49話 雷帝のお出まし
―来たぞ来たぞ神童が
当てもなくただひたすら荒野を突っ走る俺。
勿論両手を広げての全力疾走。
「キーーーーーーーン」
どんだけ走っても全く疲れる気がしないのなら一度はやってみたかったこれ。別に「ぶーーん」でも良かったが実際に強くなったのならやっぱこっちの方でしょう。
何はともあれ勇者初の一人旅。
俺はそれを今最大に満喫していた。
いざ、未知なるフィールドの真っ只中にあっても危険というものを全く感じない。これがどれだけ凄い事なのかはどう力説したって理解しずらいものだろう。動物やモンスターに知識は無いが本能があり、それで『俺』と言う存在を危険と察し自然と道を譲られている感じ。ある意味寂しい感じもするが、トラブルが無いのは良い事である。水辺で飲み水を汲もうが、木の実を取ろうがそこに何の脅威も無い。難点があるとすればあまりにも警戒されすぎて野生動物が狩りずらいという事ぐらいか。
そんな平和という退屈な日々が続くだろうと思った翌日。
ゴロゴロゴロ・・・
それは、紛れも無い雷鳴であった。
奇妙なのは空が雲一つない晴天。そして、その落雷地点は常に自分が通過してしばらくしてから起きているという事。
「・・・・??」
何者かが俺を狙っているのか?
そう考えるのが妥当なのかもしれないが、その稲妻はあまりにも脆弱で、まともに受けたとしても精々ちょっと痺れたなぁ程度の感覚しか受けないだろう。要するに、その攻撃に殺意と思わしきものを感じないのだ。
(一体何がしたいんだ??)
周りを見渡しても、魔法を扱う魔物の気配も、人の気配も当然ない。少なくとも飛蝗飛翔まででは無いにしろ地上最速の魔物を凌駕する程にはこちらも疾走中である。このスピードについてこれる存在はそうそう居ない。というか、視認できない。
俺は一応警戒し、辺りをキョロキョロと見渡す。
「うーん、気のせいか」
俺は再び両手を気持ちよく伸ばしながら軽快に荒野を颯爽と駆け抜けたのだった。
―会えない出会い
幾多にも転生を繰り返し、時には魔石回収業者、鹿、そして今は神童と謡われしロイという少年の噂はその子供の村にも届いていた。そして、その子供もまた己が生まれた村では稀有な才を称えられ、そして、疎まれていた。
目つきは鋭く、顔から半分は貼りのあるツンツンとした茶髪に覆われている。小柄ながらに熟練された杖を使いこなし、その額には雷魔鉱石が埋められた髪飾りがゆらりと輝きを帯びている。
子供はとにかく最初の出会いが肝心だと考えていた。自分のもつ高度な雷魔法であの少年の足を止め、少年が怯んだ時にその煙幕の中から颯爽と現れる不動な存在・・・そして少年に我が名を名乗り、共に魔王を打ち倒さんとする仲間として手を差し伸べんと・・・・・・・。
「はぁ、はぁはぁ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
だが、その目論見はロイのあり得ないほどの瞬足によって悉く破られるハメになる。最速の無詠唱で雷魔法を放っても発動する頃には奴は遥か前を走り去っていく。子供も必死になって走り、なんとか距離を詰めてまた魔法を放とうとする・・・そんな事を何度か繰り返し、その子供は最早その体力も魔力も尽きようとしてた。
「はぁはぁ・・・なんだよアイツは!!馬鹿か?ずっと全力疾走して体力崩壊する馬鹿か!?」
彼にはロイの高速移動が馬鹿げているようにしか見えなかった。確かに何故か少年はずっと両手を伸ばし、時に蛇口しながら笑顔で荒野を全力疾走しているそれは確かに馬鹿そのものであった。
「クソ・・・このままじゃいつまで経ってもアイツの前に雷魔法が落とせん!こうなったら・・・・」
子供がその杖を中心に構えると忽ち幾何学的文様を構成した魔法陣が展開されていく。
(本当は詠唱なんかしたくないけど・・・)
『大海を治めんとする海神ウコムよ、我こそ雷の神子なれど我の力を同調、そして増大、砲雷召されたし・・・!!』
