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魔石回収の手記  作者: 譽任
48/52

47話 終決 ―新たなる伝説の幕開け―



―意志と傀儡



「クソ、あの超速再生をなんとかしねぇと・・・」


ロドリーがそう呟いたその時だった。


自らに飛蝗飛翔(グラス・ホッパー)かけたペリエッタが戦闘に参戦する。


「ペリエッタ!!お前無事だったのか!?」


「うん」


「そうか・・・って、えっ?お前・・・喋れるようになったのか!?」


「さっきなった」


「そうか・・・良かったぜ、実を言うとラミのやつがもう限界だったんだ」


「うん」


ラミの方へ目を向けると致命傷ではないものの、大きくダメージを受け辛うじて立っている様子だった。だが、次の瞬間ラミの体が淡い緑の光に包まれる。


「えっ・・・これは体が回復している!?」


驚くラミを見ながらペリエが一言。


「『自然の恵み(リグロース)』少し治せる」


「そんな事もできたんか・・・お前」


「ラミがいたから使わなかっただけ」


「それより皆を集めて」


「集めるたって・・・何か作戦でもあるのか?」


「ある」


そう言いながらペリエッタはマーチル・ホーンに爆撃魔法を撃つ、これによって敵の反撃の手は大きく緩む。


ヘクターが異変に気付きこちらへ駆け寄ってくる。

同時にミリューやアンも駆けつけてくる。


「ペリエッタちゃん!無事だったんだ!?」


「うん」


「えっ・・・ペリエッッタちゃん、しゃ、しゃべ」


「それもういい、ロドリーがさっきした」


「えっ、う、うん・・・それで、もう大丈夫なの?」


――だって鹿君がもう・・・そう言いかけたミリューだが・・・



(マスター)なら大丈夫。まだこの場所で見ている」


「そ、そっか・・・鹿君まだ居るんだ」



ミリューが宙に向い手を振る仕草をしている中、ペリエッタがヘクターに告げる。


「陣形変える」


「!?・・・なんだと?」


「あいつの動き止める、その間に止めを刺して」


「・・・出来るのか?」


ペリエはこくりっと大きく頷いた。


「よし、じゃあ陣形変更だ。指揮はお前が取れ」


ペリエッタはこくこくと頷くと短くだが的確に指示を出す。


「皆の力を私に集中させる。私は一番後方で術を発動させるから魔法が得意な順で扇状に構えて」


「なるほど、女帝我(アマゾネス・)最尖端(ストライク)の逆か」


「そう、急ぐ」


ペリエッタに急かされるよう、全員が配置に付く。


「うお・・・なんだ、急に力が吸い取られて行く・・・」


「皆の力を少し吸収している・・・大丈夫、死にはしない」


ペリエは杖に意識を集中し始める。



「術が発動するまで何とかヤツの動きを食い止めて」


「ああ、だがこんな陣もあったんだな。これ、名前何て言うんだ?」


「知らない、いいから早く食い止めて」



言葉は短いがその真顔に気圧され、ヘクター達は迎撃態勢で迎え撃つことに。しかし、先ほどの爆撃魔法のおかげで向こうもこちらの変化にまだ気づいている様子はなかった。



その陣形、『月ノ(クレッセント・)導き(ムーン)』(クレッセント・ムーン)は術者の守りを固めつつ、その前方から魔力を吸収し強力な術を発動させる。今、ペリエッタが組む術式は目まぐるしく再生し続ける細胞に対し劇的な効果を齎す術。そして精霊という本来肉体を持たないペリエッタとは比較的相性の良い属性魔法でもあった。


―――キュイィィィィン



・・・極寒地獄(グレシャル・)ノ大寒波(ブリザード)!!!



