#13 西へ咲くひまわり
感情が頭の中でゆらりらとする
なんで、みんな怒っているの?
声の芝居は楽しいはずなのに
なんで、みんな苦しんでいるの?
☆桜森ルナ
サボってるわけじゃないの! みんなのグチャグチャ色の感情がしんどくて、わたしはフラフラしてしまうの。
保健室の先生がわたしのおでこに冷えピタを貼ってくれる。
わたしはパイプベッドに横たわり、夏を予感させる風に吹かれながら、大粒の涙をこぼしてしまう。
「こらこら、すぐに泣かない。もう高校生でしょー」
柔和な顔をした保健室の先生がわたしの前髪を撫でて口にする。
でも、わたしは涙が止められないの。
「だって、だって‥‥‥みんな辛そうで、死にそうで‥‥‥。わたしが思っていたこえしば部じゃないの!」
何度目かのセリフを口にして、わたしは保健室の先生のおっぱいに抱きついた。
「私はお母さんじゃないのよ、桜森ルナさん」
「知ってる! 保健室の先生でしょ? だったら、わたしがこえしば部の練習を楽しめるように治してよ!」
保健室の先生はわたしの肩を掴み、ぐっと押してくる。
「特待生でこえしば部に入部したのは桜森さんの意思でしょう。楽しむかどうかは自分で決めなきゃあ」
「こんなことなら、常盤岩高校になんか入らなかったのに!」
わたしがえーんえんと泣くと、保健室の先生がずれた冷えピタを貼り直してくれる。
保健室の引き戸の開く音がする。
「ほら、お迎えがきたよ」
先生がそう口にすると、パイプベッドのカーテンが開き、こえしば部三の年古舘戦姫が姿を見せる。戦姫は特徴的なポニーテールで勇ましい整った顔をしている。
「やっぱりここにいた。桜森、誰も怒ってないから戻っておいで」
戦姫がわたしに手を差し伸べる。わたしはその手を払いのけた。
「そんなの嘘! みんな、みーんな、怒ってる! 戦姫だってわたしのことめんどくさい奴だって色してる! こえしばなんか大っ嫌い!」
わたしがそう叫ぶと、戦姫は困ったように眉尻を下げる。
「わたしは桜森のことをめんどくさいなんて思ったことないが」
「嘘! ぜーんぶ嘘! わたしには分かるんだから!」
戦姫が呆れた色して、パイプベッドに腰をかける。
「みんな必死なんだよ、こえしばに。有象無象の声優になりたい奴らの中から、才能があるって評価された奴だけが集められて、さらにその中で優劣を競い合う。それが東京常盤岩高校だ。桜森もそれを理解してやってきたんだろう?」
わたしは首を横に振る。冷えピタがあさっての方角へ飛んでいった。
「違う! わたしは月華が常盤岩に来るって言ってたから来ただけなの! 月華がいないんだったら、こんな学校いかなかったのに!」
わたしは保健室の先生のおっぱいの中でえーんえんと泣く。もうほっといてよ!