「いけぇ!!!雷魔法!黒雷嵐!!」
澄み切った大空で明らかに異様な黒雲が立ち込め、目標地点の方へ大きくその規模を広げようとしているのを見て子供はニヤリと笑った。
「さぁ、次こそは俺の華麗なる参上だぁあ!!」
―看過できない嵐
・・・俺は走りながらも今後の事を考えていた。
まずは、とくもかくにもペリエとの合流を果たすべきだ。と言うか、ペリエの事だからもう近くにいるかもしれない。まぁ、新しい命に新しい家族もいる中でいきなりペリエが現れたら説明するのが面倒になる。おそらく彼女なりの配慮で今までわざと会いに来なかっただけだろう。
そうそう、ペリエに事を考えると嫌でも付いてくる問題がある・・・。そう、魔石回収である。ペリエを購入する資金を建て替えする為に魔法ギルドと契約を交わしたが良いが、あの膨大な借金を返す程には至ってない。そして、魔法ギルドは常に俺が転生して生まれ変われる事を知っているし、ペリエの場所もある程度なら把握可能である。つまり、俺がペリエと合流する=魔法ギルドにまたその正体がバレるという事であり、魔石の回収作業を再開させられる恐れはあると言っていい。
・・・まぁ、だけどそれはそれで悪くないのかもしれない。
この世界の魔族を滅ぼす事、それが俺の立てた目標には変わりない。そして、この地に眠る魔石の鉱脈は人も魔族もこぞって狙ってほしがる格好の資源でもある。地味に見えるけど魔石を回収する事が敷いては
魔族の情報などを知る手掛かりになる。
あの時の、鹿になる前の人間だった時の最後の記憶を思い出す。
『万色感知』でさえ反応しきれなかったあの二人の魔族。
アレから俺の正体を隠す為に白銀が俺を殺し、そして同時にあの魔族の足止めをした。それから鹿に転生し、鹿がいかにして草を食べ続けなければ生きられない体かを知り、見知った仲間を冒険を繰り返してきた。
ロドリーやミリュー、それにラミは元気だろうか、ドワーフやエルフならまだきっと現役の冒険者なのだろうけど、ラミはもしかするともう・・・いや、とにかく再開できたのならさっさと正体を明かしてまた一緒に仲間に加えたい。
ヒョォォォォォ・・・・
何故か鹿に転生してから『万色感知』が機能しなくなっている。
だが、逆に殺意だとか気配、そして魔力を感じ取る感覚は掴めてきている。スキルと呼ぶまでも無い勘のようなものだが、生きる上ではこれで十分だ。そして先ほどまでとは違う強大な魔力を帯びた黒雲が辺り一帯に立ち込める。
(・・・強力だな、雷魔法か?)
俺はとっさにある行動にでる。そして次の瞬間・・・空間を引き裂くような怒号が鼓膜を破るかの勢いで響き渡り、強力なエネルギーを帯びた稲妻が周囲一帯に落雷した。
ドーーーン!!
雷光が到着した数秒後に激しい爆音が響き渡る。だが、落雷地点は大きくズレたようだ。いや、ズラしたのだ。思えば銃撃も弾速の早さゆえに一度狙われてしまえば回避するのは難しい。雷魔法もまさにそれで一度発動すると絶対に回避不可能と言われている。だが銃と違い着弾点を精密にコントロールする事が非常に難しい。そもそも雷も空中で轟きの破壊力を秘めているとはいえ、その原理は前の世界で習った電流の仕組みとあんまり変わらない。簡単に言えば・・・
水が川に流れるように、電流にも必ず『流れ』が存在する。
まぁ詳しく習ったわけじゃ無いからここからは俺の推測になるけど空から降って来た雨同様に、雷もその電気が貯まりやすい場所に向おうとする性質がある。ならばその向かう場所、つまり、電気が集まりやすいものを使えば自ずとその雷の方向を指定できるという訳だ。
それで俺が咄嗟にしたとある行動というのが・・・自分の持っていた剣を地面に突き刺してその場から離れ、さらに水筒に入っているありったけの水を剣に振りかける、剣を辿ってその周りの土をも濡らすように。
あとは出来るだけ剣から離れれば・・・・
ドーーーン!!
