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高校入学2日目から、転生魔王がうざい  作者: 林海
第四章 魔界での旅立ち
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第19話 スライムの子


「この子の口はどこ?」っていう私の質問に、元魔王の辺見くんはため息を1つついて、半分乾いたクラゲを丁寧にひっくり返した。

 あ、この子、うつ伏せに倒れていたんだ。スライムの顔があるよ。


 私、スライムの口にジュースをそっと垂らした。

 そうしたら、口が開いたんで、とぽとぽと流し込んだ。

 ……すごいな。

 干からびて半ば干物みたいみたいになっていたのが、ジュースを注ぐにつれてぐいぐいと膨らんでくる。不謹慎だけど、ちょっとおもしろい。


 私の水筒が完全に空になるころ、スライムの子はぱんぱんに膨らんで、身体の表面はつやつやしていた。

 そして、まん丸な目が開いて、ひとこと。「あー、死ぬかと思った」だって。

 この子を取り囲んでいたみんなから、笑い声が漏れた。


「あんたね、ありがとうぐらい言いなさいよ」

 私の言葉に、スライムの子はぱよんぱよんってその身を揺らして、「ありがとうございます!」って叫んだ。元魔王に向けて、よ。


「なんでよ?

 助けてあげたのは私じゃん」

「あなた、ぼくを殺そうとしましたよね?

 それに、後頭部に水を注がれても生き返れませんでしたから。ぼくを優しく起こしてくださったのは、魔王様ですよ」

「……アンタ、子供のくせに魔王を知っているの?」

 私の質問に、スライムの子は丸い目を(しばたた)かせた。


「ぼくのことを『余の民』なんて言うのは、魔王様しかいませんよ。そして、この辺りの魔族で、魔王様を知らない者はいません。魔王様のおかげで、ぼくも生まれてこれたと聞いています」

「ふーん。それはご飯的な意味で?」

 これは、私、元魔王のやった政策を聞いていたからだ。


「はい。食べものがたくさんある幸せを、ぼくの両親はよく話してくれました」

 ……なるほど。

 元魔王ってば、現役魔王時代には本当に善政を敷いていたんだね。やったことが語り継がれ、こんな子供にまで慕われているだなんて。


「それよりさ、アンタ、どこの子?」

 そう聞いたのは橙香だ。

「村なり町なりが近いなら、送ってあげるから。親御さんだって心配しているでしょ?

 こんなところで干からびていただなんて、知っているはずがないんだから」

 と、さらに言葉を続けけど、スライムの子は身体を左右に振った。


「村に大人のスライムはいません」

「なんで?」

「この国を攻めてくる魔族と戦うため、揃って魔王城に行っちゃいました」

 ああ、あのスライム部隊は、この子の親御さんたちだったんだ。どおりで教育費の話なんかしていたわけだ。


「大人の数人ぐらいは、村に残しておいた方が良かったんじゃない?」

 賢者の問いに、スライムの子は下を向いた。

「魔王様が怖いから、全員で行くって。で、半分死んじゃっても、村の将来が安堵されるならその方が見返りが大きいからって」

「……封建制だねぇ」

 ……歴史の時間にやったよね、ソレ。御恩と奉公だっけ?


「こういうこと、村では初めてじゃないから、ぼくたちはお留守番していたんです。だけど……」

 そこで、宇尾くんが口を挟んだ。

「まさか、村になんか事件があったのかな?

 で、大人にそのことについて知らせるために、お前は村から出たのかい?」

 その問いに、スライムの子はぴょんぴょんと跳ねた。

 ああ、図星なんだ。

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