かつてリザードマンを全滅させようとした最強の大魔法を発動させる。



だが、それは全範囲から丁度マーチル・ホーンを狙い撃ちする形に制限された、局地的大凍結魔法に組み替えられていた。


爆撃魔法を受けた体がまた元通りになるその時、マーチル・ホーンの肉体が地上から耳を劈くようなけたたましい音をさせながら見る見るうちに凍結していく・・・。



「なっ・・・なんだ、これは!? わ、私の肉体が・・・」



慌てて凍結を解除すべく、自らに炎魔法をぶつけるマーチル・ホーン。だが、その勢いは止まらず・・・どんどんマーチル・ホーンを氷漬けにしていく。


(不味いぞ・・・このままでは私さえもあの凍結魔法によって凍ってしまう)


(クソッ・・・皇帝だけじゃなく、人間にまだあれ程の魔法を操れる者がいたとは・・・・仕方ない・・・ここは一旦この体を諦め、逃げに・・・!)



・・・ズシュ!


融合(アドフュージョン)』によって手に入れた皇帝の体から強引に己のみを切り離し、脱走を図ろうとするマーチル・ホーン。



「今」


ペリエが合図を送る。


「うおおおお!観念しやがれ!!」


「あんだけ余裕して逃げるとかダサすぎるよあんたっ!」



ペリエッタの合図と共に、全員が攻撃態勢に入る。


焦るマーチル・ホーン・・・だが、すぐに思い出したように叫ぶ。


「フフフ、ドニヤよ!!!その者達の足止めをするのです!!!」


「・・・・なんだと!?」


――ドシャアアアア!!!


マーチル・ホーンの喉元にあと一歩という所で斧による衝撃波が4人の行く手を阻む。


「なんで、ドニヤが・・・!?」


「ククク・・・おや、やはり知り合いでしたか?」


「それならお仲間同士仲良く、殺し合いなさい!!」


「さぁドニヤよ!そいつらを殺せ!」


(万が一に賭けていた保険がよもやこんな形で功を通すとはな・・・)


マーチル・ホーンはそんな己の強運に感謝していた。


「ドニヤ!!・・・ロドリー、たぶんアレって」


「ああ、あの馬鹿・・・洗脳されている」


「おいドニヤ!!目を覚ませ!!」


「無駄ですよっ!私の精神ノ(カース・)完全(オブ・)支配(ドミネイト)から逃れられる者など皆無帰結!」


「さぁ、どうしますか?大事な仲間を殺して私を追いますか?それとも、仲間をどうにか助けるべく、私への敗北を認め慈悲を乞いますか?」



「・・・・・クソ野郎がぁ!!!」



ドニヤとは何度も手合わせをしているロドリーだからこそ、その実力は分かっていた。それだけに、ドニヤを無視してマーチル・ホーンを追う事は不可能。状況は極めて困難になっていく。


「あいつは俺が追う!!お前らは何とかしてドニヤの洗脳を解け!!」


ヘクターが素早く動く、ドニヤもすかさず反応し斧を振るうが空振りに終わる。



「恐らくあいつを倒せば洗脳も解けるはずだ!!それまで何とか持ちこたえろ!!」



ドニヤの壁を見事にすり抜けたヘクターはそのまま振り向かずに逃げるマーチル・ホーンを追った。同じく、隙を見てマーチル・ホーンを追うアン。


「チッ・・・同じ仲間でやり合う事になるなんてな」


「なんとか私が足止めするから・・・その間にドニヤを元に戻す方法を考えて、同じドワーフでしょ?」


「あんな状態治す方法とか知るかっ!!・・・クソ、来るぞ!」


「うおおおおおおお!!!」



ドニヤの全力の一撃が残る二人を襲う。

二人は後方に飛んでそれを躱した。


「それっ!・・・影縫い!」


ミリューがドニヤの影を射貫く、すると影が固定されその場から動けなくなるドニヤ。


「よし、これでしばらくは・・・」


だが、それも影を射貫いた矢を斧で砕かれた事ですぐに行動不能は解除された。


「むぅ・・・洗脳されても記憶はあるのね」


(厄介ね・・・)


