第22話 賢者の石がヤバい理由《ワケ》
「しかたない、簡単に説明してやる。
世界各国の金保有量というものはな、各国の信用そのものなんだ」
「なんで?」
「紙幣や貨幣なんて、実は単なる紙やメダルでしかない。だから、昔はその価値の保証として金と紙幣や貨幣が結びついていた」
……なんか聞いたことがあるぞ、この話。
社会でやらなかったっけ?
金本位制とかなんとか……。
「今は結びついていないんだよね?」
「そうだ。
だが、だからといってそれは金の価値がなくなることを意味しない。金は腐らないし、蒸発しないし、しかも産出量が限られているからいつの時代、地球世界のどこに行っても価値が変わらない。
金本位制ではなくなっても、金のその価値は変わらない」
うん、それはわかるな。
「だから、我が国の基軸通貨としての価値が揺らぐことがあるとしても、我が国の世界最大の金保有量がそれを抑える効果を発揮する。
基軸通貨の安定は、経済の安定を意味するし、経済の安定は世界平和に直結する。だから、その金が突然暴落して価値を失ったら、戦争だって起きかねないわけだ」
「ふーん」
「だから、賢者の石は、戦争の危険性を孕むのだよ」
「えっ、そうなの?
なんでっ?」
私の返事に、ケイディは天を仰いだ。
……その後ろで、なんで賢者と戦士と武闘家までが天を仰いでいるんだろ。
「だからな、5グラムの賢者の石で5グラムの金ができるのであれば問題ない。だが、賢者の石が触媒で、5グラムの賢者の石で50トンの金ができるとなると……」
「金の価値、暴落するね」
「そこまでわかって、なんでコトの重大性に気づかないんだ?」
……人をバカを見るような目つきで見るのはやめてよ、ケイディ。
「だって、お金の価値の裏付けの1つが金なんでしょ。じゃ、金の価値の裏付けはなに?
そっちの方が金の量より重要でしょ?
まさか、銀と交換できるとか、アホらしいこと言わないわよね?
だいたいさ、なんで単なる金属の1つの金に価値があるのよ?
珍しいからってのはナシよ。金より珍しいものなんか、いくらでもあるじゃない」
あれ。またケイディが天を仰いじゃったよ。
だけど、なんで今度は、苦虫噛み潰したみたいな顔しているんだろ?
賢者はびっくりしているし、戦士と武闘家は視線があちこちに定まらない。
「仕方ないんだ。
歴史的経緯から、金はそういうシステムが完成している。だが、『その本質は?』と聞かれれば、人類の共同幻想でしかない」
「えっ、幻想?
……それじゃ、お金にも金にも、本当の価値はないってこと?
じゃあ、なにしてもいいんじゃない?」
「じゃあ勇者、人類は幻想を捨てて物々交換の経済に戻れると思うのか?」
ケイディ、アンタ、また質問に質問で返すのね。
だけど、その質問で私、この問題がどういうことかよくわかった。
どれほど生臭い夢であっても、夢は守らないといけないんだ。そして、賢者の石は、とんでもない目覚まし時計になりうる。目が覚めたら、社会が崩壊しちゃう。これは非常によくないんだ。
人類がこの先、この夢から覚める日は必ず来るのだろう。だけど、それは今日や明日じゃない。目が覚めてもいい準備が整ってからだ。
「そうなると、前にも話したようにこの世界と貿易するのはいいけど、金で支払ってもらっちゃ困るね」
「年間100トン以下とか、量の制御ができればいいとは思うのだがな。昔と違って、今はスマホの中にすら金が入っている。工業的消費があまりに多いからな」
「ふーん」
……じゃあ、私が大金持ちになれるチャンスも、まだ消滅したわけじゃないんだな。
金に溺れる女勇者ちゃんのイラストを頂きました。
花月夜れん@kagetuya_ren さまからです。
感謝なのです。