表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔石回収の手記  作者: 譽任
40/52

39話 前夜



―動向の気配



会談を終えたマーチル・ホーンは魔族領へは戻らず、既に根まわししている貴族の別館を貸し切り拠点にしていた。


そんな中、配下の一人が静かに表れる。


「マーチル様、調べていた例の魔族の件でご報告が」


「うむ・・・言え」


「その者、既に何者かによって葬られておりました」


「・・・妙だな、帝国の連中の口封じにしては随分と手が・・・いや、そもそも連中程度に後れを取るような輩だったのか?」


「その魔族については既に調べがついております。その者は第六魔貴族テヌージー様直属の配下であったソレア・ムーランであった可能性が高いと思われます」


「テヌージー直属の配下だと?・・・なるほど、まったくあの爺さんは部下に対する頓着が相変わらず甘いようだ」



「それで、死体は確認したのか?殺した者の目星は?」


「それが・・・魔族が住んでいたとされる森全体が焼かれ、損失が激しいもので遺体の確認はできませんでした」


「ふむ」


「ですが殺した者が魔族である事はどうやら間違いないようです。焼失した残骸から悍ましい程の魔力量を感知しました。相当の手練れで間違い無いかと・・・」


「そうか、分かった・・・下がれ」


「ハッ!」


部下を下がらせた後、マーチル・ホーンは深く目を閉じ、情報を整理していた。


(果たして魔族が殺された事と、今自分が行おうとしている事の関係性の有無、仮に有りだとすれば目的は何だ?殺した者と私の関係は?他の魔貴族の差し金か?)


(・・・否、邪推は混乱を招くだけか。だが、なんにせよ邪魔者を始末してくれた事には感謝せねばなるまい)


(今回の会談で帝国側に『進化の技法』の事が露呈していた事は予想外だったが、その()()()()までは見抜けなかったようだ)


(おそらくモズナル様は私如きがアレをどうにか出来るなど思ってはいまい。それでいて尚、私にそれをあえて譲歩した・・・ならば私の取る手は一つのみ・・・)



(悪いが、帝国には礎となって貰おう・・・そう、厄災(カラミティ)のね)



マーチル・ホーンは静かに、そして低く唸るように笑った。



ーーーーーーーーーーーーー



―独断専行


バンッ!


「いい加減にしろよ!!」


人魔会議が終わった後、すぐに会議が開かれ俺達も参加しているが、その内容は開始早々大いに荒れる事になる。中でも・・・。


「おいジゲン!よりによって陛下を・・・陛下を討つとはどういう事だ!!」


先ほどから啖呵を切る威勢のいい声の主はあの酒場で飲んだくれていたヘクターという傭兵である。というか、クビになったんじゃなかったっけこの人。


「言葉の通りだ、陛下の意思無きと判断すれば速やかに眠りについてもらう」


対するジゲンの方は相変わらず冷静そのものである。


「だからそれがふざけるなって言っているんだ!復活直前の陛下の意思をどうやって確認取るつもりだ?まさか・・・呼んで返事が無かったら斬りつけるつもりじゃねぇだろうな??」


「・・・その通りだ」


「このクソ軍師がぁ!!!」


「ヘクター殿、お待ちください!!」


ヘクターが危うくジゲンの胸倉を掴もうとする寸前でジェミニが慌てて止めに入る。


「これはジゲン様にとっても苦渋の選択なのです!大体、あの魔族が完全無事である陛下をあの程度の条件で解放などすると思いますか?」


「だけど、もっと何か方法はあるだろう!?陛下の姿が見えた瞬間に即座に保護して撤退するとか、安全な場所まで行ってそこで時間がかかっても陛下の意識を回復させるとか・・・なんで、すぐ・・・お前らにとって皇帝陛下は・・・誓った忠誠心は何処に行っちまったんだよ!?」