心の中で舌打ちするミリュー。


ペリエの方を見るも、先ほど放った魔法の消耗によってしばらく動ける気配ではない。この手の解呪方法を知り得そうなラミも遠く離れてしまっており、互いに斬り合いながら時間だけが過ぎていく。


「ドニヤぁあ!!目を覚ませー!!」


それでもロドリーは必死にドニヤに叫ぶ続ける。



「そうよドニヤ!!そんな洗脳早く解いて!!お願いよ!」


ミリューもやけくそとばかり大声で叫ぶ。


「ぐ、ぐうううううううう!!!」


それに反応したかのように一瞬動きが鈍った。


「ド、ドニヤ!?」

「私たちが分かるの?」


精神支配が解けた・・・そう思ったロドリーだが・・・。


(違う・・・この構え・・・不味い!!!)


「ミリュー離れろ!!大きいのが来る!!!」


「うがああああああ!!!」


闘気(オーラ)を込めた衝撃波が広範囲を飲み込んでいく。


「チィィィ!!!」


回避が間に合わず、全身で衝撃波を受けるロドリー。


所々に肉片が欠け、血が飛び出す・・・。


足の速いミリューは何とか奥へ逃げれたが余波を食らって軽い眩暈に襲われていた。



「くそっ・・・何か練習しているとは思ったがこんな技仕込んでいたのかよ・・・!」


「・・・うーん・・・アタッカーでも十分過ぎるぐらい強いわね・・・って」



見るとそこに居たはずのドニヤの姿が消えていた。



ーーーーーーーーーーーー



―燃える血潮



皇帝の体を捨て、身軽のなった事でマーチル・ホーンはある程度の冷静さを取り戻していた。しかし、追われている事には変わらず、劣勢なのは必至。



「 精 神 ノ(カース・) 完 全(オブ・) 支 配(ドミネイト)!! 」



・・・試しに追いかけてきた者達に精神ノ(カース・)完全(オブ・)支配(ドミネイト)を放すも隣にいる女でさえ難なく抵抗(レジスト)に成功している。


(やはり、皇帝継承が成った今となっては精神耐性への付与もついているか・・・)


だが、こうして敵が分散し、二人だけで追ってきている状況はマーチル・ホーンにとっては都合が良かった。



劣勢・・・!?


否ッ!!!!



(私にはまだ()()が残されている・・・私の名を知らしめた凶悪無比のあの魔法がねっ!)


(ドニヤよ!そちらは適当にあしらってこちらへ加勢に来なさい)



精神を支配されたドニヤに念話を送り、挟撃したのちに二人とも始末する。特にあの男を倒せばこちらの勝利は確実・・・。



「まぁ、この辺でいいでしょう」


踵を返し余裕の笑みを浮かべるマーチル・ホーン。


「なんだ、鬼ごっこはもう終わりか?」


「ええ、何故なら貴方の命もここで終わるからですっ!!」


「死ねっ!!!暴血の呪槍群(デス・ブラッド)!!!」


マーチル・ホーンの暴血の呪槍群(デス・ブラッド)がヘクター達に襲いかかる。


「へっ・・・今さらそんな攻撃が当たるかよ!」


それを難なく躱して行く二人、同時に反撃、だが、それを躱すマーチル・ホーン・・・しばらく激しい攻防状態が続く。


「・・・いくら皇帝とはいえ、大分疲れが出始めているようですが?」


「うるせぇ・・・だが、お前の攻撃なんざいくら喰らったって死ぬ気にならねぇぜ」


「なんだと?」


「へっ・・・癪に障ったか?さっきから見て見りゃお前はなんだ?」


「皇帝の体を乗っ取り、ドニヤの精神を操っり・・・お前のやっている事はどれもこれも他人の力を利用しているだけ、そんな他力本願なお前の攻撃なんざどれもこれも軽いんだよ!」


