第23話 深淵をのぞく時
同じ濃紫沢市の端に位置する民家
田舎特有の無料区間のある高速道路の真下で 日当たりが悪い場所だった
灯りは電柱と一軒二軒あるスナックの看板灯のみ
そんな側溝の川の流れが心地良く聴こえるところに安斎は来ている
「ここか……」
蔦が家の壁を登っており 何十年も手入れされていない古い一戸建て
さっそく敷地を跨いでインターフォンを鳴らす
「留守か…… 田村昌治って名前だったがどうせ偽名だろうしなぁ」
仕方ないと帰ろうとする安斎はふと家の方を振り返る
「いや…… いる?」
玄関に戻ってドアノブに手を当てると
「開いてんなぁ……」
鍵が掛けられていなかった 中に入って見るとより鮮明に分かる
「複数の人間が入り浸っていた後だな……」
廊下には土足で踏み荒らした後が
こんな時間帯に忍び込んで強盗扱いされてもおかしくないが
不審な空気を感じ取った安斎は家の中へと入った
すぐ横には台所があり 一人暮らしなのかテーブルの上には一人分の食べかけの皿が置いてある
恐る恐る冷蔵庫を開けてみると生活感を感じる食材やら飲料水 調味料などが入っていた
次に向かいの茶の間へ行くも特に変な箇所はない
「昔ながらの木造と砂壁の家か……」
トイレや風呂場 仏間なんかも散らかっているものの荒らされた形跡は無し
にも関わらず廊下の靴跡が安斎の疑いの目を逸らさせてくれない
「田村昌治は帰って来ていないのか…… それとも……」
不思議な事にこの家に居ればいるほど空気が重くなる
そして払拭しない人の気配が何とも不気味さを増していた
ーースマホの充電も僅かだから引き上げるか……
安斎が玄関に戻ろうとしたとき ふと砂が零れ落ちる音がした
振り返っても誰もいない 砂壁のある茶の間を再度覘いてみるが
「……劣化してるだけか?」
しかし安斎が凝視していた砂壁は また少し また少しと砂を溢す
間近で見てみると少し穴が開いていて その穴にスマホの光を当てると
砂壁の穴からは人の目玉がこちらを見ていた
「うわっ!!!!」
後ろに倒れる安斎はテーブルの角に頭を打って気絶してしまった
一体どれくらい寝ていただろうか
起き上がる安斎はスマホでライトを照らそうとしたが 充電が切れていた
玄関まで何かないかと歩けば 懐中電灯を見つけたので灯す
気絶してる間に誰かが来た様子も無く
不思議と頭がスッキリしていたので 改めて砂壁の中の穴を確認する
「やっぱり…… 仏さんがいる」
そして安斎は起きたと同時に感じた人の気配は近かった
もう一度自分が倒れていた時を再現すると その顔の傍にはコンセントが
そこに差さっているナイトライトをよく見てみると
ーー……盗撮機だ
自然と声を出さなくなる安斎
しかしここで逃げても この家で起きている事が何も分からないままで終わる
ーー誰が誰を盗撮しているんだ?
安斎は決心する
物置からスコップを持って来ると
砂壁を外側から削り始めた
空が白み始めると同時に死体を掘り起こす
「大分苦しんだようだな…… アンタが田村昌治なのかな?」
あまりこういう現場は下手にイジらないのが 警察に喧嘩を売らない手段だが
盗撮されている手前 既にやることをやるべきだと判断する
「持ってる物は財布と鍵だけ…… 鍵は家のか?
財布の中身を抜き取ってもいない 現金そのままか……
台所の飯の状態を見るに殺されたのは昨日っぽいよなぁ……」
安斎が一番欲しがっている情報 それはやはり個人情報の書かれたカードだった
「……えっ?」
ふと取り出したプレート 以前に安斎も付けたことのあるプレートと同じ物
それには思わぬ情報が書かれていた
「暁風楽校の用務員…… 寺田昌治?!」
安斎は再確認の為 死体の顔を詳しく見た
「俺が楽校に来て最初に会った人だ…… 守衛もやっていた 寺田さんってアンタだったのか?」
その仏は前に名前が出ている
河上香里奈の飼い猫の死体を花壇に埋葬してくれたかもしれない
寺田という人物だったのだ
安斎は吐きたい気持ちをグッと堪えて家の外へ出た
山の向こうの日の出を見つめるが とても心は晴れやかではない
倉庫の時とは違い すぐに松原に電話する
『おぅおはよう…… 朝っぱらから何だよ?』
「今から言う住所に警察をお願いします 死体が出ました」
『何だとぉ?!!!』
「名前は寺田昌治 暁風楽校で用務員と守衛をしていた人です」
『なっ…… 分かった取り敢えず手配する お前はそこで待機だ分かったな?!』
「えぇ……」
松原に連絡する事が正しかったのかは 正直安斎も迷っている
しかし遺体をベタベタ触った身でトンズラは 自分が犯人ですよと言い残すもの
そして茶の間にあった盗撮機を盗撮犯に回収されるのを防ぐ為でもあった
続いて柴塚に何度も電話を掛けているのだが 彼女は一向に出る気配は無い
「クソォ!!!! 一体何が起きてるんだ!!!!」
一方で例の盗撮機器 実はリアルタイムで観られていた
「遺体を掘り返していたぞ? ……どうする?」
『誰がいたの?』
「安斎賢也だ 余計な事に首を突っ込んで……」
『様子を見ましょう 彼が私達だけの敵になるとは限らない』
「確か君と同い年だったな…… 情でも芽生えたのか?」
『余計な詮索はしないで また自ずと会えるだろうし その時に探りを入れてみるわ』
「……君を信じているぞ」




