんまりじゃないですか…… 彼が何をしたって言うんです……」
「「 ………… 」」
安斎と柴塚は一時仕事を忘れて楽長の話に耳を貸している
「砂壁に埋めるなんて 聞いたときは背筋が凍りましたよ
そんな非人道的な犯行をするのは何処のどなたなんでしょうね……」
「まだ犯人は分かっていません なので俺達はここに来ました」
「えぇ分かってます…… 分かってますがやりきれませんね……」
涙をハンカチで拭う楽長は鼻を啜りながらも感情の起伏を抑えていた