ヘクターのその発言でマーチル・ホーンの感情に火がつく。


「・・・私の事など何も知らずに・・・何も知らないお前が私を語るなぁ!!!」


暴血の呪槍群(デス・ブラッド)の手数が倍増し、一気にヘクター達に襲いかかる。


「なんだ?図星かよ・・・だが、さすがにこの数はやべぇな」


ヘクターはアンを庇うように防御態勢を取る。


「・・・ごめん」


「気にするな、だがもっと後ろに下がってろ。隙があれば迷わず撃て」


アンを後方に下げ、一騎打ちの構えで迎え撃つヘクター。


「フフフ、ようやく一人になりましたね」


これを待っていたとばかり、マーチル・ホーンは指先に魔力を集中させる。


思わず身構えるヘクター。


「ふん、あの例の魔法か・・・だが今の俺に果たして通用するかな?」



皇帝になったヘクターには精神耐性への強い自負があった。だが、それなのに・・・全身から血の気の引くような悪寒が走る・・・。



ニタァ・・・



今までにないぐらい残忍な笑みを浮かべるマーチル・ホーン。



「何を言っておられるのです?・・・私の狙いはぁ・・・」


「・・・しまっ!?」


そう、マーチル・ホーンが狙いを定めた相手それは・・・。


「アン!!!逃げろ!!!」


「もう遅い!!!死ね!!!!!」



「   受けると必ず死ぬ魔法(デソウルスピル)!!!  」



マーチル・ホーンがアンを指差し高らかに魔法を発動させる。何も起こってないようにも見えたが、その波動は確実にアンの心臓へと襲い掛かろうとしていた。


「アーーーーーーン!!!」


――まずい・・・間に合わな・・・!!


その時だった


「・・・えっ!」


「伏せろっ!!!」



ドニヤを追って駆け付けたロドリーが身を挺してアンを庇う。それはまさに間一髪の刹那であった・・・。


グフッ・・・・


心臓に確実な痛みを感じ・・・たような気がしたロドリーだったが、口から吐き出された血を顔に受けた時・・・それが自分から漏れだす苦痛では無い事を知る。


ロドリーの前で倒れ崩れる女戦士・・・。


「ド・・・ドニヤアアアアアアアアアア!!!!」


アンを咄嗟に庇ったロドリー。そしてさらにそれを全身を使って庇ったのは洗脳されていたはずのドニヤであった。


「ああ・・・あああああっ!!!!」


「・・・泣くんじゃないよ・・・いい女が台無しだ・・・・」


「ロドリー・・・後は・・・頼んんよ・・・・・・・」


(なんでこんな・・・こんな事に・・・あああ・・・)



ロドリーは動かなくなったドニヤの顔に大粒の涙を落とす。最愛の仲間を失った悲しみ、それを守れなかった不甲斐なさ・・・最早その激情はなりふり構わず暴走しそうな程に怒りを燃やしていく。


