#15 アニメが好きな女の子
☆桜森ルナ
朝だ。わたしは重たい体を起こしてぽかんと周りを見渡す。すぐそこにあるタンスの上にはナゴヤドーム限定と描かれた青いナメクジのようなぬいぐるみが無造作に座っていた。
そうだ、ここはこあらの部屋。わたしは昨日、こあらの家に泊まらせてもらったの。
ベッドから立ち上がろうと床に足を着けた瞬間、全身に筋肉痛の痛みが走る。
「いぃっ!」
うめき声をあげ視界が涙でぼやけるけど、グッて我慢する。泣いたらスクワットがここのルールなの。
恐るおそる立ち上がり、ゆっくりと体をひねる。痛いけど、我慢できる痛いだ。だから大丈夫。
自分にそう言い聞かせていると、半分開いた窓の向こうから、スパァン! スパァン! と風を切る音が聞こえる。
二階の窓から庭先をのぞき込むと、朝日を浴びながらこあらがやきうのバットを振っていた。
力みのない美しいフォームだ。わたしの腕や足は鉛のように重たいのに、わたしの十倍はスクワットをやったこあらは涼しい顔で素振りを続けていた。
「……かっこいい」
そっとつぶやいたつもりが思ったよりも大きな声がでて、脳がハッとすっきりして、わたしは勢いよく部屋から飛び出した。
わたしはこあらから貸してもらった体操着のまま庭先に踏み出した。
「わたしもやりたい!」
こあらが素振りをやめて「おーん」とバットを渡してくれる。
「ええやん」
わたしはバットを受け取って、昨晩こあらに教えてもらった素振りを思い出しながらめいっぱいバットを振った。
筋肉痛はもう気にならない。
朝の夏風がわたしの髪をなびかせる。わたしはこあらの自転車に乗って河川敷の道をこいでいく。
少し前を走るこあらは険しい顔で息を乱していた。
「朝ごはん、あと自転車もありがとう」
わたしがそう声をかけると、こあらは振り返るでもなく「おーん」と一言だけ返ってくる。
スクワットの時と違って余裕がないように見えるの。それでも、こあらは黙々を走っている。
……わたしは走るのが嫌い。
白真弓商業高校の駐輪場に自転車を停めて、こあらに「あっち」と促されるままグランドへ向かっていく。
こあらについていって、ネットが半分壊れている野球グランドに到着する。
グラウンドの隅に季節外れのフード付きジャージを着た女の子が念入りにストレッチをしていた。
わたしは「暑そー」とほげえとつぶやいたの。
「のっり!」
隣のこあらがそう叫ぶと、女の子はこちらに気づきすぐさまやってきた。長い髪をパーカーにおさめた女の子の瞳には表現のしずらい魅力があった。
「こあらさん、おはようございます。それとあの、無事でなによりです、桜森さん」
いきなし名前を呼ばれてわたしは思わずこあらの背中に隠れたの。そして、おびえながら顔を出す。
「す、すみません。わたしは中田です。中田紀子です。昨日は逃げるようになってしまってすみませんでした」
紀子と名乗った女の子はしどろもどろに何度も会釈する。
わたしは首をかしげながら紀子の顔をじっと見つめるの。あれ、おかしいな。紀子の色が見えない。
「……なんか変な女の子」
わたしが正直にそう漏らすと、紀子は魅力的な瞳で「え、わたし変ですか?」と余計しどろもどろになる。
「うん、紀子はなんか変」
「いやですね、わたしが変だったら隣のこあらさんなんかは変を通り越して変人ですよ。月華さんは変態ですし。わたしは比較的にまともなほうだと自負しているのですが」
やっぱり紀子は変な女の子だ。普通の女の子は友達を変人だの、変態だの言わないの。
そんなやりとりをしていると(こあらはすでにグラウンドの真ん中でストレッチを始めている)、校舎のほうから大きな声が響いた。
「白真弓やきう部、集合!」
声のほうへ目をやると、肌の露出度が高いスポーツウェアを着たとんでもない美女が歩いていた。
「え、ハリウッド女優?」
わたしはそう言って、紀子のジャージの袖をつかんだ。紀子が横目でわたしを見つめる。
「違います。うちの高校の教頭先生です。宮永可憐先生、年齢不詳の我が校の都市伝説です」
「お化けなの?」
「お化けみたいな美魔女です」
「魔女ってお化けじゃないの?」
「美魔女ですよ」
そんな会話をしていると美魔女先生が近づいてきて紀子のお尻をパチンとはたいた。
「教頭先生を美魔女扱いするな」
なんてない動作のはずなのに、映画のワンカットのように決まっていたの!
