新たな一員
巨大魔人が現れてタイタンを葬り去ったことに、アイリードも信じられないほどの驚きと救われたという気持ちでいっぱいだった。そこに子供を助けて母親に引き渡したジャックが戻ってきた。
「あの巨大魔人に助けられた・・・」
「ああ、あれがこの町の伝説の巨大魔神なのだろうか・・・」
2人はそう話していた。そこにジークが駆けよってきた。子供を飛び出していったソミオのことが心配だったのだ。
「ソミオが・・・若い男が子供を助けるために行きませんでしたか?」
ジークはジャックに尋ねた。ジャックはそれに対して悲しそうな顔をして答えた。
「ソミオ・・・ソミオというのか、あの男は。彼は勇敢だった。崩れる寸前の建物に飛込み子供を救った。だが子供を俺に投げ渡した途端、建物が崩れてしまって・・・」
「そ、それじゃあ、ソミオは・・・」
「そうだ。建物の下敷きになった。俺はあんな勇気を持った男を見たことはない・・・」
「ソ、ソミオ・・・」
ジークは膝をついた。その目には涙がこぼれていた。せっかく生き返った親友をまた失ってしまうとは・・・。そばにいるジャックとアイリードは悲痛な顔をして目を伏せていた。
その時、明るい大きな声が聞こえてきた。
「おーい! おーい!」
一人の男が駆けてきていた。よく見るとそれはソミオだった。まるで飛び跳ねるようにこっちに向かってきていた。彼の首飾りは元のように首から下げられて大きく揺れていた。
「ソミオ!」
ジークはすぐに立ち上がり、両手を広げて走っていった。そしてソミオを抱きしめて喜びあった。
「ソミオ! 心配させやがって! これで2度目だぞ! 無茶なことしやがって!」
「ジーク。僕はこの通り大丈夫だ。心配かけて悪かったな。」
ジークはソミオを放すと尋ねた。
「どうやって助かったんだ? 建物の下敷きになったと聞いたぞ。」
「ええと・・・よくはわからないけどライティが助けてくれたんだろう。」
「ライティ?」
そこにジャックと両脇を抱えられてアイリードがやって来た。「ライティ」と聞いてアイリードがソミオに尋ねた。
「ライティとはあの巨人のことか?」
「え、ええ。僕を助けてくれた時、そう名乗ったのです。」
「何者なんだ? この町の伝説の巨大魔人なのか?」
「いえ・・・僕にはわかりません。でも悪い奴ではないようです。」
ソミオはそう答えた。自分がライティと一心同体であることを秘密にしなければならない。だからソミオはそれ以上のことを言わなかった。
とにかく危機は過ぎ去った。後はすぐに行動するのみだった。また妨害者が現れるとも限らない・・・。アイリードはジャックに言った。
「ジャック。これからお前がキャラバン隊の隊長だ。お前なら来てくれると信じていた。」
「兄貴。すまなかった。俺は逃げていた。兄貴に代わってキャラバン隊を率いていくよ。」
2人はがっちりと握手した。そしてジャックは大声で叫んだ。
「新隊長のジャックだ。キャラバン隊を出発させる。用意しろ!」
「おう!」
掛け声が街に響き渡った。術者が整列し、運び屋がラクダを並ばせていた。ジークも持ち場に戻ろうとそこから離れて歩きだした。それをソミオは寂しそうに見ていた。その様子を見て、
「ソミオ。一体、何をしている? 早く行ってみんなを手伝ってこい。」
とジャックが言った。ソミオには訳が分からなかった。自分はキャラバン隊の一員ではないのだから・・・。
「僕は・・・」
「わかっている。しかしお前は今日からキャラバン隊の運び屋だ。」
「でも僕には何のスキルもないんです。このキャラバン隊にはスキルのある者だけだと・・・」
「何を言う? お前には立派なスキルがあるじゃないか。」
「えっ?」
「勇気だ。お前の勇気がスキルだ。その勇気があればみんなを助けられる。それは他の誰も真似できない。」
「ジャックさん、いえ、隊長・・・」
「頼むぞ。さあ、行って手伝ってこい!」
「はい!」
ソミオは勢いよく返事して他の運び屋の方に走っていった。そこではジークたちに温かく迎えられていた。
アイリードはジャックに声をかけた。
「よかったな。私もあの男がいてくれたらいいと思った。彼には不思議な力があるように思った。」
「俺にはわからないけど、とにかくソミオは勇敢だった。彼なら苦難の旅に耐えられると思っただけだよ。」
「これからが大変だ。行先は・・・」
「わかっているよ。敵を欺くにはまず味方から。」
「頼むぞ。私はここで祈っているしかないが・・・」
2人はそう話していた。キャラバン隊の真の旅立ちはこれからだった。砂漠からの強い風がエイスンの町に吹き込んでいた。
『キャラバン日誌 ロマネスク歴2067.1213 アイリード記録。 再びタイタンが現れ、エイスンの町を襲ってきた。再編成した我が隊の術者が立ち向かったが敵わず、町への侵入を許してしまった。だが突然現れた巨大魔人によりタイタンは撃退されて事なきを得た。あの巨大魔人はライティというらしいが詳細は不明だ。またキャラバン隊に少なからずの被害は出たが、この戦いで我らが得たものがあった。それは新隊長のジャックだ。彼がこのキャラバン隊を率いてくれることになった。それに勇敢な運び屋のソミオが加わった。このキャラバン隊に幸あれ。』