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反抗期の魔術師誕生

『ワールドミソロジーオンライン』世間での略称は『WSO』

 近年では多くみられるMMOジャンルの一つとして世間に発表された。開発期間は多くも少なくもなく、平均的で、同時期に超大作シリーズが発表された結果、あまり知名度が伸びない結果となった。

 シリーズ作品としてのゲームは時にシリーズ恒例のお約束だとか、シリーズ恒例のキャラとかシステムだとか、そういう事前知識が求められることが時たまある。私には合わないだろうと思って、だからこそこのゲームが選ばれた。


 超常的な力、魔法の技術を扱う為にプレイヤーは世界へ降り立つ。学校や図書館、研究所、星見台。様々な場所で魔法を学び、学べば学ぶほど、プレイヤーとして強くなれるらしい。ある程度はスキルや、いろいろな手段での強化手段があるようだが、やはり主役は知識と言うところらしい。

 キャッチコピーに『賢人へ、第二の世界おもちゃばこを君に』とまで言うところを見るに、期待してもいいだろう。

 そうしてプレイヤーは『知恵の塔』なる場所にてトップ14人に選ばれるようにがんばるようだ。


 そして何より気になっているのは運営陣営のお茶目っぷりである。

 大抵のVRゲームには『倫理規制』だとか『表現規制』だとか『感触規制』だとか煩わしい規制がたくさんある。私の前に世代がアホな事をしていったのだ、アホな時間ゲームをしたり、ゲームの食事が美味しいから現実で食べないとか、ゲームで出来たから現実でもやるとか。そういうアホなコトをやって行ってくれたから、私の世代でそういう規制がたくさんある。

 

 『第二の世界とまで言い切って、どれほど再現したのですか?』『世界全てを、法律的に再現できる全てを再現しました……法律的にも多分大丈夫です。』インタビューでの切り取りだが、現実至上主義の集まりなのだろうかと見間違うくらいだった。ぶっちゃけ目を疑った。

 ゲームになれていない私には、あまりにもゲーム的な世界は慣れていないと難しいと思ったから現実に即した世界であればあるほどいいと思うのだが、運営がこんなんで大丈夫なのかと今でもちょっと不信感があるものだ。


 そして何より、一番気に入っているのが……運営陣営の捻くれた思想だ。

 普通、第二の世界なんて言葉に『玩具箱』だなんてルビを振るわけがない。そして何より賢人へ、だなんて……賢い人間になら、世界は玩具箱のように好き勝手できるなんていう思想が、私には感じ取れる。捻くれた彼らの文言には、いや、確かに世界を作ったのは彼らなのだから賢人には世界を好き勝手できる権利があるのは、確かにそうなのだろう。それはそうとして運営は自分たちのことを賢人だと思っているのが見えて、結局ひねくれているんだと思うが。


そうしてゲームの概要を確認している間に、丁度ゲームの起動準備が終わった。


***





 目が覚めると、そこは学校のような場所だった。感覚的には教室のような場所で、部屋の中には私と、もう一人目の前の人間がいるだけだった。

 人間なのかは定かではないが、少なくとも男性のような体つきをしている。見た目は老年の執事と言ったところだろうか。


 「ようこそ『反抗期』様。ようこそ『WSO』へ」


 「……なるほど?『きゃらめいく』という奴ですね?」


 私の質問に目の前の執事は答えた。恐らく彼が私のキャラメイクを手伝ってくれるのだろう。反抗期という名前は……まぁ十中八九、久我のいたずらだろう。合流したら一発くらいは殴ってもいいんじゃないだろうか。



 そうこう思っているうちに半透明のウィンドウが出てくる。

 先ずプレイヤーネームはそうだな、反抗期っぽい名前にしたいのだけれど、上手いこと思いつかない。


 「いい名前ある?」


 「そうですね。『ケザイア』『ウェイトリー』または『アル』や『アヴェローズ』などはいかがでしょう。皆偉大な魔術師の名前です。」


 「ほぼ男性名なところに嫌味を感じますね」


 「それほどでも。」


 目の前の執事は役に立たないことに気が付いたので改めて少し考える。


 「それじゃあ、私は『アヴィ』で」


 「女性名ならよかったので?」


 「節穴なの?私は『アヴィ』よ、アビゲイルじゃないから。」


 「似たようなものでは?」


 「私がいいって言ってるのよ黙りなさい」


 その一言で黙る目の前の執事。

 なんだこいつ、だんだんイラついてきたぞ、手伝うんじゃないのかこのNPC。


 次の項目は種族なのだが、なぜか同じ『人間』という項目だけがズラッと並んでいる。よく見れば数値が違ったりするのかと思えばそういう訳でもない。

 目の前の執事を視ても……黙ったままだ、いらないところで命令を聴いているのは何故なんだ。


 「種族は全部人間に見えるんだけど、これなに?」


 「人間といえど、出自は違うものでしょう?」


 「ゲーム的に何か問題はあったりする?」


 「多少は、一部のクエストで。つかぬことをお聞きしますが『水』好きですか?」


 急に変な事を聴いてきて声がつまった。恐らく変な顔をしていたのだろう。


 「『水』『火』『土』『風』どれが一番好きです?」


 「……水かな」


 「二番目は?」


 「……土?」


 答えるとある程度『人間』とかかれた画面がスクロールされていって一つに選択される。

 目の前の彼は、また黙って微笑み始めている。


 「次はこの世界に存在する魔法について説明しますが……」


 「何か問題が?」


 「私の好みでよろしいですか?」


 「よろしくないです。」


 残念ですと言われると少しづつ話していく。

 とにかく魔法と呼ばれるものを発動するには魔力がいること。魔法の要素と呼ばれるものによって魔力が増えたり減ったりすること。全てのプレイヤーは『自分』と『火』と『守る』という単語を知っていること。その単語を円にそって描くと大まかには魔法陣ができること。単語を知らないと現象を起こすことはできない事。単語は魔導書に乗っていること。そして。


 「ボーナスでおひとつ、好きな単語を御教えしますよ」


 「そう……」


 魔法の単語、詳しい名称こそ言われなかったが、十分に有用なもので、それを一つ、好きな物を教えてもらえるのだ。


 「おススメの単語は?」


 「『濃縮』か『他人』ですかね」


 「『濃縮』でお願いするわ。」


 そう答えると、よくわからない記号が私の体の中に入っていった。ゲームが始まるとあの単語が使えるようになるのだろう。


 「覚える単語、覚えた単語は魔導書に記録されていくので、ご安心ください」


 「質問いい?」


 「どうぞ」


 「あなた名前は?」


 そう言うと、彼は驚いたように、また訳のわからない単語を出した。


 「これです。人間には発音できませんので、覚えていただかなくても結構」


 彼の手のひらに浮くように、若干発光しながら浮かぶのは、やはり読めない、おそらく文字だと思われる一節。多くの記号が絡まったように、まるで形に意味のないような、到底文字とは思えないようなそれ。


 「それでは、世界に降り立ってください。、いってらっしゃいませ」


 その言葉を聞いて、また私の視界が白んでいく。微笑みながらいる彼は、少しばかりお辞儀をしている。


 「『覚えた』あなたの名前」


 私は悪い子だが、優秀なので、記号なんて幾らでも頭の中に入れられるのだ。

 その言葉を聞いた時に、やっと彼は微笑みでなく、口角を上げて笑ったように見えた。

 そう見えて、すぐに暗転した。


 「あなたの学びが、良いものであることを願います。アヴィ。」

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