「お、可愛い子。新入り?」
美魔女先生に見つめられてわたしは小さくうなずいた。
「グローブは持ってる?」
今度は首を横に振った。
「了解、あとで貸すからとりあえず体動かしましょうか」
美魔女先生にそう言われると特に意識もしていなかったのにわたしは「はい!」って返事をしてしまった。まるで魔法だ!
「こあらちゃん、用具運ぶの手伝って!」
美魔女先生がそう叫びながらこあらのいるグラウンドの真ん中のほうへ駆け寄っていった。
「美魔女先生がこえしば部の顧問なの?」
わたしは隣の紀子にそう問いかける。
「いいえ、宮永先生はやきう部の顧問です」
紀子の答えを聞いてわたしは首を曲げた。
「こあらと紀子はこえしば部じゃないの?」
「こえしば部ですよ、やきう部もかねてますが……」
「意味わかんない」
紀子がニヒルな笑みを浮かべて肩を落とす。
「わたしもなんでこんなことになっているのか理解しかねています」
わたしが混乱していると、「ちーっす!」と甲高い声がグラウンドに響く。
ギャルっぽい女の子三人組がこちらに向かって歩いてくる。
前髪を上げた日焼けした肌の子、アヒル口をした子、派手な色のメガネをかけた前髪パッツンの子と、まさにギャルという感じの三人組だ。
わたしは紀子の背中に隠れたの。絶対に恐い先輩たちだ。
そのすぐあとに物静かそうな二人組の女の子もやってくる。どちらも目立たないが、一人は黒髪ボブカット、もう一人はメガネをかけた長身で猫背。ぱっと見、野球とは無縁そうに見える。
この二組が楽しげに合流してくる光景は、ひどく不思議で、これがやきう部なのかと思うと頭が追いつかない。
「おかしな学校なの」
わたしが紀子のジャージをギュッと掴んで言った。
「桜森さん、準備体操だけでも参加しますか?」
紀子の問いにわたしは無言でうなずいた。
白真弓高校のグラウンドに美魔女先生のバットが乾いた音を響かせる。
わたしは流されるままやきうの守備練習に励んでいたの。
カコンッ、と緩い音を鳴らしてボールがわたしの元へと転がってくる。わたしは思わずまぶたを閉じてしまう。
「目ぇとじんな! 体で止めにいけやぁ!」
こあらの怒声が飛び、わたしはハッと顔をあげる。
「もう一度お願いしますっ!」
わたしがそう叫ぶと、美魔女先生が「ほいほーい!」と再びボールを走らせる。
わたしは唇を結んで、まぶたに力をこめて今度はしっかりと捕球した。
「紀子! こあら! 見た? わたし、とれたの!」
わたしは捕ったボールを見せびらかしながら言った。
「ナイッス~!」
「ナイスでーす!」
こあらと紀子の声が重なり、わたしの胸が嬉しさで踊ったの。
こあらと紀子は軽やかなステップでボールをさばき、ギャル三人組もそつなくノックをこなしていく。わたしもただ必死にボールを追いかけた。
白球に夢中になっていると、校舎のほうからゆっくりと月華が歩いてきた。
アシメショートに切れ長の一重瞼の瞳。スラリとした立ち姿。
わたしが追いかけても、追いかけても、ずっと先へ行ってしまう女の子。
「月華っ! 遅刻!」
ホームベースで金属バットを振る美魔女先生が怒鳴り声をあげる。
グラウンドまでやってきた月華は悪びれた様子もなく、荷物を適当な場所に投げる。
「はいはい、遅刻したらダッシュ百本でしょ?」
月華はだるそうに口にすると、体を伸ばしてから、前傾姿勢をとった。
空気がひりつくのを感じる。月華が「よーい、ドンッ!」と叫んで、軽い音をたてて砂を蹴った。
月華が地を蹴るたび、グングンと影が遠くへ伸びていく。
「はやっ!」
わたしは思わず心の声をもらす。
近くにいた紀子がうなずきながら口にする。
「月華さん、遅刻ばっかするんで走力Bまで上がってしまったんですよ。この前、陸上部に勝っていました」
「ほえ~、月華って足も速いんだ」
やっぱり月華はすごい!