「フン・・・何故かは知らんが直前で意識が戻ったか。だが、次は外しはしまい・・・またこの技でそこにいる皇帝以外は全員始末してやろう!」


「マァアアアチル・ホオオオーーン!!!お前はぁあお前だけはあああ!!!」



怒りで我を忘れるロドリーが全力でマーチル・ホーンへ突進していく。暴れ狂う猛牛の如く、己の筋肉の腱が千切れようがお構いなしに全力で斧を振るいまくるロドリー。


「そんな大振りが当たるものか!」


「うるせえええ!!!死ねええええええ!!!!」


「死ね、だと?愚かな・・・死ぬのは貴様だ」


マーチル・ホーンの指先に再び魔力が集中されていく・・・。


「まずい!逃げろ大女!!!」


「うるせえええ!!!こいつはあああ!!こいつだけはあああ!!!」


「死に急ぎがっ!ならばさっさと死ね!!!」


「   受けると必ず死っ(デソウルス)・・・・・・」


ガシッ



魔力を濃縮させた指をロドリーに向けようとした瞬間だった。何者かがその手を掴む。


「・・・だ、誰だっ!?」


「・・・いい加減にしろ」


「・・・お、お前は・・・何故、何故ここにお前がいるっ!!!」


マーチル・ホーンはその手を掴んだ正体に困惑、そして驚愕した。何故ならその相手は・・・・


「ミシェル・・・もうこんな事はやめるんだ」



いつかに捨てた古きその名前を口にする少年・・・それはかつて自分を庇って死んだあの少年だったのだ。



ーーーーーーーーーーー



―継承記憶Lv2



・・・俺は何を見せられているんだ・・・。


ドニヤが死ぬのをただ眺める事しか出来ない自分を悔やむ。


今までやってきた努力も空しく、こうして魂の残骸となってまで恥じすべき自分の無力さを呪う。



クソ・・・俺にも・・・何か俺にも出来ることは無いのか!!!



『おめでとうございます』


その時、あの機械的な音声が何処からか聞こえてきた。



『度重なる鍛錬の結果、及び今まで獲得された欠片を統合した結果、管理者権限スキル『継承記憶』のレベルが2になりました。これにより次なる転生先をある程度選択する事が可能になります。尚『継承記憶』のレベルアップによるボーナス特典としまして、二つの臨時効果が付与されました』



・・・『継承記憶』のレベルアップだと?



これが・・・白銀の行っていた無限の可能性というやつなのか!?それにボーナス特典とは一体?



『ボーナス特典の一つとして『継承記憶』の欠片を信頼できる者限定で継承する事が可能となります。分与された『継承記憶の欠片』での効果は転生後の記憶の維持のみとされます。尚、魂の回廊で常に固定化された『白銀』および『ペリエッタ』の個体名は『継承記憶の欠片』を分与する事は出来ません』



・・・誰かに俺の力を、転生の力を分け与える事が出来るという事か。



『そして、もう一つのボーナス特典により過去に転生した事のある種族への即時転生が1回限りにおいて可能となりました。尚、これに伴い既に消去されていた記憶を復元しています』


ドクン・・・ドクン・・・


その言葉を聞いた瞬間、俺は全てを思い出した。

魔族だった時、俺の一番の友の名を・・・そして、それが・・・


俺は手を繋いでくれているペリエの分体に呼びかける。


(ペリエ・・・俺はいかなければならない・・・)


(俺にはあいつを終わらせる責任がある・・・・)



『以前に転生した種族への即時転生を希望しますか?YES/NO』



答えは当然YES。そして俺が再度戻る肉体・・・それは。



ミシェル!!!お前と共にある、その抜け殻だ!!!!



―家族たち



(何故だ?何故だ何故だ何故だ!???)


「アル!何故お前がここに居るんだあああ!!」


マーチル・ホーンは錯乱する。その手を掴んだ少年はかつて自分を庇い死んでいった友であったからだ。


「俺だけじゃない・・・アリシア、バベル、カイム・・・他の皆も皆ここにいる・・・お前が拾い集めた魂の抜け殻になってな」



死んだ仲間の抜け殻を集め、それを利用していた事による罪悪感、そしてその事を呪うかのように再び現れた友を前に、マーチル・ホーンはこれ以上にない恐怖に襲われる。


「馬鹿なっ・・・幻想だ!!こんなものは幻想に違いない!!!」


ガシッ


そんな錯乱するマーチル・ホーンに体を羽交い絞めにする少年。いや、少年だけじゃない。今までマーチル・ホーンの依り代にされていた幾多にも渡る魂の残骸がマーチル・ホーンに纏わりついていく・・・。



「やっ、止めろ!!!止めろ貴様らぁ!離せ、離せえええ!!!」


(もうやめて・・・ミシェル)


(そうだ・・・こんな事をする為に君は強くなりたかったのか?)


