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初めての火遊び






 目が覚めると、石造と木造が入り混じった家屋に囲まれた…広場だろうか、中心には噴水がある。少しばかり時代設定がおかしそうな感じはするけれど…


 「…ま、これも魔法の力という奴でしょう、」


 周りを見渡すと私と同じような恰好をした人間がいっぱいいて、少し気持ちが悪い。幾ら少しマイナーよりとはいえ三桁くらいはこの広場に居るんじゃないだろうか。

 そしていつもはないはずだろう屋台が幾つか見受けられる。祭りだろうか。

 両手を挙げて伸びてみたりする。肺に入る空気には流れを感じられるし、背中から肩にかけての筋肉がほぐれるような感覚だってしている。中に入った骨が軋むような痛みもする。


 法律順守(多分)で現実を再現したとのふれこみを信じたかいがあったようだ。


 「…ふむ。魔法の使い方、覚えないと。」


 私の持ち物、恰好は初期装備のままだ。魔術師っぽいローブ…あぁいや、これは魔術師というより旅人っぽいローブだろうか。それに白紙の手帳と羽ペン、ある程度の文字が書けるインクが入った壺。そして小さなナイフ。

 手帳の中に魔術単語が描いてあるかと思えばかいてない…期待しただけに残念だ。魔導書とやらを見つけるまで彼の名前を解読するのはお預けだな。とりあえず覚えているうちに彼の名前を書き綴る。


 彼の名前…だと思われる記号はヘキサグラムの内にエニアグラムが中に入っているように見える、その外側には二重になった縁がそれを囲っていて、そうしてそれを装飾するような線が幾つも折り重なっている。少なくとも彼の名前を魔法的に記述するとこうなるというのだろう。

 少なくとも彼は星型多角形が大好きな人だとわかる。名前にこれだけ星形多角形を入れられるのは好きだからとしか思えない。


 「…羽ペン、意外に使いやすいな。」


 初めて使うはずなのに意外に使いやすい。これが噂に聞く『モーション制御』という奴だろうか。私は正面で切った張ったをする訳ではないので私への恩恵は少なそうだが。

 




***





 「どうも、おじさん」

 「おう!どうしたぁ嬢ちゃん」


 広場にいた恰幅がいい屋台のおじさんに話しかける。売っているものはぱっと見焼き鳥に見える。


 「一つ、いくらです?」

 「250テラだな」


 近くによって見れば、随分おいしそうなにおいがする。おそらく日本円と同じような単価なのだろう。

 ポケットの中を弄っても、やはりというかなんというか、まだ通過を得ていないので当然だがもちろんない。それをわざとらしく見せて『残念です』というと屋台のおじさんはあぁなるほどというような顔をした。


 「なるほど、嬢ちゃん、学徒だな?」

 「学徒?」

 「ん?なんだ嬢ちゃん、魔法学びにきたんじゃねぇのか?」


 屋台のおじいさん曰く、今日は魔法を扱う学園の入学試験があるのだと。それにならって、毎月この日になると祭りをやること、俗に『入学祭り』と地元で言われてるらしい。そうして今の所私みたいな得体のしれない人間が魔法を学ぶ方法をよく聞いてくるので、全部まとめて近隣住民はプレイヤーの事を『学徒』と呼んでいるらしいこと。そうした人間は大抵が無一文だったので、今無一文の人間は大抵『学徒』と呼ばれたこと。


 「おじさんも、元学徒?」

 「どうしてだ?」

 「ついさっき魔法を使ってるのみました」


 おじさんが焼き鳥を焼くときに魔法らしき力をもって鳥を焼いているのを見た。そういうとおじさんは呆気にとられたようにいたずらっぽく笑った。


 「わはは!お嬢ちゃんあれを魔法だって言ってくれんのか?」

 「えぇ、何もないところから、急にぼっと火を」

 「ありゃ誰でも使える『自己発火』って奴だよ。」


 そう言いながら、指先にマッチ程度の炎を灯して笑った。その姿は実に様になっていてかっこいいと思ってしまった。

 その直後『あッづッ!!』と言いながら指先をふーふーと息で覚まそうとしている所は少しかっこ悪いが。


 「それどうやってやってるんです?」

 「あんまりおすすめしねぇがな、いいこと言ってくれた嬢ちゃんには一本オマケだ」

 「わーい!」


 おじさんからもらった焼き鳥をほおばりながら、おじさんのいう事を聴く。

 おじさんが言うには、魔法は単語を知って、魔力を扱えればある程度自由に発動できるようだ。魔力は誰にでも流れていて、当然私にも流れていること。ただ自己発火すると、当然自分の体のどこかから火がでるので熱く感じること。料理に使っているのはそれ用の加工をした魔法調理道具であって自分もよく知らない事。