戦姫が青色の息を吐き出して、ピカピカと七色に光る声で口にする。
「なあ、桜森。わたしと月島月華、どっちが上手い?」
わたしは顔を上げて戦姫をにらみつける。
「上手いとか下手じゃない! 月華は無色透明なんだから! 戦姫とかみんなみたいにピカピカしてないの! だから、月華と一緒が良かったの!」
戦姫は呆れたように肩をすくめた。
「やれやれ。顧問にはわたしから伝えておきます。先生、桜森が落ち着くまで今日もお願いします」
「わたしは変じゃない! 変なのはみんななのに! わたしは普通なのに‥‥‥」
「誰も桜森のことを変なんて言ってないぞ」
「ほっといて!」
保健室から出ていく戦姫を見送って、わたしは布団の中に潜り込んだ。
「私は仕事してるから何かあったら呼んでねー」
保険室の先生がそう言い残して、パイプベッドをあとにする。
わたしは歯を喰いしばって我慢しようとするが、やっぱり涙が止まらない。
「月華がいてくれたらこんなことにならなかったのに!」
☆月島月華
ダッサイ割烹着のわたしは大将(こあらの親父)の動作を自分に重ねながら左手でシャリをとり、優しく形を作り、サーモンを慎重に乗せて、カクテルを振るように力を加える。
すっと息を吸い込み、寿司下駄の上に握ったサーモン寿司を置いた。
「寿司握るなんて余裕じゃん」
閉店間際の松野寿司でわたしは寿司を握らせてもらっていた。アルバイト二日目。大将の動きを近くで観察できたから、寿司を握るなんて簡単だ。
日焼けした肌色の大将が眉間にシワを寄せてわたしを睨んでくる。
「おめえよ、寿司屋で働くのほんとに初めてか? 厨房の仕事もすぐに覚えちまうし、寿司だって様になってやがる」
「別に。寿司屋の仕事なんて誰でもできるでしょ」
わたしはモゾがゆさを覚えながらそう答えた。
「最近のわけえもんは要領がいいんだか、悪いんだが。それでよお、おめえは自分が握った寿司をどう思ってんだい?」
「完璧。だって、大将の動きを完コピしたし。ってか、サーモンじゃなくて、中トロを握らせてよ」
大将が鼻を啜って「バッキャロウ」って続ける。
「一日、二日で中トロ握らせるわけねーだろ! おい、自分で握ったサーモン食ってみろ」
「はあ? 今はエンガワ食べたいんだけど」
「るせえ! いいから食え!」
わたしは「これだから頑固な職人は」と呟き、サーモン寿司を口に運んだ。
「‥‥‥ちょっと待って。このサーモン古いんじゃない? 全然、美味しくないんだけど」
大将は口をへの字にしてこう答える。
「お客さんにだしても恥ずかしくない鮮度のネタだ。おめえ、どこがいけねえかわかんねえのかい?」
「そういうのめんどいから。どこがおかしいか教えてよ」
大将は嘆息を吐き捨てて、シャリを手に取りサーモンを握る。そして、寿司下駄に置いた。
「おい、食ってみろ」
「そろそろ真鯛かイカが食べたいんだけど」
「るせえ! いいから食え!」
わたしは「はいはい、うるさいな」と愚痴をこぼしてから大将の握ったサーモン寿司を口に運んだ。
「‥‥‥ズルしてない? わたしのより良いネタ使ってんでしょ」
わたしは舌に触れたサーモン寿司のあまりの美味しさに戸惑いながら言った。
「おめえと一緒のネタだよ。まあ、正直驚愕してる。器用とか才能とか‥‥‥おめえの物覚えはそんな次元じゃねえ。俺がおめえぐらいになったのは修業はじめて三年ぐらいしてからだよ」
わたしは大将が寿司を握る姿を想像して、自分と何が違っていたかを考える。しかし、その正体は掴めない。
「で、どこを修正したらいいか教えてよ」
わたしがそう言うと、大将は腕を組んで気難しい顔をする。
「修正するとこなんかねえよ。おめえの言った通り『完璧』だよ。ただ、おめえはわかっちゃいねえ。修正とか、完コピとかじゃねえんだよ、おめえに足りねえとこは」
「はあ? 意味不明」
「そりゃあそうだ。意味不明でけっこう。それが寿司屋だ」
わたしは唇を尖らせた。まあ、あと二、三回観察すれば味も再現できるだろう。それよりも確認したいことがある。
「あのさ、もうバイト代、五万はいった?」
大将がその場でつまづいて怒鳴り声をあげる。