「ヘクター・・・お前はもっとも重要な事を見落としている」



「皇帝陛下が、もし意思不能にて味方の判別が出来なかった事を考えてみろ・・・その時、私たちが対峙するのはあの()()()()なのだぞ」


「・・・!!!」


ヘクターの顔が急に青ざめていく。


「お前はそれでも悠長に陛下の保護だの、時間をかければ生前の通り意識が元に戻るなどと言えるのか?」


「だが・・・しかし・・・」


「ヘクター・・・お前は陛下を止められるのか?」


その言葉がどうやら決定打になったらしい。ヘクターは力なく腕を落とし。プルプルと震えている、熱い男だ、ヘクター。


「ジゲン様、では、やはり陛下は・・・」


「ああ、十中八九、こちらも無事では済まないだろう」


「これは最早時間との勝負だ。復活直前に最も行動を起こした側こそ、大いなる成果を手にする事が出来る」


「そして我々の勝利条件は『伝承』を継承させる事、それだけだ」


「だがもし、何らかの形で陛下と戦う事になった場合はどうする?下手な戦力じゃまともに立つ事さえ叶わんぞ?」


帝国兵の中でもひと際デカくごっつい男がジゲンに問う。重装歩兵団長、確かバランだったか。


「当然、我々も総決戦で挑む覚悟だ、今の我々の戦い方を陛下に見て頂こう」



そこからジゲンが組み立てる戦術を皆で聞く。


「まず、あの魔族と共同で魔力を注ぎ込む二人についてだが・・・」


「ジ、ジゲン様!!お耳に入れたい事が・・・!!」



伝令が慌ててジゲンに耳打ちする・・・それは一瞬であったがわずかにジゲンの目が大きく見開く、そして・・・。



「・・・森の魔女が襲撃され消息を絶ったそうだ」



は?・・・ソアレが、死んだ?



俺の中についこの前の出来事がフラッシュバックする。魔族らしかぬ容姿に性格、質素だけど懸命にささやかな目標に向かって新たな人生を歩もうとしていた・・・あの気さくな女性が・・・。


ダンッ!!!


誰かが両腕で台を思いっきり叩く。


ドニヤだった。


「ウソだろ・・・なんでソアレが・・・」



「マーチル・ホーンが接触するだろうと、こちらも様子を見る矢先だった」


ジゲンが淡々と説明する。

マーチル・ホーンが接触?



おい、それって・・・。



「お前・・・ソアレを売ったのか!?」



「私はただ『はぐれ魔族』と、言っただけだ」


「同じ事だろうが!!!」



・・・大人しいドニヤがここまで怒りを露わにするなんて始めてみたぞ・・・。だが、その気持ちは最もだ。あんな重要な情報を教えてくれたソアレの事をあろうことか一番利用しそうな魔族に教えやがって・・・。


「あの魔族と親密になれたのは評価しよう、だが、魔族は所詮、魔族だ。私としては一つの脅威が消え・・・」


「てめえええええ!!!!」


ドゴーーン!