(もう俺達を解放させてくれ・・・一緒に行こう・・・ミシェル)



「やめろやめろやめろ!!!あああ!!!体がぁあ!体が動かないぃぃ!!」


その時、ヘクターの心に訴える声が。


(ヘクター・・・今のうちに、こいつを斬ってくれ)


(―誰だ・・・いや、どうでもいい。最初からそのつもりだ!!!)



「ま、待て・・・貴様、こんな・・・卑怯だぞ!!!」


「・・・お前が今さらそれを言うかよ」


ヘクターは剣を構え、持ちうる最大限の力を込めていく。


「・・・やめろ、やめてくれえええ!!私は、私はまだ死にたくないああ!!」


「・・・終わりだ、せめて華々しく散れ」



「 一 刀 両 断(オートクレール) !!!」


ヘクターの放す渾身の一撃がマーチル・ホーンの体を、しがみついた魂の残骸ごと両断する。



「ああああ・・・そ、ぞんな・・・私が・・・私が・・・・」


体を真っ二つにされ、最後の断末魔を上げたのち、マーチル・ホーンの肉体は即座に腐敗し、液状化していく・・・。


それを見届け、ヘクターは大きく後ろに尻もちをつくように倒れ込んだ。


「終わった・・・」

「終わったぞおおおおおおおおお!!!!!」


ヘクターの雄叫びが大空洞に木霊するかのごとく響き渡る。その声に呼応するようにその死闘を見届けていた全ての者達から歓喜の叫びが舞い上がってゆく。



その日、人類の夜に・・・ようやく朝日が昇り始めたのであった。



―浄化



ミシェイルと共にヘクターに斬られた俺は再び幽体になってしまった。


だが、先ほどの時とは違い、気持ちの方は随分とすっきりしていた。長年つっかえていた棘がようやく抜けたような、そんな清々しい気持ちである。



戦いを見守り続けていた魂達も、死闘の行く末を見届け、一つ、また一つと天へ昇っていく。その中には見知った者もいれば・・・過去に手をつなぎ一緒に生きた友たちの姿もあった。


アリシア・・・バベル・・・カイム・・・そうか、お前達も逝くのか。


皆笑みを浮かべて天へと昇って行く・・・。


では俺も・・・いや・・・。


少し苦悩したが、俺は決意を固める事にした。


あいつを・・・助けてやるか。



―最後の尻拭い



『封印の地』の奥深くで歓喜の雄たけびが轟く中、無残にもボロボロになりながら逃げ延びる一人の魔族。彼は息を散らしながら必死に逃走していた。



「はぁはぁはぁ・・・おのれぇ、最後の最後で全員裏切りよってぇええ」



目を血ばらせ、復讐の念に燃える男、それは紛れもなく先ほどヘクターに斬られたはずのマーチル・ホーンであった。


「不死身であるはずの私とした事が・・・これで身代わりも消えてしまった。また魂の抜け殻を集めなければ・・・」


そう、最後に辛うじて残った一つの残骸が幸運にもマーチル・ホーンの身代わりになったのだ。



「ふ、ふふふ・・・だが、我ながら自分の強運には感謝せざるおえまい。今は雌伏に徹し、また再び力を手に」


「それは無いわ、マーチル・ホーン」


再起を誓う、と独り言を呟くマーチル・ホーンの声に誰かの答える声がした。


「何者だっ!!!」


(まさか・・・人間どもにもう気づかれたのか!?)


「ずっと貴方の事見ていたのよ。・・・今は随分と無様の様だけど」


「何者かと言っているんだっ!暴血の呪槍群(デス・ブラッド)!!」



夥しい数の血の投槍を繰り広げるマーチル・ホーン。だが、それも全て空しく無力化されていく。


(この女・・・この気配、魔族か、それもかなりの手練れ!)


