第31話 魔界の習慣1
よくはわかんないけど、脳の血管がブチ切れるほど元魔王の辺見くんは怒っているらしい。
「……わかったわよ。弁償するわよ。特大の水槽買ってやれば満足?」
「や、やはり勇者、貴様は許せぬ!」
なんでさらに怒るのよ。人がせっかく弁償を申し出ているのに。ったく、もう。
「生きている間の方が大切じゃん。自分の葬具一式見ながらにまにましているってキモい」
「なんだと!?」
「……まあまあ。これ以上は話がヤバくなるからやめて」
いきり立つ魔王と私の間に、賢者が割って入ってきた。
「賢者、『話がヤバくなる』って、どういうこと?」
「勇者ね、アンタ、これが文化や宗教の論争だって気がついていないの?
血を見ずには収まらない問題なんだから、少しは自重しなさい」
「……わかった。
わかったけど、文化や宗教なら魔王なりにその成り立ちの説明はできるでしょ?
私、記憶がないんだから、そのあたりの説明してよ。これから魔界に行くのに、全然知らないまま怒られるのはイヤよ」
私、ダメ元でそう頼んでみる。
私だってね、喧嘩売りながら歩きたいわけじゃないんだよ。
「……わかった」
元魔王の辺見くん、繰り返し深呼吸してからそう答えた。
我慢我慢我慢、我慢成功……、ってとこかな。
「死後の世界について、この世界では想定がないな」
「天国と地獄ならあるよ」
私の言葉に、魔王は首を横に振った。
ふと気がつけば、賢者だけでなく戦士と武闘家も興味津々という顔で話を聞いている。
「いいや、それはないに等しい。現に、死者との会話ができていないではないか。なのに、天国と地獄が正しいと、どうして勇者は言い切れるのだ?」
「……それはそうだ。まったくそのとーりだね。じゃあ、魔界では死んだ人と話せるの?」
「誰とでも話せるわけではない。だが、体内に魔素を多く蓄えられる者は、死してその生前の記憶が魔素の配列に残る。この世界に比べて、魔界では魂というものがより具体的なのだ。ゆえに、魔素を読み取れる者にとって、その意思を感じるのは容易だ」
ふーん。そういうものなんだ。
だけど、確認だけはしておかないと。
「ねぇ、賢者。魔王がこう言っているけど、これって本当?
賢者も魔素を使いこなしているから、死者と会話できるの?」
「馬鹿ね、勇者。
魔王が言っているのは、魔素を使いこなしている者が死んだ場合の話でしょ。少なくとも、今世でも前世でも、私以上に魔素を持って使いこなしている人間はいなかった。だから、そういう人の死に際に立ち会ったことがない。魔界の魔族は魔素を持つのが当たり前だけど、それ比べたら人間は魔素の扱いで大きく劣るし、魔王の言っていることが正しいかどうか私にはわからない」
なるほど。賢者の言いたいことはわかった。
でもね、人のことを馬鹿っていう人が馬鹿なのよ。
「そっか。賢者が死んで、初めてそれが正しいかどうかわかるんだ……」
「……アンタね、言っていいことと悪いことがあるわよ」
……ふん、馬鹿って言ったことへのしかえしだ。
「で、魔族にとっての死後の世界ってなんなのよ?
死後の魂と話した結果、よ」
私、そう話を戻したわ。
1があるからには2に続くのです。