そんな月華を横目で追いかけながら、守備練習がひと巡りしてグラウンドの熱が少しずつ抜けていったの。
美魔女先生が最後の一本をライナーで打ち込み、こあらがダイビングキャッチをして喝采を浴びた。
ギャル先輩たちは「日焼け止め塗りなおそう~」とか言いながらボールかごを押してトンボと一緒に倉庫へ向かう。
美魔女先生はどこか誇らしげに「片付け頼むわよ! あと、こえしば部がんばって!」と手を叩いて校舎へと去っていく。
月華とこあらはいつの間にかいなくなっていた。
「桜森さん、どうぞ」
紀子がわたしにスポーツドリンクのペットボトルを渡してくれる。
「紀子、ありがと!」
わたしは喉がカラカラで死にそうだったから、一気に飲み干したの。おいしー!
紀子はわたしを見つめながら、ヘコヘコとしている。
わたしは紀子の瞳をじっと見つめて、「あっ!」と声をあげる。
「こえしばの練習は?」
わたしは思ったことを言った。
紀子は眉をへの字にして、悲しそうに口にする。
「みんな好き勝手に個別練習するのが我が校のこえしば部の方針です。月華さんとこあらさんはどこかでピッチング練習してると思いますけど‥‥」
「そんなのでうまくなれるの?」
わたしはキョトンとして言った。好き勝手練習するだけで、月華みたくうまくなれるなら誰だって真似したいの。
「どうなんでしょう。うちは弱小こえしば部ですから。桜森さんのひた芸のこえしば部と比べると遊びみたいなもんですよ、はい」
「でも、こっちのほうが楽しいよ」
わたしがそう言うと、紀子は「あはは」とぎこちなく笑った。
───帰りたくない
───ここにいたい
唐突に思い浮かぶ。
わたしは泣きたい衝動に襲われる。
こあらに借りたジャージの裾を握って、わたしは必死に嗚咽をこらえたの。
「桜森さん、一緒に発声練習しませんか?」
紀子がまっすぐとこちらを見つめている。
「うん!」
わたしはこぼれる前に涙を思い切り振り払った。
知らない学校、夏のグラウンド。姿勢を正した紀子が「あ、い、う、え、お」と大きな声をあげる。
それはめちゃくちゃ綺麗な発音だった。お手本よりも、お手本のような声なの!