・・・余談だけどこの方法を使えば必ずしも雷が逸れてくれるわけでは無い。なにせ光速に近い電流の流れを予測するなんて普通に出来るもんじゃないしな。まぁ、俺は魔法使いじゃないからどうでもいいけど雷魔法なんてどうやって発動させるかなんて考えるだけでも頭がおかしくなりそうだしな。
(それで・・・)
このふざけた魔法を放ったのは魔族か・・・?
白銀があれ程までに工作して俺の『継承記憶』を隠したというのにもうバレたというのか・・・。まぁ、いいか時間の問題だったのかもしれない。
・・・ならばまずはそいつを殺そう。
・・・・・・・・
しばらくすると、遠くの方からよたよたと人間と思しきものがこちらに近づいてくる。さらに近づいてくるとそれがやたらと茶色い髪がツンツンしているハリネミズみたいな子供だと知った時、さすがにアレが
魔族であるという疑いを持つのが馬鹿馬鹿しくなった。
「ぜぇぜぇ・・・お、おい!ばか!!見たか・・今の俺の最強魔法・・・・黒雷・・・ぜぇぜぇ」
「・・・お前さ、喋るか息整えるかどっちか済ませてから何か言えよ」
「う、うるへぇ!大体お前がずっと走ってるのがわる・・・うげぇ!!」
ハリネズミは酸欠気味で無理に話したせいか、その場で嘔吐しまくる。
・・・・まぁ落ち着いてから色々聞き出すとしよう。
―もう一人の神童
それにしてもこんな子供があれ程の雷魔法を放すなんてな。まぁ、俺も今は子供だけど。
「それで、お前は俺に何か用なの?」
「ふ、ふふふ・・・さっきの魔法見ただろ?あの威力を、あれこそが俺の最強魔法、黒雷」
「それはさっき聞いた。目的は何なの?」
「チッ、なぁ人の話を遮るなって親に教わらなかったか?それに俺はお前じゃない!さぁ聞け!俺の名を!!!この大魔導士こと雷帝ロキ様の名前をなぁ!!!」
自分で言ってるよね。
「あ、しまった!!!聞かれる前に言ってしまった!!!もー俺のドジっ子ちゃんってば!テヘペペロ」
「じゃあ俺は急ぐんでこれで」
「おい!ちょっ待てよ!俺はお前の事を知っているぞ!!確かロペス!!ラダト村で神童とか言われてチヤホヤされまくって奇麗な姉ちゃんとイチャイチャしていた羨ましいヤツだ!!!」
「ロイだよ、お前だって子供でそれほどまでの魔法を扱えるならさぞ村じゃ神童だってもてはやされたんじゃないの?」
「・・・・そ、それは」
ハリネズミは急に俯いて泣きそうになっている。
さっきまでピーピー喚いていたのに調子狂うヤツだ。
「と、とにかくだ!おいロイ!!俺とお前が組めば最強のダッグだと思わないか!?」
「はぁ」
「だって、お前はどう見ても前衛で、俺は後衛。バランスだって申し分無し!そうだろ!そうに決まっている!?」
「うん」
「よし、じゃあ改めて・・・勇者ロイよ!この雷帝ロキの子分にな」
「ばいばーい」
「あっ!ちょ、ちょっま」
ハリネズミが何か言う前に俺は颯爽と走り続けその場を急速に離れていく。全く、ガキが力を持つとロクな事無いな。せいぜい痛い目見て現実ってものを悉く味わった方が良い。つーか後衛ならペリエがいるし、今さら食い扶持が増やす理由もない。
そしてなにより!
なんで俺があいつの子分になるのが前提なんだ!!!
「チッ、クソったれ!!人の話を最後まで聞けって・・・・」
「親に教わらなかったのかよー!!!」
その時不思議な事がおこった。
俺の目の前にハリネズミがワープしたかの如く現れたのである。
「・・・ほぅ」
「フン、どうだ、俺の手にかかればこの程度の事なんて・・・」
(チッ、無詠唱で電光転移が初めて成功したぜ・・・)
「どうだ!これで俺の言う事を聞く気になっただろ!?」
「・・・ああ」
ここまで来ると、さすがに看過できない感はあるな。
俺は体術姿勢に入る。
「お前、それを誰から習った?」