ドニヤが台ごとお構いなしにジゲンに突っ込み、そのまま胸倉を掴んで壁に激突させる。王宮中に響き渡るその轟音にその場に居ない者さえも慌ただしく室内の様子を見に来る。


「ぐふッ・・・」


「ジゲン様!!!!」


「貴様、その手を離せ!!!」


さすがにガード不可能だったのか、ジゲンはもろに壁に激突し、口から血を吐く。ジゲンを守ろうと警護に当たる兵士達がドニヤに剣を向ける。


「人間だって皆がまともな訳じゃない!魔族だってそうだろうさ!だが、アンタのやった事は信じられないから殺したと言っているのと何も変わっちゃいないんだよっ!!」


「ドニヤ、やめろ!!」


「そうだよ!気持ちは分かるけど!」


ロドリーやミリューも慌てて止めに入るがドニヤの力はどんどんジゲンの首に力をこめ続ける。


「・・・お前が・・・殺したくないから殺すな、だと?ふざけるな女」


驚いた事にそんな状況でジゲンが何とか口を開く。


「なにぃ!!」


「お前が信じたから、帝国もそれを信用しろというのか?何百万という民の命の重みを・・・お前の言葉の通りに信じろと・・・」


「・・・ソアレは本当にいいやつだったさ」


「そう・・・だろうな。だが、あの魔女も魔族である以上、どこかできっと人間を・・・殺しているはずだ・・・」


「ドニヤ、いいからもう離せ!死んでしまうぞ!」


俺の言葉を皮切りにその場にいる全員でドニヤとジゲンを引き離す。それでどうにか二人を離す事が出来た。ドニヤが引いてくれたのだ。


「だから何だって言うんだい、魔族とは戦争中なんだ、人の一人二人、殺す事もあるだろうさ」


「お前が今言った通り、魔族と人間はまだ争いの最中だ。敵である者を信用できない事が、そんなに不服か・・・」


息を整えながらも反論するジゲン。

そして、さらに続ける・・・。


「どれほどに、心を開き、本音を開こうとも、その後ろに圧倒的な力があるのなら、それは我々にとってただの脅威だ。人に武器を向けて何が人類との共存だ・・・笑わせるなっ」



・・・考えてみれば俺達はソアレの事を何も知らない。ソアレという魔族がどれだけ強く、そしてどれだけの人を殺めてきたかなど・・・。だが、俺達を出迎えてくれたあの気さくな人柄の中に誰かを欺く心があったなんて事は絶対に無かった。その気持ちは俺もドニヤと一緒だ。だが、同時にジゲンの言っている事も理解できる。


昔見た映画を思い出す。銃を構えた兵隊が笑顔で敵国の一般人に挨拶するが皆が自分に怯えているのを不思議に感じる。だが、銃を構えている事に気づき、慌てて仕舞うもその後、誰もが彼を怖がってまともに話そうとしなかった。


つまり、人を簡単に葬る力を持っている。その事実だけで、その人物がどれだけ優しかろうが弱者にとっては『悪』なのだ。



「・・・言いたい事はそれだけか・・・」



ドニヤが斧をジゲンに向けて構えようとする。不味い・・・!誰かドニヤを・・・!!!



「待ってください!!!二人とも落ち着いてください!!」


ジェミニが緊迫した面持ちで割って入る。


「たったさっき人魔会談を終えたばかりなのに、どうやってマーチル・ホーンがあの魔女を殺せるのですか?ジゲン様は確かに『はぐれ魔族』とだけしか言ってませんでした。たったそれだけの情報で、こうも短期間に追手を差し向けて暗殺を謀るだの、絶対に不可能です!」