 「お嬢ちゃん、手帳とペン貸しな」


 言われたとおりに渡すと、少し複雑な図形と、それを円で囲んだものが一ページ。似てるけど少し違うだけのもので一ページ。


 「お嬢ちゃん、これが自己発火の式だ。頭に思い浮かべながら…あぁ~なんていうか、力むとでるようになる。下腹部に力を集中する感じだ。慣れるまでは直接陣を見ながらやるといいぞ」

 「なるほど!さすがおじいさん!」

 「わはははは!!年の功だよお嬢ちゃん、あんま力みすぎんなよ、全身が燃えちまうからな」


 言われた通りに下腹部に力を入れる。丁度…なんというかその部分に新しく臓物ができたような気がする。そこに流れる血液のような、暖かい力が魔力なのだろう。

 その暖かい力を、指先にまでもってきて、手帳に描かれた陣を、頭に浮かべる。そうすると人差し指全体に火柱が立つように炎が噴き出る。熱いと感じる前に焦って消した。

 おじさんと目が合って…あははと笑いあう。どうやら初めてのNPCとの会話は成功したようだ。


 「っあ!おじさん、ゴミ落ちてます、拾っときますね」

 「ん?あぁ、お嬢ちゃんありがとな、ったく、祭りだからって浮かれすぎだな」

 「いえ、焼き鳥ありがとうございました。美味しかったですよおじさん!」


 元気にそう言うと、私は地面に落ちている"燻ぶった赤くて丸まった紙"を拾う。

 ゲームを始める前に色々魔法に関して調べておいて良かった。仕掛けた物が無駄にならずに済みそうだ。


 よく召喚術だとか、生贄だとかで自分の血を対価に発動しているものが世界には多くあった。この世界では『自分』という単語は、自分という概念を指している言葉。

 そして、少なくともこの世界でも、血液は魔法の触媒に使われる筈だ。わかりやすく、ポピュラーなこの概念を、ゲームが取り入れない筈はない。多分、きっと。 


 「…んふふ…くふ…」


 「…どうした?嬢ちゃん、ふらふらじゃねぇか、大丈夫か?」


 …少し血を出しすぎたか、すこしふらふらしてしまう。『おかまいなく』と言って広場の中心、噴水の方に向かう。


 少し朦朧とした意識で、反抗期なら何をするかを、考えてみた。

 考えて、考えて、やっと思いついたのがひとつ。

 


 「ん?お前何やって…」


 噴水の水の中に、足を突っ込む。やってはいけないことだ。もちろん現実でやったことなどない。だが、意外に冷たくて気持ちがいい。


 周りからの視線が、少しづつ集まってくるのがわかる。

 不良の多くは、いろいろな理由で補導されると聞く。暴行、薬、煙草、徘徊。本当に様々な理由で補導されると聞く。

 だが私は学生で、今は夏休みだ。だからこそ、今私がやるべき非行は……


 「『自己発火(火遊び)』!」


 噴水の中心に立ちながら、燃え上がる。身体の芯から、中身から、血液が沸騰するように、筋肉が、燃えて縮んでいくような感覚と共に、視界が赤らんでいく。

 その直後に、広場中から、火の手が上る。悲鳴、いろんなものが溶ける臭い、焦げ臭い。パチパチと響く音。それが私の内から響く音なのか、周りから聞こえる音なのかはしらないが。


 痛みと引き換えに、私は反抗期の一歩を踏み出す。


 「ん…んふふふ!!!『覚えた』!!これが!!悪いこと!!」


 周囲には私をにらんでくれる人ばかりだ。

 反抗期の行動。『祭りを台無しにする』『過激な火遊び』できました。私にもできましたよ。久我。


 身を焦がす熱。痛み。辛いほど、広場は燃え広がる。



 やはり、悪いことは楽しい。

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