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魔石回収の手記  作者: 譽任
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20話 強欲





従来、魔族は人間を力と恐怖で支配した。しかし結果は多くの者が脱走を図り、そして多くの者達がその中で命を落とした。数を減らした人間の生産力は大きく減少。魔族はこの失敗を教訓とし、人間の扱いを何段階か下げる事になる。直接的な支配を無くし、間接的に干渉する事で食料や日用品などの生産を自主的に行わせるようにしている。



多くの魔族は概ねそれで十分だと考える、否、それ以上の期待は無用だと悟った。だが、逃げ延びた人類に国家間で干渉する事で莫大な利益を得られると考えた魔族がいた。



それがここ最近勢力を伸ばしつつある新興魔貴族。かの者は内密に大量の魔石を人類に売りさばき、莫大な富を得る。そして人類からは金銀財宝に高級家具、また質の良い奴隷などを買い占め、それらを惜しまなく他貴族達へ振舞続け・・・




ついにその魔族はその地位を勝ち取った。



その者の名はマーチルホーン。



力こそ全てという魔族社会において唯一他の切り口で上流階級へ上り詰めた新興勢力の筆頭貴族であり、第六魔貴族の一人。



ある夜、第六魔貴族による会合が行われる。


主催はマーチルホーン。


そしてその内容とは・・・。




「皆さま、本日は私の呼びかけに応じていただき、誠にありがとうございます」

「それではまずは乾杯致しましょう、この魔族領の栄華と・・・」


「更なる繫栄に!」



300年に一度とさえ言われるヴィンテージワインを惜しまずグラスに注ぎ、一段と気品に満ちた会合に集まった全員が乾杯する。



「では、マーチルホーン。議題を」


「はい、モズナル様。私マーチルホーンは人類との共存共栄を望み、この魔族間において更なる発展へと貢献したく存じます」


「つきましては、プラムフィー様、サンバイシン様、そしてモズナル様の3方様が連名で管理されている『進化の技法』の権限を私めにお譲り頂きたくお願いに上りました」



「マーチルホーン卿、貴方ではあれは扱えませんわ。ねぇ、お兄様?」


「まぁ、待てプラム。それが本題ならマーチルホーンもそれなりの理由があっての事、一体何故『進化の技法』を手にしたいのか、訳を話してくれ」


「はい、サンバイシン様。『進化の技法』はその膨大な魔力、我々魔族の技術の結晶でございます、そして・・・あれは人類の進化を止めたものである事は、ここにいる皆様全員が知っての事」


「今回、私めが行いますのは人類に対して、この『進化の技法』を掲げ、新たなる取引を行う次第でございます」


「・・・つまるところ、恐喝か、成金がやりそうな事だぜ」



「フッフッフ、スラプサウズ様、これは決して恐喝などではございません。人類が本当に我々に誠意を見せた暁には、私はその恩賞として人類に『進化の技法』を受け渡しても辞さないと考えているのです」


「その真実を人類に突きつけるのか・・・それでお前の取引なるものが有利に事を運ぶのか?」



「ええ、モズナル様、必ず。人類は今まで以上に大いなる益をもたらしてくれる事でしょう」



「それでは皆様、如何に?」



マーチルホーンが冷静に、それでいて野心に満ちた目で審議を問う。


「それでは、皆様、私、モズナル様が配下メルデソーが採択を取らせて頂きます」


「マーチルホーン様に『進化の技法』の権限を移行させる事に賛成の方は挙手を」



6人にうち手を挙げたのは3名、これにマーチルホーン本人の手を加え、この採決は可決される。



「皆さま、ありがとうございます。このマーチルホーン、この身を持ってますます皆様の為に尽力する事をお約束いたします」



席を立ち大きくお辞儀をするその顔は事が全てうまく運んだ事に対する自身に満ち溢れた笑みをこぼす。



(『進化の技法』であの者達の力を取り込めば、私の精神支配は今にも増してより強力となる・・・その時こそここに居る時代遅れな人達には是非とも私の術中に収まって頂くと致しましょう)




