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高校入学2日目から、転生魔王がうざい  作者: 林海
第五章 魔界での旅の日々
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第28話 柿の種、値千金


「いいや、喰うな」

 と私を止めたのはケイディ。

「それだけ光るなら、そういう利用ができるということだ。食べるのはあまりに惜しい」

「そういう利用って?」

「戦闘に使えるってことでしょ」

 私の質問に答えたのは賢者だ。


「暗闇の中でも、これだけの光量があれば戦える。それに、敵に塗って逃さないようにするとか、こっちの味方が多いと思わせるとか、いくらでも使い道はありそう」

 ……なるほど。

「でも、甘くて美味しいんだから。いくらかは食べさせてよ」

 私のお願いに、ケイディは首を横に振る。


「勇者、言っておくが……。

 おそらくは、トイレが光るぞ。既知の物質でないとすると、消化できるとは限らないからな」

 げげ。


「フラン、アンタの〇〇◯は光ってる!?」

「そんなの言いたくないです。それに、ボクが〇〇◯を出すのは年に2回です」

 ……ちっ。道理でトイレに行くところを見ないはずだ。普段、割とよく食べているのに、みーんな吸収しちゃうのね。


「MREはもう嫌なの。お願いだから、ちょっとだけでも食べさせて」

「身体が受け付けなくて、下したりしたら大変だろうな。しかも光る……」

 アニメ表現かよ!?

 ……想像したら、げんなりしてきた。

 もう嫌だ。だけど、この木の実を諦めて、MREだけの生活になるのはもっと嫌。気がついたら私、涙がぽろぽろ頬を伝わっていた。


「もう、本当にしかたないなぁ。これ、あげる」

 そう言って、橙香が自分の荷物をがさがさとかき回して出してきたのは、なんと柿の種の小袋。

「……どういうこと?」

「阿梨より私の方が先に音を上げると思っていてね。日本から密輸したんだけど、私より阿梨の方が早く降参しちゃったから……、しかたないからあげる」

 えっ、橙香……。ああ、橙香、アンタは私の友だちで、ずーーっと友だちだからねっ!


 私、遠慮なく柿の種の小袋を開けた。とたんに洞窟の中に醤油の香りが漂った。

 う、うれしい。

 すぐに……。なんでよ。なんで私のお腹、ぐーーって音を立てるの?

 私、必死でお腹を押さえて音も抑えようとした。だけど……。

 橙香のお腹が鳴った。賢者のも、武闘家の宇尾くんもだ。それどころか、元魔王までが、お腹を押さえている。


「……なかなか凶悪な香りだな」

「なんかもう、ここだけ日本よねぇ」

「ああっ、醤油の香りっ」

 私、ぎょっとした。元魔王だけはなんとか冷静さを保っていたけど、賢者はどう見ても冷静じゃない。あまつさえ、宇尾くんは下を向いてこぶしを握りしめている。そのこぶしには、涙が数滴。


「日本を出発前に、勇者が無理を言ってお蕎麦食べたよね。あのときは勇者がワガママだと思っていたけど、こんなに俺、醤油に飢えていたんだなぁ」

 そうなのよっ。こうなることがわかっていたから、私は無理を言ったのよっ。


「醤油、お米、醤油、お米、醤油、お米、醤油、お米、醤油、お米、醤油、お米……」

 あ、賢者が壊れている。

 ってかさぁ、だれも橙香みたいな安全弁を考えていなかったの?

 こうなることはわかりきっていたじゃん。これだから、前世の記憶がある人たちはダメなんだよ。2巡目楽勝って思っていたでしょ。

 橙香、今はかなり思い出しつつあるけど、日本にいたときはほとんど思い出せていなかったからね。だから、こういうことも考えてくれていたんだ。


 えっ、私?

 私はリーダーだから、率先してルールを破るわけには行かなかったのよっ。

昔、シリアのダマスカスで、2ヶ月ぶりの醤油に泣いている邦人がいたのです……

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