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魔導書と隠れ家


 少し重苦しい扉を開こうと力を込める。丁番が錆びているのが引っかかりを覚えるが問題なく扉は開きそうだ。


 部屋の中央には小さな四足の小さな机と、もう遠い昔に倒れたままと思われる古びた木造な椅子。机の上には蝋燭が乗せられていない筈なのに光っているキャンドル皿。チョークか何かで書かれた複雑な魔法陣らしき物が机に直接描かれている。そして古びた本が二冊。


 四隅には本がいっぱいに詰められた棚があり、おおよそ読めるかどうかはここからでは見えない位には表紙が掠れている。

 不思議なことについ先ほどまで痛いくらい嗅いでいた焼けた香草の匂いの元が、この部屋にはない。それどころかこの部屋に入ってから香草の匂いも、下水の匂いも、一切がない。あるのは古い本独特の匂いしかしない。

 本棚に収められた本から歪な力を感じる。不思議な魅力というか、古書特有の魅力ではなく、本当に歪な力を。ジャンルも、本の色も、おそらく書かれた言語すら別だろうそれを

 特に机の上にある一冊はおかしさすら感じる。通常感じる本に対する感想というのがあるだろうに、この本からはどんな感想すら浮かばない。何かを考えて、感想をその本に当てはめようとすると、頭の中から言葉が霧散していく。形が取れない、何も思えない本。

 

 「…あれ?」


 ふと、私がそれを見てから、一歩も部屋の中に進めていないことに気が付く。足が震えていることも、気が付けていなかった。私の事なのに。

 痛みが伴っているわけでも、わかりやすい恐怖の対象が其処にあるわけでもない。ただ不思議であるだけ、それだけなのに私は、未だにここから動けずにいる。


 「……ゲームだから、大丈夫。」


 別にゲームなのだ、現実ではどうということはない。

 未だに震えている足を一歩前に動かす、別にどうという事はない。息が上がっている。

 

 「……やっぱりなんともないじゃないですか。」


 一度、部屋の中で歩みを進めれば充分に歩けるようになる。私の事とは言え、単純だな、ゲームの演出程度に怯むだなんて。

 さて、先ずは部屋の中をひっくり返さなきゃ。


     ***





 「……と言っても、やっぱりこれくらいしかないか。」


 倒れていた椅子を戻して、机の上に置いてある何故か光っているキャンドル皿を近くに寄せる、やはり原理こそわからないが、このキャンドル皿には火が付いた蝋燭が乗っているのだろう。ほのかに熱を感じる。


 キャンドル皿を持って四隅の本棚に向かう。

 中に入った本は、言語問わず、ジャンル問わず様々な物があった。多少は見慣れた言語の物が多かったが、いくつか見たことがない言語で書かれたものがあった。このゲーム特有の言語なのか、それとも私がただ知らない言語なのか……にしたってそんなマイナーな言語を入れる物か?


 机の上にある二冊に関しては、やばい本一冊と、比較的ヤバくなさそうな本一冊。

 比較的ヤバくなさそうな本は、見た限りだいぶ古い本。表紙にタイトルもなにも描かれていない為おそらく写本ではないと思われる。

 触れても……特に何も起きない…


 「…あれ」


 開かない。古書特有の頁の引っ付きとか、そういう感じのじゃなくめちゃくちゃ硬い、表紙とそれに接しているページがひとつひっついているとかならわかるが、なんかこう、見えない万力で両側全部押されてて、無理やり開こうとしても開けない感覚。


 「ん~!!!!」


 精一杯力を込めると、それと同じ力で押し返される。もとより開けない設定なのか、これの本当の持ち主がかけた魔法によるものなのか。

 匂いを嗅いでみると、微かに果物の乾いた匂いがする。紙の部分を少しなぞってみるとざらざらとした感覚がする。羊皮紙か。古いな。

 しかし本棚には普通に紙製の本が多くあった。また時代錯誤か。このゲームには時代考証とかしないのか。


 ダメだ、開かない。

 丁寧に机に比較的ヤバくない本を置いてから、何の印象も抱けない本を眺める。これを触って、読むのか?私が?

 とりあえず、触れてみる。触れるだけでは何も起こらないと思う。


 「…そもそも、これ誰の本?」


 表紙を舐めるように見てみるが、著者名などは見えない。タイトル等も書かれていない。とりあえず表紙に触れるだけでは特になにもないらしい。

 慎重に表紙を持ち上げて、中身を見る。そこには黒いインクで書かれた文字が二つ。至る所にインクが飛び散って見にくいことこの上ない。

 大きく読め(Read)と端に描かれているが、大きく書かれている方を読めということだろうか、筆跡が明らかに違う。


 「…なにこれ…大いなる……大いなる……液体?」


 言葉的にはラテン語。多分旧い方のラテン語。現実での知識が少しだけ役に立ったことがうれしく思う。

 タイトルを読むと、本が光り始める。


 <クエスト『狂人最後の引継ぎ』をクリアしました>

 <魔導書を入手しました>

 <マイルーム『狂信者の隠れ家』を入手しました>

 <レベルが上がりました>

 <アイテムが更新されました>

 <ステータスが解放されます>


 ……まぁ。なんだかんだ上手くいったみたいですね。


***



 ————————————


 Name: アヴィ

 Race: 人間

 Book: 大いなる液体

    狂人のノート

 Skill: 『種』Lv3

    『魔力感知』Lv2

    『魔術理解』LV2

    『精神力』LV1

 称号: 「犯罪者」「目立ちたがり屋」「初めての魔女」「殺人者」「悪意の塊」「狂人を継ぐもの」「墓荒らし」


 ————————————


「…なるほど、こうやって見れるのですね」


 魔導書を開くと、一頁がまるまる私について書かれていた。ずっと謎だったステータスが見れて私は大満足なのだが、詳細が見れないのだけがダメだな。タップしたりしても特に反応しない。アイテムは次の頁に描かれているのだろうか。


 称号に関しても……まぁ自他ともに認める内容しか入っていない。目立ちたがり屋に関しては首をかしげるが。私は目立ちたがり屋なのではなく、反抗期なのだ、所詮AI、人間の心を行動からしか理解できないんだろう。


 「……まぁ、今日はこれくらいでいいでしょう」


 一日目の目標だった久我と一緒に遊ぶ以外は達成できたのだ。

 はしゃぐ、仕様を理解する、本を入手する。人と会話する。火遊びする。


 「……そういえば、結局これまだわからないままでした。」


 手帳に描かれた、最初にキャラメイクを手伝ってくれた彼の名前。読みもわからなければ理解もできない文字。何を意味しているかわからないものを文字と言い張るのはいささか腹が立つ。ぶん殴れるくらいにはなりたいものだ。


 「ま、またいつかでいいでしょう、時間はいくらでもあるんだから」


 そういってシステムメニューを開いてログアウトを選択する。

 また明日。


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