―会合を終えた夜



月夜を肴に男は一人、真夜中の静寂に乾杯した。注がれたワインは男が自分の舌で探し当てた最高で安価な一品である。男は本当に価値のある物は自分自身で確かめ、手に入れる事を是としている。



酒も、物も、そして人脈をも・・・。




魔族の力は生を受けたその瞬間で決まる。男に与えられた力は遠くに及ばず、故に男はそれ以外の方法で上にのし上がらなければならなかった。そして、手段を選ばずその地位を得た男に対し、者々は男を『強欲』の二つ名で呼ぶようになる。だが、それは男にとって耳心地の良い響きでもあった。欲に忠実であるからこそ、如何なる屈辱にも耐え、力を手に入れる為に走り続ける事が出来た。欲望こそが力。格式社会の中で品に欠けた、なんて言われようとも大いなる力を手にした後でいくらでも優雅に振舞っていけばいい。



「フッフッフ、最後に笑うのは・・・この私だ」



独り言かと思えたその言葉と同時に、男は月夜に照らされた己の影に胸の急所を貫かれた。呻き声さえ出せず、その場に崩れる男、その手には男の持つ盃から赤い血のようなワインが零れていく。



「なるほど、影隠者(ダークストーカー)ですか・・・傀儡子(くぐつ)を差し向けるなど、私も舐められたものです」



男の影から現れた影隠者(ダークストーカー)は殺したはずの男の遺体を再確認する。男は間違いなく心臓を貫かれ死んでいた。はずだった。



「腑に落ちませんか?確かにこの貴方の暗殺剣は正確に私を殺しました」



・・・では、この心に直接響く声は一体何処から?影隠者(ダークストーカー)は辺りを慎重に探索する。



「無駄ですよ・・・私は既に殺されてたのです。どれだけ探索しようが私以外の私は見つかりません」



その時、ピクリとも動かないはずの男の目が影隠者(ダークストーカー)を捕らえる。



「・・・・受けると必ず死ぬ魔法(デソウルスピル)・・・・」



男がそう呟いた瞬間、影隠者(ダークストーカー)は黒い煙となって虚空へ消えていった。



「私の受けると必ず死ぬ魔法(デソウルスピル)に制限はありません。如何なるものであっても必ず死へと誘うのです・・・」



むくりと起きた男は誰に言うでも無くそう呟く。


起きた男の下には先ほど殺された男の死体が眠る様に横たわっていた。


「さようなら私よ。今度生まれ変わる時は・・・いや愚問だな」


黒炎に巻かれた死体は、瞬く間に灰となり、風に晒されて消えていく。



「無駄ですよ、誰も私を殺す事などできません・・・」



消し去った影隠者(ダークストーカー)を笑うか、それとも代わりに死んだもう一人の自分を嘲笑うか、男は笑みを零しながら自ら住まう宮殿の闇夜へと姿を消していった。




その様子を遥か遠く、魔眼で覗き込む者・・・。



「なるほど、不死を装っての魂の複製、それを幾多にも渡り重ね合わせているのね、さしずめ薄っぺらな(テクスチャー)千枚の葉(ミルフィーユ)とも言うべきなのかしら・・・考えているじゃない」


「そして、その受けると必ず死ぬ魔法(デソウルスピル)は、中に紛れた本体から繰り出す完全必中のスキル攻撃を魔法と掛け合わせて発動させている」


「私は弟じゃないから詳しい術式の類は分からないけど、物理法則外から繰り出す必中魔法、テクニカル系の『強奪』かしら?何にせよ、精神系を装いながら裏をかく辺りはさすがと言いたい所だけど・・・」


「貴方、少々こじらせすぎよ・・・何よりこじらせすぎてタネが分かっちゃうと対処は容易、複雑な術式がかえって怪しさが目立ってしまってダメね」


「ふぅ・・・やはり小物ね、マーチルホーン。長く生き長らえたいのならそのまましばらく大人しくしていて頂戴・・・」



そして、その者も・・・いつの間にか闇夜から姿を消していた。



桃色宿す魔眼の燻りを残して。





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