わたしは負けてなるものかっ、と紀子に続く。
「あ、い、う! え! お! わあ!?」
わたしは自分の声に驚いてしまった。今まで、こんな大きな声でたことない。
「紀子っ、なんかすごい大きな声がでたの!」
わたしは紀子の季節外れのジャージの裾を握った。
「不思議ですよね。体がヘトヘトになるぐらい運動したあとのほうが、声がでるなんて」
「うん! なんかね、ブワーッ! ってなったの!」
「わたしも最近知ったのですよ──
───声は全身からでるものだって」
わたしはその言葉を聞いた瞬間、胸の奥から冷たい泉がわいたような爽快感を覚えた。
耳の奥で鼓動は小さな太鼓のように鳴り響いている。
「わたし、もっとうまくなれるんだ!」
わたしは紀子に抱きついて、思いきりぎゅーってしたの。
「え? まだうまくなるんですか? 月華さんの次にうまい桜森さんが? マジすか」
紀子がボソボソと呟くがそんなこと関係ない。わたしは紀子をもっとぎゅって抱きしめて口にする。
「今夜、紀子んちに泊まってもいい?」
名作アニメと呼ばれるようなボールドのタイミングで返事が返ってくる。
「はい、勉強させていただきます」
☆桜森ルナ
紀子の部屋は音が柔らかい部屋だった。床を踏む足音さえどこかに吸い込まれて消える。
「スタジオみたい」
わたしは高校にある収録スタジオを連想していたの。
壁一面に黒とグレーの吸音パネル。卵パックみたいな凹凸のあるスポンジが整列して、角には三角柱のベーストラップが縦に伸びていた。窓には厚手のカーテンが二重に吊られていて、その隙間に薄い防音シートが丁寧に貼られている。
「すみません、散らかっていますが」
部屋の主人である紀子はこたつテーブルにわたしをうながしてくれた。
わたしは座る前に「ああああっ!!!」と叫んでみたの。
「桜森さんっ!? え? え? なんか、怒らせてしまいましたか?」
わたしは座椅子に腰をおろし、「ううん」と首を横に振る。
「ここ、防音室でしょ? 試してみただけ」
向かいに座った紀子が申し訳なさそうに口にする。
「防音室もどきです。わたしが適当にやっただけなんで、そんな大声だされるとご近所さんから苦情が‥‥」
「え!? 紀子が自分でつくったの?」
わたしはこたつテーブルに両手をついて身を乗り出した。
「いえいえ、市販の防音グッズを貼ってるだけですよ」
「‥‥そうなんだ」
自分の部屋を思い出してみる。フカフカしたぬいぐるみがたくさん置いてあるわたしの自慢の部屋。こえしばの練習のために防音室にしようなんて想像したこともないの。
わたしは紀子をじっと見つめる。あぁ、やっぱり色が見えない。こえしばをやっている女の子はみんなはっきりと色が分かるのに。
「あ、なんかお菓子でも持ってきましょうか? 飲み物は?」
紀子があたふたと言った。手元ではこたつテーブルに散らばった紙の束を集めている。
わたしは紀子が片付けているそれが気になったの。
「紀子、それって‥‥‥アニメ?」
「そんなたいそれたものではありませんよ。美術予備校の自由課題で自主制作アニメ‥‥ぽい落書きをしてるだけです」
「これが‥‥‥落書きなの?」
わたしはこたつの上の紙束をのぞき込む。手足の生えた野菜が踊っているような絵‥‥アニメの原画だ!
「紀子はアニメーターさんなの?」
「いえいえ‥‥ただのアニメが好きな女の子です。アニメーターになるなんて絶対に無理です」
紀子は手を小刻みに振りながら、きっぱりと否定してみせる。
「パプワくんとかグルグルみたいなかわいい絵なのになあ」
わたしは紀子の絵を見ながらつぶやいた。絵が描けないわたしからすると、紀子は絵の才能があると思う。
肩で息をするニンジンの絵をパラパラとめくってみる。
それは確かにアニメだったの!
