第1話 トアル探偵事務所の安斎と柴塚
2025年5月20日
衣替えと思いきや気温の上下が激しく苦しむ時期
街中の大きなビル群に挟まれた小さな建物に とある探偵事務所が構えられていた
名前は【トアル探偵事務所】
中を覘けばテレビは付けっぱなしで 新聞紙をアイマスク代わりにイビキを掻くここの所長
『ここで一月を振り返るニュースです
去年に続いて年始早々立て続けに悲しい出来事が頻発しました
噂では繰り越して見舞われる困厄の年になると言われてますよねぇ
いよいよ日本でも本格的に戦争が起こるとか そう言ったデマも流れてますのでお気を付けて下さい
注目するべきはやはり棘岬大量毒殺事件ですね
たった一日にして担任教師だった弱竹死刑囚は受け持ちの生徒を全員毒殺
保護者である遺族達の憤りは 当たり前ですが冷める事はありません
被害者の会を立ち上げ 死刑という判決では生優しいと裁判所へ訴え掛けています
……続いてのニュースです』
もう一人の従業員がドアを開けて入って来る
手にはビニール袋と鞄 ソファーに置くなりリモコンを拾ってテレビを消した
「昼間から酒を飲むとか正気の沙汰じゃないですね所長 暇ならこっち手伝って下さい」
「うぁ……?? その仕事は断った筈だろ……?」
「ただでさえ金欠な事務所なのに何言ってんですか? 殺すよ?」
「見境なく言ってんじゃねーのったく……」
煙草に火を着ける所長は窓を開けて外を見渡していた
コンビニの弁当とお茶を冷蔵庫にいれる従業員はやれやれと溜息を吐く
「今回の私の依頼…… 手こずりそうなんですよねぇ~~」
「俺だって依頼内容は把握してんだ 俺達には荷が重すぎる」
「そう思うんなら手伝って下さいよ 他の依頼なんて無いんですから分担する必要もないですよね?」
「だーかーらー…… ん?」
下の歩行者を見ている所長
一人の少女がこの事務所の階段口に入って来るではないか
「依頼人ご来店だな」
「えっマジっすか?」
ドアをゆっくり開いて入って来きたのは中学生くらいの女の子
営業スマイルの従業員がソファーに誘導する 所長は相変わらず一服中
「ここに来るのは初めてのお客さんですね?」
「はい」
「私は柴塚久留美です これ名刺ね
因みに奥で煙草吸ってるのがここの所長 安斎賢也です
まぁ話は私が聞きますので奥のオッサンは無視して大丈夫です」
「はぁ……」
さっそく彼女から依頼内容を聞き出す
「私の名前は芽神咲彩と言います
北陰市にある暁風楽校の中学二年です」
「隣町から態々…… それに【暁風楽校】ってフリースクールですよね?」
「えぇそうです 訳あり揃いの特殊な学校です
今回の依頼内容は楽校の七不思議を探偵さんに解いて欲しくて……」
「七不思議ですか……」
思わず苦笑する奥の安斎
一旦席を離れる柴塚は 棚からハリセンを取り出して彼の頭を叩いた
「すみません脱線しました」
「ハリセンって常備されてるもんなんですか?」
「えぇ! 事務所の備品の中で一番使用頻度が高いんです!
探偵に頼る七不思議なんて 何か不穏な事態でも起きたんですか?」
「……私がどうしても解き明かしたいんです 実はうちの校舎は旧図書館でして
にも関わらず学生の暇潰しである筈の七不思議が神格化されています
〝七つの怪異を見た者は一つだけ願いが叶う〟らしいんです」
「ほぉ……」
「少年漫画かよ」
吸い終わった安斎も柴塚の隣に腰を下ろす
すると安斎の顔を芽神はジッと見ていた
「俺の顔に何か付いているのか?」
「いいえ…… 知人に似てたもので」
「気になってるご様子なので この依頼は所長が請け負う事で良いですね?!」
柴塚の投げやりに安斎は堪らず拒否反応を起こす
「何が悲しくて学校の怪談を調べなきゃいけねぇんだよ?」
「私は別の依頼を完遂しなければならないので…… この事務所で暇なのあなただけですよ?」
「ふぅ…… 七不思議の依頼料なんて決めてねぇぞ お嬢さんはいくら出せるんだい?」
「十万」
芽神の口から出た言葉に二人は耳を疑った
しかも前払いということで テーブルには封筒が置かれる
「……保護者呼んだ方が良いよな?」
「さすがにこれは私もドン引きですよ所長」
「親はいません この金はバイトでコツコツ貯めました」
金が欲しい欲求と中学生から金をむしり取る罪悪感
二人はただ只管葛藤していた
「……そこまでして叶えたい願いってのは何なんだ?」
「それは依頼を受注して頂ければ話します」
「っ……」
二人は取り敢えず依頼を受け 芽神と電話番号を交換して彼女を帰らせた
日が暮れて互いにプライベートスタイルに移行し 日常的な会話で今日を振り返る
「校舎の上空に龍でも現れんのかな?」
「バカ言ってないでちゃんと明日 暁風楽校に行って下さいね?」
「十万貰っちまったしなぁ……」
「私も仕事が終わればそちらに向かいますので」
「ハァ…… ダリぃなぁ……」
「頑張って私の給料を勝ち取って下さいね!!」
「前払いだから払えるぞ?」
「た・の・み・ま・し・た・か・ら・ね!?」
5月21日 翌朝
互いに玄関先で別れ 柴塚は現在進行中の依頼を
安斎は渋々バスに乗って隣町へ向かった
この依頼が二人にとって今回の壮大な事件のスタートライン
予想もしない悲劇と惨劇の始まりである




