第21話 藪を叩くと
私、元魔王と仲良しだなんてことは考えたくなかったら、ケイディの問いに飛びついた。と言ってもまずは耳を欹てただけだけど。
心の切り替えは重要よ、うん。
スライムの子、フランが高い声でケイディの質問に答えている。
「いつだって、魔王様は怖いよ。ぼくたちのなかで最強だし。
今の魔王様は見た目からして恐ろしいって聞いたけど、前の魔王様だって、上将ドラゴン『終端のツェツィーリア』様と上将ワイバーン『謀略のアウレール』様を両脇に従え、とても怖かったって聞いたよ」
「……そうか」
……ケイディ、困っている。ケイディが聞いた「怖い」は、圧政を意味していたんだ。だけど、フランの答えは「魔王の威」についてだからね。
「そんな強い魔王様の元に、スライムの村が全員で兵隊になりに行く必要はなかったんじゃないか?」
ケイディ、なんとか質問を立て直した。
「だから言ったじゃない。大人はみんな言っていたよ。『半分死んじゃっても、村の将来が安堵されるならその方が見返りが大きい』って。それに、村の全員が行ったとなれば、ご褒美も桁違いになるって」
そか。
スライムの村がそこまでしたとなれば、他の部族の村だって、「ウチの村は兵隊を出すのはイヤだ」なんて言えなくなるもんね。村全員で一番乗りしてきたインパクトは、いわゆる政治的にデカいんだろうな。
「それにね、大人たちが魔王様のところに行くと、ごはんは出してもらえるんだ。村のごはんは、ぼくたち子供しか食べなくなるから、その分を売れるしね」
……そうかー。
きっと、上将ワイバーン『謀略のアウレール』の1食分で、スライム部隊の全員のごはんが賄えちゃうんだろうな。魔王軍としちゃ、おまけぐらいなもんだ。
「前のときは、どんなご褒美をもらったの?
それに、村の将来が安堵されるってどういうこと?」
と、これは賢者の質問だ。
そうだね、コストとその見返りからでも、わかることは多いよね。
「前のときっての、ぼくにはよくわからないけど、村には魔王様からもらった石があって、みんなで大切にしているよ」
「……石?」
ケイディが虚を衝かれたって顔で、オウム返しに聞き返した。
「うん、石だよっ」
フランは跳ね歩きながら、元気よく答える。
「賢者の石だ」
そこで、元魔王の辺見くんが口を挟んだ。
「余が下賜したものであろう。
大量の魔素が結晶化したとも言われているが、金属を変化させる力がある。医療にも使えるし、まぁ、魔素の扱いに慣れている者がいれば、村全体でいろいろと利があるのだ」
「それって、金ができるやつ?」
私が思わずそう確認すると、元魔王は深く頷いた。
「金属のすべてを変えるから、極めて高い純度の金が得られる」
マジで!?
「それ、持って帰れないかな?
鉄とか金に変えられたら、そりゃあもう、うはうはだしっ」
私が喜ぶ先で、ケイディは渋い顔をしている。
「……これはまた、藪蛇にとんでもないものが出てきたな」
「なんでよ、ケイディ、嬉しくないの?
金よ、金」
「おい、勇者、世界各国の金保有量のバランスを崩す元だぞ」
「それなに?
それより金よ、ゴールドよっ!」
私、浮かれていて、ケイディの渋い顔なんか目に入らなかった。
「……なんで、こいつにそっくりな現魔王が『見た目からして恐ろしい』って言われているんだ?
俺にとっては内面の方が恐ろしい」
「なによそれ?
褒めてんの?」
「誰も褒めとらん!」
ヤダねぇ、ケイディ。怒らないでよ。