「ば、バッキャロウ! 六時間、しかも今日は遅刻してきたから五時間半バイトしただけで五万稼げるバイトがどこにあるんだ!」
「柿本さんは五万ぐらい余裕だって言ってたけど」
「どこの柿本さんだ、バカヤロウ」
「アニメ監督の柿本さんだ、バカヤロウ」
「知るか! 二日で五万も稼げんのはイーロンマスクぐれえだっちゅうの」
「イーロンはもっと稼ぐでしょ? 二日で五万って大谷翔平ぐらいじゃない?」
「大谷翔平は時給百万だ!」
「わたしにもそれぐらいちょうだいよ。柿本さんに返さなくちゃいけないんだから」
「メジャーでホームラン王とってから言え!」
厨房の入り口からジャージ姿のこあらが顔をのぞかせる。
「大谷は時給百十六万や!」
すかさず大将が怒鳴り返す。
「おめえはこいつ見習って店の手伝いしやがれ!」
わたしもすかさず声をあげる。
「やーい、怒られてやんの」
こあらはスースーと気の抜けた口笛を鳴らし、後頭部で腕を組んで、
「パワプロやって寝るんごお」
そう言ってどっか行った。こあらと入れ替わりで女将さん(こあらの母親)がやってくる。
「月華ちゃん、お母さん迎えにきたよ」
わたしはダッサイ板前帽子を脱いで「はーい」と返事をした。
「おめえバイトは続けられそうなのかよ?」
大将の問いにわたしは親指を立てる。
「余裕っしょ」
「そうかい‥‥‥おい、こいつの時給、試用期間の850じゃなくて千円にしてやれ。もう、教えることがねえ」
「え、時給百万じゃないの?」
「寝言は寝て言え」
「‥‥zoo‥‥zoo‥‥ジキュウ‥‥ヒャクマンエン‥‥‥」
「寝言を寝て言うんじゃねえ!」
「あ、そう。じゃ、お疲れ様でしたー」
わたしが女将さんの隣に立つと、こっそりと耳打ちしてくる。
「ウチのに気に入られちゃったわね」
「え〜、迷惑なんですけど」
「聞こえてんぞ!」
すると客席のほうから声が響く。
「大将、今の子は褒めて伸ばしてやらないと」
「‥‥‥おいっ、明日は遅刻してくんじゃねえぞ」
「それ褒めてんの?」
わたしがそう言うと大将から「うるせえ」が返ってきた。そして、閉店間際の寿司屋に笑い声が響く。
☆ ☆ ☆
お母さんのボックスカーに自転車を積んで、車は夜の帰路を走る。
わたしは県大会の課題アニメが発表されたこと。それなのに、野球の練習しかやらなかったこと。寿司屋のバイトがちょろかったこと。寿司を握るのは簡単じゃないことをお母さんに矢継ぎ早に話した。
ハンドルを握るお母さんが時折り相槌をうち、わたしが一通り話終えるとクスクス笑った。
「なんか思い出すな、月華がこえしばはじめた頃もこんな感じだったっけ」
わたしはほほを膨らませて抗議する。
「どこが!」
「動物が日本語話すの納得できないとか、男の子の声が出せないとか。全部、お母さんに報告して来たじゃない」
「‥‥‥もう忘れた」
「アルバイトは続けられそう? お店に迷惑かけてない? お客さんに乱暴なこと言ってない?」
「別に迷惑かけてないし。厨房だから客と話さなくていいし」
お母さんは肩をすくめてこう口にする。
「無理してバイトなんかしなくたっていいんだからね」
わたしは窓のほうを向いて唇を尖らせる。
「別に無理とかしてないし」
───最近、めちゃくちゃ楽しいの
なんて本音は窓の自分にだけ聞こえるように言った。
家に帰って、シャワーだけで済ませて、パジャマに着替えて、わたしは自室の六台ある加湿器に水を入れるため一階の洗面台と二階の自室を往復する。
四台の加湿器の水を補給して、なんとなく虫可に電話してみたくなった。
わたしはベッドに腰をかけて、スマホを操作してアドレス帳から虫可の名前をクリックする。ワンコールで彼の声が聞こえる。
『はい、柿本です』
「あ、あの‥‥月島月華です」
『月華、どうしたの?』
「何してますか?」
『アニメを作ってるよ』
「え、こんな時間に?」
『時間なんか関係ないよ。僕たちはずっとアニメを作らないといけないんだから』
「わ、わたしも次のこえしばの練習をしてました! 今日、ずっとです!」
『月華もアニメが好きなんだね』