「一芝居売ってた可能性だってあるだろ?あのクソ魔族は事前にソアレの事を知っていた可能性だって・・・」


「それなら尚更ジゲン様を責めるのはお門違いですよ。今はこんな事で争っている場合では・・・」



「皇帝の事なんか・・・こっちは・・・」


「・・・クソッ!!!」



ドニヤは最後にぐっと堪え、悪態を吐いて部屋から出て行った。


「ジゲン様に対してなんと無礼な女だ!おい、さっさと捕まえて牢屋にぶち込め!」


大臣達が慌てて指示を出すもジゲンが手で制止する。


「よい・・・この事は不問にしろ」


「しっ、しかしジゲン様」


「私が良いと言っているのだ、それにしても何という力・・・ドワーフというのは皆あれ程の怪力の持ち主か・・・」


咳き込みながらもジゲンは薄い笑みを浮かべていた。


「ドニヤとか言ったか、あやつには来るべき時に全力で暴れてもらおう」



・・・・・・・・・・・



「ドニヤ・・・気持ちは分かるけどさすがにやり過ぎだ」


「・・・・・・」


ロドリーの声にも反応を見せないドニヤ。


「さすがに今回は相性が悪いかもね、ぶっちゃけ帝国なんかどうでも良いし、降りる?」


「お膳立てというなら私たちはもう充分に役目を果たしたと言えますしね」


ミリューもラミもここまで怒れたドニヤを見るのは初めてだったらしく、宥めるようにこれ以上関わらない事を提案する。



「・・・冗談じゃない」


それをドニヤが一蹴するように否定する。


「こうなりゃソアレの弔い合戦だ、私は一人でもやるよ」


「良いのか?今回ばかりは・・・ソアレを葬る程の実力を持った奴が相手だぞ?」


俺は自分でそんな事を言いながら、やはりどこかで最悪の事態を想定している。ドニヤには悪いが、ここはやはり退くべきなのかもしれない。


「なんだって良いさ、あのクソなオッサンの言う通りだよ、所詮魔族は魔族・・・またふざけた事するようなら全力で潰す」


「まぁ・・・勢いばかりでも仕方ねぇさ、俺達は俺達で万全の準備で望もうぜ」


「そうね、持ちうる最大の手で挑めば・・・逃げる機会ぐらいは」


「ミリュー、貴女はいつも逃げる事ばかり考えてますね」


「はぁー!命あっての冒険でしょうがっ!」


・・・突然の訃報で危うい感じになったりもしたが、結局いつも通り、そして決意は皆固まったようだ。こうなるとこちらも腹をくくるしか無い。


あれから三日程経った後、マーチル・ホーンからの伝言で皇帝復活の儀を行う場所と日程が告知された。そこはかつて初代皇帝であるオストワルドが封印したとされる洞窟だった。ジゲンは選りすぐりの精鋭を編成、さらにそこに武装商船団、聖騎士、魔法ギルドのメンバー達も加わり、その規模はかつてない程にまで膨れ上がっている・・・そして、全ての準備が整い、明日、いよいよ『封印の地』にて復活の儀を行う事になった。



ーーーーーーーーーーーー



―最後の夢(復活の儀の前日)



またあの時の夢、だが以前とは違いより一層に過去の記憶が掘り起こされてゆく・・・。


アリシアと呼ばれた少女。彼女の魔力感知のおかげで今日も何とか凌ぐ事が出来た。一番年下だからか、この中で一番恐怖を感じる事に敏感な子だった。


バベルは皆のリーダーだ。


的確な判断で何度も僕たちを助けてくれた。生き残るのはどうすれば良いのか、彼の力強い言葉はいつも僕らを励ましてくれた。


カイムはおっちょこちょいだが、いつも元気に溢れる子だった。皆が悲しみや憎しみで心を乱す事が無かったのも彼のいるおかげだった。カイムが冗談を言うとまるで何もかもが些細な事のように思えた。


そして、xシxxは僕の一番の友達だった。最初こそ僕の事を軽蔑していたようだが、ある日を境に急に親しくなっていった。


(アル!お前は一番弱くて役に立たないんだから絶対に無理するな!)


彼の白い手はいつも僕の手を握ってくれた。僕たちは皆家族で、そして兄弟だった。生きていればいつかきっと自由になれて羽ばたけると信じていた。


だけど、僕は最後まで・・・その白い手を握ってあげる事は出来なかった。だから最後に力いっぱい握りしめたんだ。


(xシxx・・・みんなの分も・・・生きろ・・・)



・・・・・・・・・・



目覚めると全員が俺に注目している。


中でも一番驚いた顔をしているのがペリエだった。

そんな顔も出来るようになったのか。


「鹿が・・・泣いてる」


えっ?俺が・・・泣く?


何を馬鹿な、鹿である俺に涙なんか出る訳・・・。



すーっ・・・


確かに目元が濡れている。


しかし思い出せない、なんで俺は泣いているのだろう?大事な思い出なのに、思い出すべきじゃないとどこかで叫んでいる。



「母ちゃんのおっぱいでも思い出したんか?」


「さすがにそれで泣かないが」



じゃあ一体なんで俺は泣いたのだろうか?

寝ていて夢を見ていた事だけは覚えている。


ここの所、毎日同じような夢ばかり見ているような気がする・・・あれは、俺の記憶なんだろうか?



だとすればそれはすごく悲しい出来事だったに違いない。あの時いたものは、きっと皆この世にはいないのだ。人が死ぬ時に流れる涙は理屈抜きに悲しい、それが本当に大事にしていた人達なら尚更・・・・あっ。


だから俺は泣いていたのか。


だが、それも幾度と繰り返した俺の人生の一つ。それもかなり古ぼけてしまった曖昧な記憶・・・。



そんなものが何故今になって夢に出てくるのだろう?

それに相変わらず心がもやもやしている。



俺は何かを見落としているのか?

誰かを・・・忘れているのか?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