二回目の火遊びと逃走
<レベルが上がりました>
<称号が追加されました>
<アイテムを入手しました>
少しばかり視線を横に向けるとシステムメッセージがポップアップとして流れいていくのが見える。元は白い文字なのだろうが、体が炎に包まれている為に赤色に見える。
視線をもとに戻すと、広場中の屋台が燃えている。布と、木で組まれた簡易な屋台達だ。当然燃えやすいが……なんか燃え広がりすぎじゃないかとも思う。
そしてレベルなるものが上ったという事は当然だが少なからず誰かにダメージを与えたという事は…
「おーほっほ~!燃えてる~!」
小さな影が、広場の端の方で転げまわっているのが見える。ダメージを与えるだけで経験値が入るのか、というかそもそもどんな行動をすれば経験値が入るのかすらもわからないが。多分あれが少なからずレベルアップに関係しているように見える。
充分燃えたくらいで自己発火の魔法が解ける。自分で解いたわけでもないのに解けるのは…魔力切れだろうか、つい先ほどまで感じられていた腹の中の力が、小さく感じられる。外に向けるほどの力が、感じられなくなっている。
私の魔法が切れたことを確認してから、周りの人たちが酷い顔で私に迫ってきている。
酷いことをしたのは私だが、なぜそんなに怒るのだ、現実ではないのに。
「おい!!お前!!なにしてんだ!!!」
先頭に立っている男が私に向かって怒鳴ってくるので、仕方なく彼に向かって両手を挙げて歩いていく。
「お、おいお前!!立ち止まれ!!!」
両手を挙げているというのに、彼は私にとまれと言ってくる、水に足をつけたままでは寒いので噴水の外に出る。
私が一歩歩くたびに私を包囲する人間が一歩ずつ下がっていく。
「おい!だから止まれって!!」
「ごめんなさい」
私の謝罪の言葉を信じられないような顔で聞く男の人。なんだ、聞こえなかったのか。
「…聞こえませんでしたか?ごめんなさい」
「…は?」
「…謝っています。謝罪を受け取ってはくれませんか?」
***
おおよそ、10人ほどに囲まれながら、その中心に私は正座している。
私は知っている。反抗期は、常識を疑う行動をしながらも、謝るのだ。心にあるかどうかとりあえず置いといて。
もちろん私は心にもある言葉だ。きちんと誠心誠意謝罪してこその言葉である。
「…あ~…なんだ、何を思ってこんなことしたんだ?」
「自己発火の仕様を知りたかったのと、魔法の使い方を知りたかったからです。」
私は本当に自己発火の仕様が知りたかったのだ。わかったことと言えば私はおそらく、火を扱う術に向いていないということ位だ。自己発火、誰でも使える魔法で、自分すら燃やし尽くせず消えた。つまり私には火が向いていないという事だ。
やりにくそうな顔を浮かべながら私に向かって質問をしている男。NPCかプレイヤーなのかは外見からは判断できなそうで少し残念である。
だが少なくとも遠巻きに私を睨んでいる人たちがNPCだろうか、焼き鳥売りのおっちゃんも私を良く分からない目で見ている。
「どうしたんだい、何か騒ぎでも?」
また一人来た。優しそうな顔の男が遠くの方からきて、私と他の燃えカスをみている。
「…ん~……おとなしくしてろよ」
「おとなしくしていろ?」
おとなしくしていると何があるのだろうか。彼の表情的に、何かあるのだろうが。
「街には衛兵がいるからな、そっちに渡す。初日にもいたんだよお前みたいな考えなし。」
「…衛兵に捕まると、どうなります?」
「…そりゃあ…話じゃ牢に入れられるらしいが。」
「え?それは困ります」
初期装備のナイフを彼の喉に刺すように、飛び上がりながら飛び上がる。垂直に飛び上がったせいで、喉には刺さらず喉と平行に頭の方に、顎と口腔内に向かってナイフが深々と突き刺さる。
「……ぇ?」
あの刺さり方だ、やがて自分の血で溺れるように死ぬことになるだろう。
男の人達はは、いまだ状況を理解できていないのか、小さく漏れた悲鳴が。流れる空気に乗って聞こえるみたいだ。刺された男の人も勢いよく刺しすぎたか、痛みがなかったのかいまだに唖然としている。
刺したナイフを勢いよく引き抜いて、男の足を払って転ばして、全力でその場から逃げる。
衛兵に捕まると牢に入れられる、そうなると、久我と一緒に遊べなくなる、それは避けたい。
「……っはぁ?!おい!!追いかけろ!!」
「おい!!お前!!大丈夫か?!!」
「おい!!!止まれ!!」
ダメだな。反抗期だってまだまだなのに、反抗期から一番遠い場所に行くわけにはいかないのだ。それに久我との約束もある。
まだまだ自由を謳歌していない。おもちゃ箱で遊んでいない、なのに牢なんてお断りだ。
「おじさん!!おじさんの焼き鳥美味しかった!バイバイ!!」
全力で走っておじさんの屋台の裏側に回る。自分で自己発火の魔法を使って気が付いたが、これで一々屋台の鳥を焼いていたら骨まで焼ける。火力もそこまででない。だからこそ引火するガスのような何かがあると見た。
裏側には丸い金属があった、小さいガスボンベのようなものが。ナイフで自分の手を切り、血液を付着させて、それを全力で後ろに投げる。
甲高い金属が地面とぶつかる音。
「自己発火!」
自分の体が燃え上がると共に、背後の爆発音とともに広場を後にした。
***
さて、どうしたものか。色々巻き込んで地下の水道まで逃げてきたはいい物の、多分あの男の人たちが言っていた衛兵なる人物が私を追ってきている。多分全身鎧を着たあの物騒な人たちだ。
なんでゲームでみんないい子ぶろうとしているんだ。ここはゲームだというのに。自由であるというのになぜ率先して縛られるような行動をとりに行くのだ。
水道…いや、これは下水道だ。下水道がこの時代であるのはおかしいと思うが。
「…ぁあ!!どうしよう!!外に出れない!!」
ああ!!どうしようどうしよう!!久我と約束して、一緒にゲームを遊ぼうって、ゲーム買ってもらって!!どうしよう約束破りになってしまう!!反抗期だって言っても約束は破っちゃいけないだろう。
不良は特に仲間意識が高いと聞く。私は、私は不良になれないことになってしまう!このままだと、私は久我に見放されてしまう!!
違う、そうじゃないだろう。私は……
「アヴィ…アヴィ、あなたは大丈夫。私は悪い子なんだから。」
そう。私は悪い子だ。悪い子は、きっとこれくらいはするだろう。多分きっと。おそらくメイビー。だから私は大丈夫なのだ。
「……本当にどうしようか。」
水の流れる先を登っていくが、特に代わり映えのない景色がずっと流れていく。
特に、臭いがキツイ。下水が流れているということは当然便達が流れていく。つまり臭いが強い。臭い……匂い?
道の先から蝋燭の溶ける匂い……線香ににた香草の燃える匂いがする。どこから?
「……壁の中から?」
壁の先から、匂いがする。匂い消しの為に強く炊いたのだろうか。壁の先まで強く匂いが届いている。
壁を押したり、叩いたりすると、壁が剥がれていく。
剥がれた壁の中には……扉……?中から光が漏れているように見える。
「……まだ運は残ってるみたいで」
誰にも届かないけれど、久我にだけは多分届いてほしい言葉を吐いて。
少し息を吐いて扉に手をかけた。