「紀子、すごい! こういうのってロボットがやってるんじゃないんだ!」
わたしはアニメはなんかいろいろ(絵とかセリフとか)を適当な機械の中に入れてレバーを引いたら、ガチャンって完成するものだと思っていた。
でも、目の前の女の子が描いた原画は紙の上でちゃんと息をしていた。
紀子の右手は落ち着きなく揺れているのに、指先はまっすぐで、とてもカッコよかった。
「わたしも描いてみたいの!」
わたしは紀子の右手をとった。描かせてくれるまで絶対に離さない覚悟だ。
紀子は困ったようにまぶたをパチクリさせて、原画に描かれた手足の生えたニンジンと同じ仕草で息をつく。
「わたしは教えられるような立場ではありません。だから、手伝ってもらっていいですか?」
「うんっ!」
紀子がこたつテーブルから一枚のタップ穴のついた絵を広げる。
「えっとですね、稚拙ながらこれは原画です。だから、鉛筆の線が均一ではありません」
そう言いながら、床に直置きしている大きなスキャナーに原画を乗せる。
そして、隣の床に並んでいるパソコンを操作する。
「パソコンも使えるんだ!」
わたしは紀子の隣に移動して、スキャナーをまじまじと見つめる。
「かろうじて基本的な操作だけですが‥‥。レタスというペイントツールで原画をスキャンします」
紀子がダブルクリックすると、スキャナーが駆動音をたてて光を放つ。
「桜森さん、モニターを見てください。原画をスキャンして、二値線化‥‥えっと、ドット線に変換したら、線が途切れていたり、ドットが潰れているの分かりますか?」
確かに、モニターに映る絵は原画よりも大雑把に見える。
「原画のほうがいい」
わたしは紀子に言ったの。
「はい、しかしですね、原画を塗る時にどうしても二値線化しないと仕上げ作業が大変なことになってしまうんですよ。だからですね‥‥‥」
紀子はこたつテーブルから別の紙を手にとった。
「これは動画です。つまり、きれいにスキャンして二値線になるように、線を均一にした絵です」
黒と青と赤で描かれた機械的な絵をわたしは「ほえ~」と眺めた。
「動画をスキャンするとですね‥‥‥モニターを見てください」
「あっ! 絵がくっきりと映ってる!」
「原画を動画用にトレスし直すことを原画トレスと言います。桜森さん、原トレを手伝っていただいてよろしいでしょうか?」
「やりたいっ!」
なんて即答したものの‥‥‥わたしはすぐに後悔したのっ!
紀子に作業方法を簡単に説明してもらってから、原トレをやってみる。
まず、ライトテーブルで透かして下の原画を見ることが難しい。
なんとか目を凝らして、線をなぞってみるも、均一な線を狙った位置にひくのが難しい。
無理やり、形にしてみても原画と見比べてみると全然違う絵になってしまう。
わたしは二時間とか三時間、ずっと一枚の原画のトレス作業と格闘していた。
そのあいだに、紀子は動画を五枚は仕上げていた。
わたしは紙をめくりながら、紀子にたずねてみる。
「紀子はアニメーターにならないの?」
「なれませんよ。アニメーターなんて生まれ持っての才能で優劣が決められてしまうのですから」
「じゃあ、声優になるの?」
「なれませんよ。声優なんて変わった人じゃないと務まりませんから」
「紀子の夢はなんなの?」
わたしが問いかけると、紀子は鉛筆をテーブルに置いて気まずそうにほっぺをかいた。
「えっとですね、わたしはたぶん、アニメを作る人になりたいんだと思います」
「どういうこと? 声優もアニメーターもアニメを作る人じゃないの?」
「ただなんとなくお芝居したり、ただなんとなく原画を描いたりするお仕事じゃなくて、わたしはアニメが作りたいんですよ」
「‥‥‥とんち?」
「‥‥‥じゃないです。そろそろ、ごはんにしましょうか。うちの母がはりきって作ってくれているはずです」
窓の外はもう夕暮れだった。
沈みかけた太陽が隣家をオレンジに染めている。カーテンの端にこぼれる光は柔らかく、吸音パネルの凹凸に影を落として、小さな山脈のようだった。
「紀子、もうちょっとだけ原トレやっちゃだめ?」
紀子はクスクスと笑みを浮かべて「やはり、桜森さんはすごいですね」と口にする。
「夕食は持ってきてもらいましょうか。母にメールしておきます。準備できるまで、一緒にアニメを作りましょう」
「うんっ!」
アフレコの時、何人の声優さんが「今からアニメを作るぞ!」って考えているでしょうか。アニメ制作において、絵を描くことも、CGを組み立てることも、お芝居することも。どれもがアニメを作るための作業です。アニメに興味のないアーティストに、アニメの面白さを伝えるのは、なかなか難しい。