わたしは胸に痛みを感じるが、虫可の心底嬉しそうな声に心は躍ってしまう。
「アニメ好きです、超好きです‥‥‥だから、わたしにアニメのこと教えてくれませんか?」
わたしはベッドに横になって足をバタバタさせて言った───好きなのはアニメじゃなくて虫可だよって思いながら。
『いいよ。まず、アニメはねプラキシノスコープっていう回転のぞき絵から‥‥‥』
それから電話の向こうで虫可はアニメの歴史? みたいな話をしてくれた。わたしは「うん、うん」ってうなずきながら、そのまま眠りに落ちてしまった。
それは人生で味わったことのない心地良い微睡みだった。
☆月島月華
「リーチ、ツモ、ドラ、赤ドラ、5900です」
長い髪の毛を季節に合っていない長袖パーカーに収納した紀子がおずおずと言った。
こえしば部の午前練習を終えたわたしと紀子はこあらの家で三人麻雀を打っていた。
「飛ばされたんごお」
こあらが点棒を自動卓に投げ散らかして唸り声をあげる。
「紀子さー、ズルはもっと上手くやりなー。わたし、全部わかってんだからね」
わたしは瞬きをたくさんしながら言った。
「せやせや、ノッリ。イカサマはバレずにやらなな」
こあらも瞬きをたくさんして言った。
紀子が潔白を証明するように手のひらを見せて弁明する。
「ちょっと! わたしはズルなんてしていませんよ」
「怪しい」「んごぉ」
「もう! わたし、今日塾というか予備校というか、用事があるから麻雀なんてしてる場合じゃないんですよ。それなのに、月華さんが無理矢理誘ってくるから‥‥」
「しょうがないじゃない! こあらんちに麻雀の自動卓があるんだもん。やってみたいでしょ」
「全然、しょうがなくないですよ。月華さん、バイトはいいんですか?」
「まだ三時間ぐらいある」
「え‥‥‥もしかして、それまで麻雀やるつもりですか?」
「勝ち逃げは許さないわよ」
「こあらさんも野球のデイゲーム見たいですよね?」
「ひざの上で見てるから問題ないやで」
紀子が「はぁ〜」と肩を落とし、ボソリをこう漏らす。
「こあらさんの部屋、中日ドラゴンズの選手のポスターがあちこちに貼ってあるからなんか落ち着かないです」
わたしは大きく頷いた。
「ほんとそう。さすがにここまで中日ドラゴンズ好きだと引くわ」
「なんでや! カッコええやろ!」
「浅尾とか坂本はいないの?」
こあらがあごを指して口にする。
「浅尾のポスターはそこや。坂本は巨人やからここにはおらん」
わたしが浅尾のポスターに目をやると、紀子が感心した声で口にする。
「月華さん、野球詳しくなりましたよね。やるほうも素人目から見ても上手ですし」
「別に詳しくないし。たまに里崎チャンネル見てるだけだから」
「あ、わたしも里崎チャンネル見てますよ」
「わいも見てるんご」
「‥‥‥女子高生が三人集まって里崎チャンネル見てるって冷静に考えたらやばくない?」
わたしがふと思ったことを言った。
「高木豊チャンネルだったらやばいですけど、里崎チャンネルだったらセーフじゃないでしょうか」
「里崎チャンネルはみんな見とるで。高木豊チャンネルはおっさんしか見てへん」
わたしは妙に納得してしまった。
「そっか、高木豊チャンネルじゃないからいっか」
なんとなく和田のポスターに目がいってしまい一息つく。和田にはリラックス効果があるようだ。
「麻雀続けますか?」
紀子が嫌そうな声で自動卓を操作する。
「もちろん‥‥‥でも、普通の麻雀やりたいわね」
「んご。四人麻雀なら負けへん‥‥‥あ、点入れられたんご」
「麻雀打てる暇な知り合いなんかそうそういないですよね」
わたしは「あ」と言って、スマホを操作する。
「誰か心当たりでもあるんですか?」
紀子がきょとんと尋ねてくる。
「うん、一人だけ」
「え、月華さんって友達いるんですか?」
「はあ? こあらと違ってわたしは友達いるし!」
こあらがわたしの横腹を突いてくる。
「一緒に野球したらみんな友達や!」
「はいはい‥‥‥『麻雀のルール知ってる?』っと」
「‥‥‥月華さん、もしかして柿本監督にメッセ送ってませんよね?」
