第24話 ……もうダメだ
結局、歩きながら何度も聖剣タップファーカイトを振るったけど、私、ぜんぜんスタミナ切れしなかった。まだまだいくらでも振れそうだったんだ。
これが、私の体力があるせいなのか、聖剣タップファーカイトの力によるものなのか、最後まで見分けはつかなかった。
で、その日は無事に歩き通して、再び山の中に入る。魔法陣を隠して作っておくためには、やはりこういう人里、おっと魔物里離れた所がいいみたいだ。
40kmという距離を無理してでも歩けたし、それでも足は磨り減ってなくなっちゃわなかったし、空気が乾燥して冷たかったから汗まみれにもならかったし、まぁ、いいっちゃいいんだけど問題が1つ。
あ、私だけじゃないからね。ケイディ以外の全員がなんだけど、MRE(Meal, Ready-to-Eat)がね……。もう喉を通らないんだ。加熱用ヒーターで温めたり、他の料理と混ぜたり、水で薄めたりいろいろチャレンジはしてみた。だけど、もう、どうにもこうにも……。
今ここで生のトマトが噛じれるのなら、金100gと引き換えてもいいって思ったよ。
「今晩もこれなのかなぁ。これ以上無理したら、MRE、何味でも二度と喉を通らなくなる気がする。もうダメだ。」
私のつぶやきに、珍しくみんながそろってうなずいた。
私、みんなの顔を順番に見て……。
「ねぇ、フラン。このあたりでフランが食べられそうなものあった?」
もう、藁にも縋る気持ちよ。フランがこの辺りの山菜でも知っていて、それを茹でて食べられたらもうそれだけで幸せ。
「待て、勇者。
フランは魔族だ。我々とは身体の仕組みが根本的に違う。たとえなにかの食べものを採取できたとしても、フランが食べられても我々には毒、そういう食べ物の可能性は高い」
「わかっているわよ、賢者。だけど、賢者だってMRE、食べられていないじゃない。
それに、フランはMREに入っていた粉末ジュースを飲んで平気だったでしょ。私たちの世界のものを口にしても平気だったんだから、食べものの栄養素とか、魔族と私たちで割りと共通しているんじゃない?」
希望的観測と言われてもいい。もうMREは食べたくない。
「そうは言い切れないな。MREに入っている粉末ジュースなんて、大部分が糖にすぎない。生命が糖に拒絶反応を起こすのは考えにくい。それに比べて山菜なんてものは、我々の世界でも毒草と紙一重のものが多い」
「わかっているわよ、そんなこと。だけどねぇ……」
もう、あとは涙しか出てこないわ。一度もうダメだと思ったら、完全にダメになっちゃった気がする。これが心が折れるってことなのかも。
「ケイディ、アンタの国の軍人は、MREに飽きないの?」
「戦地でもごく当たり前に軍のレストランが展開するからな。MREだけで生活するなんてことはない」
えっ?
さすが、軍事予算がいくらでもある国は違うわね。予想の斜め上の答えだったわ。
「僕、食べられる草とか判るから、ちゃんと教えてあげるよ」
「ありがとう、フラン」
ああ、うれしい。やっぱりフランはいい子だ。
「とりあえず、勇者が自分の身体で実験するなら、その食べ物が無害かという見分け方のマニュアルを教えてやる」
「わかった。自分の身体で確かめる。だから、その方法を教えて」
私、そう言って密かに考えていることがあった。
うん、フランが食べられるって言ったものを、毒見役なら独占して食べられるに違いない、ってね。