第1話 入学2日目
高校に入るなり、学級委員ってなんの罰ゲームよ?
そう思ったって、しかたないよね。
中学のときの同級生がたくさんいたのならば話はわかるけど、これは事故だもん。
そう、こんなの事故よっ!
どこかの中学からやってきた、見た目だけはやたらといいオトコがさっ。いきなりやらかしてくれたのよっ!
「前世からの因縁、今こそ見つけたり。
我が魔力と眷属は失いしも、この身のみで十分。覚悟せよ!」
わざわざよ、わざわざ私の机の前まで来てこう言い放った奴がいたのよ。
「はあ!?
なんのことでしょう?
で、覚悟ってなに?」
そりゃ、聞くでしょ。
聞かずにいられるもんか。
相手がなにか妄想している変態だとしても、まずは、ね。
「いや、だから……。
覚えてないの?
本当に?」
「質問に質問で返すなっ!?」
私の叫びに、クラス中の視線が集まった。
なんでこのオトコってば、素に戻ったのかと思ったら、そこはかとなく微妙に傷ついたって顔しているんだ?
で、妄想に付き合う義理はないのに、なんで私が周囲から微妙に悪役っぽく見られているんだ?
私だって、問答無用にいきなりキレたわけじゃないんだ。
もうね、本気で失敗ったって思ったわよっ!
とりあえずね、さすがにそこで救いの手が差し伸べられた。
「阿梨、アンタ、本当にこの男子、知らないの?」
「知らいでか!
初対面だっ!」
同じ中学のなんとか橙香とかいった女子なんだけど、クラスが一緒になったことはないから、名前もあやふやだし顔はようやく覚えているくらい。敵に回すのは怖いけど、味方にするにはちょっと頼りない立ち位置だ。
で、なんでいきなり名前呼びなのよ、この娘はっ?
「阿梨、この男子、ちょっとイケメンよね」
「あげる。
橙香にあげるから、さっさと連れてってよっ!」
いきなりのあまりのセリフに、私も名前呼びで呼び捨てて、その変態を押し付けようとした。
そしたら、その変態、再び傷ついた面持ちになって、さらにとんでもないことを口走った。
「さすがに勇者と戦士、息が合っているな」
あー、わかった。
わかっちゃった。
変態じゃない。「残念な人」だ。見た目がなまじ良いだけに、残念度がとても高いな。うん。
私は生温かい眼差しになって、アルカイックスマイルを顔に貼り付けた。なのに、橙香ときたら……。ってか、元々こういう娘だったのかな?
「そっかー。
私たちのどっちが勇者?
で、君、辺見くんだったよね。君が魔王だったってこと?」
「お願いだから橙香、ここでその話に乗らないで。
話すなら、自分の机のところでやってよっ。
あのね、私、高校生活に夢を持っているの。アニメと漫画と受験勉強以外、時間を使う気はないの。
なのに、入学式翌日からコレって、なんの罰ゲームよっ!?」
「夢、か……。
世界は再び闇に飲み込まれようとしている。
やはりその世界を救おうと?」
元魔王とやらの言葉に、私の頭の中でぷっつんってなにかが切れる音がした。
「ふざけんじゃないわよっ!
私は普通の高校生として、真っ当に過ごしたいの!」
全身全霊で叫んだ瞬間、教室の中はしーんとなった。
首をぐるんって回したら、入学式のときに紹介された担任が驚いたように目を見開いて立ち尽くしていた。
あとのことはもう、考えたくもない。
知らない人間同士の群れの中でこれだけ目立てば、そりゃあ学級委員にもさせられるわ。真っ当な高校生志願なんか叫んじゃったし。
で、目立ちついでに、この元魔王が男子の学級委員ってどういうことよっ?
中学じゃないのに、面白半分で投票するなっ!
怒りに満ち満ちて、私の高校生活2日目は始まった。
初日はもちろん入学式でしたw
「或る男子高の非日常」
と一日おきで更新いたしますー。
よろしくお願いいたします。
https://ncode.syosetu.com/n9001il/
イラストは花月夜れん@kagetuya_ren 様からいただいております。
感謝ー。