紀子の口から唐突に柿本さんの名前が出て、わたしは自動卓を蹴りあげてしまう。
「虫可をこんな中日ドラゴンズ臭い部屋に誘うわけないじゃない! ってか、紀子は気安く虫可の名前を口にしないで。地区大会で虫可にちょっと褒められたからって調子に乗って!」
「あんなの社交辞令ですよ‥‥‥まあ、素直に嬉しかったですけど、はい」
「あ、返信きた。『知ってる』だって。よし、『麻雀やってるから松野寿司に来て』と」
紀子が不安そうに口にする。
「月華さん、誰を誘ったんですか?」
「紀子も知ってる奴だって」
☆桜森ルナ
傾斜のきつい山道を走るみんなの背中は一定のリズムで気持ち悪い。わたしは声の芝居がやりたいだけなのに、なんで山道を走らされているのか分からない。
みんなと違って体の小さなわたしの体力はもう残りわずかだ。
わたしは涙がこぼれてきて、嗚咽を漏らしてしまうの。
うめき声を上げながら足を止めて、薄暗い山道の真ん中に座り込む。
みんな、わたしのことなんか気に留めずに一定のリズムで背中は遠ざかっていく。
「うぅ‥‥‥こんなの練習じゃない」
わたしが泣いていると、三年の古舘戦姫の声がする。
「桜森、大丈夫か? 自分のペースでいいから一緒に走ろうな?」
わたしが顔をあげると、息一つ乱していない整った顔をした戦姫と目が合う。
「もうほっといてよ! わたしは‥‥‥わたしはこんなことやりたくないの!」
「先生もわたしも桜森には期待してるんだ。そろそろ、大人になったらどうだ?」
わたしは琴線に触れられた気がして苛立ってしまう。
「わたし、大人だもん! 一人で寝てるし、一人でお風呂に入れるもん!」
ブワァッと涙が溢れてきて、視界がぼやけて滲んでいく。
「みんな、おかしいよ。こえしばは楽しいはずなのに、いっつもいっつーも怒ってる!」
戦姫がわたしの頭にそっと手を置いた。
「都大会前でみんなピリピリしてるのは確かだ。それは‥‥‥仕方がない。うちは試合ギリギリまでレギュラー争いをするからな」
「わたしは大会になんかでたくないのっ! 月華とお芝居がやりたかっただけだもん」
「そうは言っても、わたしはお前を‥‥‥桜森ルナをレギュラー候補に推薦したんだ。一緒に大会に出て欲しくてだぞ。それぐらい、わたしは桜森を買ってるんだ。練習についてこれなくたって、うちは実力主義だ。圧倒的な芝居でみんなをひれ伏せてやればいい」
「そんな声の芝居楽しくないのっ! もうどっかいって!」
わたしは戦姫の手を払いのけた。そして、また嗚咽を漏らす。
「‥‥‥先に行くからな。本当につらかったらすぐに先生に電話しろよ」
戦姫の背中が見えなくなって、わたしは薄暗い森でひとりぼっちになってしまった。余計に泣けてきて、風が吹いて木の葉が鳴いて、今度は怖くなってきた。
ピコン♪
ポッケに入れたスマホが鳴る。わたしはうめき声を上げながらスマホを手に取る。
『麻雀のルール知ってる?』
それは月島月華からのメールだった。
「わたしを騙したくせに初めてくれたメールがなんで麻雀なのっ!」
わたしはスマホを叩きつけそうになる。しかし、どんな内容であれ月華からメールがきたことが嬉しくてたまらなかった。
わたしは麻雀のルールをあまり覚えていなかったけど、スマホをフリックして返信した。
『知ってる』
『麻雀やってるから松野寿司に来て』
松野寿司? 一体、月華はどこにいるのだろうか。
ピコン♪ とメールを知らせる音がする。メール本文には岐阜県にあるお寿司屋さんの食べログのリンクが貼ってあった。星は4、レビュー内容を見るにかなり評判は良いみたいだ。
わたしはスマホを握りしめて立ち上がった。そして、戦姫たちとは逆の方向に走りだす。
───そうだ、月華に会いに西へ行こう
声の芝居に見よう見まねは存在しません。絵のように模写して上手くなるという分かりやすいレベル上げは残念ながら存在しません。ゲームかボイスドラマかアニメか。媒介によっても演技の作り方は違います。それでも、役作りの際、類似作品を見て研究することは有意義ではあります。全力で演技する声優さんはたくさんいますけど、役を研究してくる声優さんは滅多にいません。




