第42話 第三の魔法陣に到着
スライムの子、フランの教えてくれた近道は極めて有効だった。
うん、スライムにとってはね。
つまりその近道、獣道よりももっと酷かった。身体の形を自在に変えられたらそれはそれは良い道だったと思うよ。でも、私たち、人間だから。ロボット犬だって私たちより高さは低いけど、さらに「身体を細くして通ればいいじゃん」って言われても困る。
まぁ、そういったなんやかんやはあったけど、私たちはなんとか日が沈みきって真っ暗になる前に、元魔王の言っていたいにしえの大墳墓にたどり着くことができた。
ついでに言えば、その間に戦闘はまったくなかった。深奥の魔界の魔族は姿を現さなかったし、この世界の魔族はフランと元魔王の存在のおかげで道ですれ違っても諍いにならなかったんだ。
なんか、そう高くない山でのハイキングみたいだったよ。「こんにちわー」だけ言い合って、すれちがうだけなの。でもその相手は多彩だった。ゴーレムとかの人の形をしている者から、しゃべる鶏かと思ったら尻尾が蛇だったりする者もいた。
前回の旅では、このすれちがう全員と戦い、すべての命を奪った旅だったと思うと、なんか激しく落ち込むよね。まぁ、あの時はあの時で、自分たちの世界を守るためにしかたなかったんだけれども。
ともかく、元魔王の辺見くんがなんかごにょごにょと唱えたら、大墳墓の入口の石がごとごと動いてぽっかりと暗い口を開けた。そもそも外ももう暗くなっているんだから、中の状況なんか窺い知ることもできない。
ケイディがやたらと明るい懐中電灯を取り出して、サーチライトみたいな光で中を照らした。
私、すごくほっとしたんだけど、中は空っぽだった。大墳墓と言うぐらいだから、骸骨がごろごろ転がっていたらどうしようかって思っていたんだ。くさった死体に襲いかかられたら、一生のトラウマだもんね。
そして、例によって魔法陣は天井に彫り込まれていた。
「墓泥棒とか、いないの?」
私の質問に、元魔王は笑った。
「いた。そして、根こそぎ盗んだ。だからここは安全になった。もう、墓泥棒ですら入ろうとはしない」
「なるほど」
なんか、ぐうの音も出ない。そのまま納得するしかない。
「ここで一泊してから跳躍してもいいが、そうすると明日の朝、魔素が空っぽな状態で歩きだすことになる。今日はほとんど魔素を使っていないから、跳躍してから行った先で野営をして、それから歩き出す方が良いと思うが……」
「喉が渇いた。お腹減った。シャワーも浴びたい。
ここと行った先では、どっちの方が充実してる?」
私の問いに、元魔王はためらいがちに答えた。
「ここには水がない。行った先は、昔のままだとすれば湿地帯の真ん中の古代墳墓遺跡だ。水はあるだろうが、飲めて身体を洗える水質かどうかは微妙だ」
「そんなに汚いの?」
うんざりした声の私の問いに、元魔王は答えた。
「汚れていると言うより、話す水なんだ」
一瞬、私、元魔王がなにを言っているのか理解できなかった。
「まさか、ウォータープリンでも溶けてんの?」
私が聞くと、元魔王は首を横に振り、フランがぴょんぴょんと跳ねた。うれしいときの跳ね方じゃない。優越感を感じているときの跳ね方だな。
いったい、どんな話なのよ?
もったいぶってないで、さっさと教えなさいよっ。