第16話 七光りの狂犬
「お知り合いですか赤坂さん?」
「……二日前から毎日来るんです」
「……取り敢えず警察に電話して下さい」
「それは……」
「デュヒヒ!! 呼べへんよなぁ?? ワシが何を喋るか怖くて怖くてしゃぁないんやろぉ?」
不適な笑みの男に 震える赤坂はスマホに手を付けなかった
「誰なんだお前ら?」
「こっちのセリフやで~~ まさかマル暴かぁ?」
「そう聞くアンタはヤクザって事でいいのか?」
「はんっ?? せやったらぁ…… どうするん?」
安斎は自分のスマホで警察に通報しようとする
しかしその行為を止めたのは赤坂だった
「やめて下さい!!」
「えっ?!」
そのとき前方から鋭い上段蹴りが安斎の額を擦る
赤坂の頭を押さえてしゃがませると 彼女の前に立って
「暴力に躊躇ねぇとか確信犯だなぁ…… そして何で赤坂さんは通報を止めるんだぁ?!」
「ごめんなさい…… ごめんなさい…… 私…… その人に……」
「誰なんだお前達は?!」
「……おっと自己紹介がまだやったのぉ ワシは四季園岳斗ゆぅもんですぅ」
その苗字に反応せざるを得なかった
「四季園だと?」
「さすがに苗字は有名やなぁ せやけどワシが広めたいんは名前!! 即ちワシ!!」
「華麗なる一族にまでなると反社の組織も身内で創り上げるのか?」
「ワシは一族の半端者みたいなもんやぁ…… おるやろぉ? 親戚に一人 はみ出しモンがぁ?」
「生憎俺は三代揃って半端者だったから気持ちは分からねぇな!!」
「なんやその武勇伝!! デュフフ!! そそられるやないのぉ~~!!!!」
「その変な笑い方やめてくれねぇか?」
「アカン~~♡ おさまらん~~♡
おいお前らぁ~手ぇ出すなよぉ?! 今からサシの殺し合いじゃぁ!!!!」
岳斗は安斎に回し蹴りを決めた
頭を下げて体勢を崩す彼の胸ぐらを岳斗は掴み
近くの納屋へと助走を付けてぶん投げる
「オホッ♡ えぇのあるやないか~~い!!!!」
納屋に置かれていた草刈り機を取り出すと
エンジンを起動させれば 回転する刃を安斎の顔目掛けて振り下ろされた
「んのやろっ!!」
近くに置いてあったパイプ椅子でガード
鉄同士の火花が散りばめられ 安斎は草刈り機ごと岳斗を突き飛ばした
「えぇのぉえぇのぉ~~♪」
草刈り鎌を二刀流で構える岳斗 一方安斎は鍬を取り出す
「せっかくサシなんだからステゴロでどうだ?」
「何でもアリが任侠の世界なんやろう? 映画やゲームで見て覚えたでぇ?」
「うわぁ…… まさかの創作物に憧れてヤクザ始めちゃうパターンかよぉ……」
「ワシぁ一人で大人数をバッタバッタ薙ぎ倒すのが夢やねん!!
それこそ漢の最終到達地点とちゃぅかぁ??」
「じゃぁ尚更素手で挑んでこいよぉ!!!?」
不規則に鎌を振り回してくるので軌道が読み辛い安斎は 鍬の柄の部分を敢えて前に出す
相手が線ならこちらは点で仕留めようという算段だった
相手の動きに合わせて一定の距離を保つ 鎌は振りましていれば
「おろぉ?」
木の柱に刃を深くめり込ませてしまった岳斗
安斎は隙を逃さず 鍬の刃床部を右手で押さえ 左手は柄壺に添えるだけ
岳斗の腹目掛けて一気に鍬を押し出し 柄の先端が彼を突いて納屋の外まで吹き飛ばされた
「ゲファ~~!! アッハッハッハァ~~…… 最高やでぇ~~♪」
「ハァハァ…… やっと素手で戦えるなぁ……」
「いやぁ止めや止めぇ…… 本気出したらお前さんを殺してまうからのぉ……」
「ハァ?? やってみろよ」
「まさかこんなにやる奴にカタギで出逢うとは思ってもおらっかたわぁ~~」
岳斗はそこから起き上がらなかった 敵意を感じなくなれば安斎も一服する
「フゥ~~…… お前らがここに来た理由は?」
「別に大体予想通りやで? 四季園蕾ちゃんの件やぁ」
上体だけ起こす岳斗は 安斎に煙草が欲しいと指を動かして促す
「蕾ちゃんはワシの姪っ子になるなぁ 消えた話を聞いたときはえらくビックリしたでぇ
こんなワシにもよう懐いてたからなぁ~~ それで東京から吹っ飛んで来たんやぁ
調べてみりゃぁそこの赤坂舞香ちゃんとこの親がぁ……」
「……?」
「いや…… 本人の口から聞いた方がえぇな なぁ赤坂さんよぉ?」
「うぅ……」
玄関の隙間から怯えた顔で覗いている赤坂
岳斗は手を挙げて手下全員に撤収の号令を掛けた
「もうここへは近付くなよ?」
「あぁもうここに用はあらへん 見えてくるもんはあったからな~~
まだまだ集めなあかん情報が山ほどあるんやぁ」
「何?」
「この事件を追うならまた逢ぉたる 次の喧嘩も楽しみにしてるでぇ~~」
そう言って去ろうとする岳斗を安斎は引き留める
「この事件の犯人を知ってるのか?! 教えろ!!」
「さぁのぁ~~ またやで~~♪」
「……四ノ海の連中も噛んでんのかぁ?!」
「…………」
岳斗の足が止まる 振り向く彼の顔は今までに無い 畏怖の念を安斎に抱かせた
「今回の事件のどこにも四ノ海の名前は出てこぉへん……」
「っ……」
「ワシからも質問や お前…… 誰の意思で動いとる?」
「何だと?」
「……なんや知らんのか」
ドスの利いた声から 再び踵を返して車の方へ歩く岳斗
「お前はワシと同じで本能型や 喧嘩すれば分かる
同属として一つアドバイスしといたるでぇ」
「……何だよ?」
「いくら直感が働こうとも それが起こり得る刺激の材料が無ければ成立せぇへん
お前がどこで四ノ海が今回の事件と関連すると思うたのか ここでは聞かん」
「…………」
「結論は泳がしたるって事やからな?
……そして お前の背後で蠢く意思はワシらにとって〝敵〟ということを忘れんなや」
ーー……芽神が?
岳斗の車はそのまま遠くに消えた
そして確証も無い状態で安斎は ふと口が滑ったと思ったのだった




