第3話 3日目の朝2
自分の地味さに不当に絶望させられながら、私も橙香の目をしげしげと観察した。
「そう言う橙香の右目だって……。1か所虹彩の色が抜けている。
あ、だから戦士だって言うの?」
思わずそう声か漏れると、元魔王はふんぞり返った。
「そのとおりだ。
武闘家は虹彩に黄金の夜明けを、賢者は翠玉が浮かぶ瞳を持っている」
はぁ?
なんでこんなとくとくと語るのよ、こいつ。
あー、やかましい。
あー、うざい。
こんなんと、つきあっていられるかっ!
まぁ、それでも、元魔王に観察眼があることだけは認めてあげよう。
「じゃあさ、そりゃもう興味なんか全然ないんだけど、それこそ本当にどーーーっでもいいことなんだけど、あくまで参考までに聞かせて欲しいだけなんだけど、武闘家と賢者とやらも、こういう目しているって言うの?」
「……当たり前ではないか。
胸元のほくろとか、お尻の痣だとかだと、確認できないから仲間を捜し当てられないではないか。
いくら前世からの因縁があろうともな」
まぁ、それはそうかもしれない。それだけに限れば、同意もやぶさかではないな。
不本意に頷いていると、橙香がまた余計な口出しをした。
「なるほどね。
運命の勇者様パーティーは、目印、晒しているわけかー。
でも、ほら、貴重なアイテムを持っているっていうのもありじゃない?
仁義礼智忠信孝悌の玉とか」
……例えが古すぎないか、橙香? 200年も前のラノベだぞ。
「いや、貴重なアイテムを持っているというのも、実は現実的ではない。
その貴重なアイテムを、これみよがしに剥き出しで持ち歩く馬鹿はいないからな」
不覚にも私、またまた「なるほど」って思った。
「で。
……毎日、毎日、そういう設定を考えているわけ?
辺見くんは?」
私の声は、再び温度を下げた。「なるほど」って思ったのが悔しかったし。それに、どこかでシャットアウトしとかないと、永遠につきまとわれるかもしれないし。
「考えてなどいない。
知っているだけだ」
「……あ、そう」
ちぇっ、皮肉の通じないヤツだ。
って、いつの間にか、私、無視すると決めたこいつと話しちゃってる。
こうやって、いつの間にか仲間認定されたら目もあてられないな。って、もうされているんだった。
よし、ここで会話はシャットダウ……。
「じゃあさ、じゃあさ、魔王とやらにも目印はあるん?」
やめろ、橙香。
なんでお前、蒸し返すんだ!?
「ほら」
元魔王は、首筋に巻かれた黒いネックガードをつまんで広げて見せた。
予想より細い首筋には白い筋が1本。日焼けむらかな?
「勇者に斬られた証しだ。
それから、首の反対側、こっちは戦士、お前が斬ったあとだ。
身体のどこを斬られても再生できるが、首だけはな。そこを勇者の聖剣、タップファーカイトと戦士のバハムート・キラーでちまちまと切り重ねされて……」
私、もう少しで「もう1回斬ってやろうか」って言いそうになった。
そんなこと言っても、元魔王設定に酔っている辺見くんを喜ばせるだけなのに。
それを救ってくれたのは、朝のホームルームのために入ってきた担任だった。
「おはよう。
さー、みんな席につけ」
ってね。
助かったぁ。
武闘家と賢者はいずこに??
どーせ、しょうもないことになるのではあるのですが……w
イメージは、花月夜れん@kagetuya_ren さまから頂きました。
感謝です。
そして、お読み頂きありがとうございます。