「ククク・・・ならば、これはどうだ」


(そうだ・・・私には・・・私にはまだこれが・・・)


マーチル・ホーンは指先に魔力を集中させる。


「あら?貴方、それはもう使えないのでは無くって?」


「!?」


(この女・・・何故、それを・・・)


「そうよねぇ、だって貴方が死角から放ったそれは貴方と共にあった抜け殻がある事が大前提。もうそれが無い貴方に・・・」



受けると必ず死ぬ魔法(デソウルスピル)は撃てないはずよねぇ」


冷笑を浮かべて笑いかけてくるその女に、マーチル・ホーンは始めて戦慄を覚える。


「そこまで知っていましたか・・・どこの手の者かは存じませんが、相当な千里眼の持ち主でいらっしゃる」


「ええ、いつか私の放った刺客を葬ったその時から貴方の力はとっくに解析済みだったのよねぇ」


「うふふ、誰にもバレないなんて思っていたのでしょうけど、知ってる?嘘で塗り固めようとすればするほど、案外肝心な所が抜け落ちているものだって事を・・・」


女の左目が桃色の魔力が揺らめき始める。


(あの左目・・・魔眼か、それに刺客、前に表れた影隠者(ダーク・ストーカー)を放った正体)




「いや・・本当に素晴らしい。一体、貴女がお仕えする魔貴族は一体誰なのです?もし、宜しければ是非私の末席、いや、その右腕にさえしても良いとさえ思うのですが」


「・・・やはり最後まで小物ね、まぁいいわ、冥途の土産に教えてあげる・・・私の主は魔族の中で最も強く、聡明はあのお方・・・」


「我が名は魔王直属近衛が配下、究明の心眼シャーデ」


(馬鹿な・・・魔王直属の配下だと・・・そ、それは)


そこまで思考したその時、自分の視界明一杯に女の美しい顔が映し出されているのに気づく。



(な・・・一体何が・・・)



「何をびっくりしているのかしら?当然の結果でしょう?貴方如きが私に勝てる道理など無いはずですもの・・・うふふ」


(横を見ると既に倒れている自分の体・・・では、今女の目の前にある私は・・・・)



「本当に奇遇ね、私も実は魂を抜き取って自分の体に取り込むのが得意なの・・・」


「貴方のまがい物と違って正真正銘の死の魔法・・・いえ、その魂さえ喰らうのだから余計にタチが悪いのかもしれないわぁ」


(そんな馬鹿な・・・これでは本当に死っ・・いや消滅・・・)


「それじゃ・・・どんな味がするのやら」


女の口が大きく開き、自分という存在が呑み込まれようとしていく。


(や、やめろ・・・いやだっ!!まだ、まだ消えたくない!!)



・・・ごくん。



怯える表情で哀れな最後を迎えようとしたその時、マーチル・ホーンの魂はシャーデに食われ消滅した。


「・・・ふぅ、あんまり美味とは言えないわね。これじゃあのお方にまた叱責されてしまうわ・・・」



そう言いながら、何事も無かったかのようにその場から消えるシャーデ。





だが、飲み込んだと思ったそれは辛うじてある者の手によって既に救い出されていたのだ。



(なんだ・・・私は・・・たすかった・・・のか?)



自分の意識がまだある事に驚くマーチル・ホーンの魂、そしてその手を力強く引く手。



(ほら・・・ミシェル・・・一緒に行こう)


(・・・アル・・・君・・・なのか!?)


その笑みに少年は軽く微笑みかける。


そして二つの魂は次なる転生を求め、また新たなる生命に生まれ変わっていく・・・。





霊長暦1603年

魔生暦7584年




第六魔貴族の一柱であったマーチル・ホーンが討たれ、同時に300年間封じ込められた皇帝が復活を成す。これにより、帝国はかつての息を吹き返し、新たなる繁栄の兆しに人々はようやく未来へと続く新たな一歩を手にしたのであった・・・・。




そして46年後・・・。















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