決死の救出
タイタンは怒りに任せたまま、両腕をぶん回して近くの建物を破壊し始めた。建物が次々に崩れ、人々はあわててそこから逃げた。もうタイタンを止める方法はないのだ。命からがら逃げるしかないのだ。
だが逃げ遅れた者もおり、タイタンの近くの建物の中に取り残されてしまっていた。それはまだ小さな子供だった。その子は2階の窓から泣きながら助けを呼んでいた。逃げる途中、母親とはぐれてしまったようだ。母親がそれに気づいてその建物に向かおうとした。だがタイタンがもうその建物に手をかけていた。周りの人たちは危ないと見て母親をつかんで引き止めた。それでも彼女は必死にそれに抵抗しながら、
「ミーヤ! ミーヤ!」
と必死に叫んでいた。誰かが助けに行かなければ・・・だが間近に迫るタイタンの恐ろしさに皆は足がすくんでいた。その場に通りかかったソミオはラクダの綱をジークに預けた。
「僕が助けに行きます!」
「やめろ! 無茶だ!」
ジークは止めようとした。崩れようとしている建物に飛び込むとは・・・それにタイタンもそばにいる・・・無謀としか言いようがない。だがソミオはもう決心していた。
「あの子をそのままにしておけない!」
ソミオは飛び出していった。ジークは、いや他の者たちもその後を追うこともできず、ただその後姿を見送るしかできなかった。
(ソミオ! 死ぬな!)
ジークは心の中で必死に祈っていた。
ソミオは駆けて行って壊れかけた建物に入った。するともう子供の悲しそうな泣き声が2階から聞こえていた。
「どこだ! 助けに来たぞ!」
ソミオはそう声を上げると2階に上がった。不安と恐怖で押しつぶれんばかりだったのだろう・・・そこには部屋の窓際で泣きじゃくる子供がいた。けがもなく無事の様だった。だが安心してはいられない。その後ろの大きな窓からはタイタンの姿が大きく見えていたのだ。
「もう大丈夫だ!」
ソミオがその子を抱えた。すると外から声が聞こえた。
「その子を窓から放れ! 俺が受け止める! お前もそこからすぐに飛び降りるんだ!」
それはジャックだった。タイタンが迫る建物に子供を助けに入ったソミオを見て駆けつけてきたのだ。もうタイタンはその建物に手をかけており、今にも崩れそうに震えている。
ソミオは「えいっ!」子供を窓から下に投げた。それを下でジャックがしっかりと受け止めた。
「もう崩れるぞ! 早く飛び降りろ!」
ジャックが声をかけた。ソミオは窓から飛び降りようとした。だがその時だった。天井が崩れ落ちたのだった。
「うわーっ!」
ソミオは天井のがれきの下敷きになった。その時、彼の頭の中にあの言葉が響き渡った。
『その首飾りを掲げて私の名を叫ぶのだ!』
ソミオは何とか首飾りを引きちぎり、それを右手で掲げて叫んだ。
「ライティ!」
すると首飾りがピカッとまぶしく光り、その光がソミオを包んでその姿を消した。そして次の瞬間、空中に巨人が現れた。日の光で輝きながら、その巨人は地響きとともにゆっくりと地面に着地した。それは銀色、いや光の具合で七色にも見えた。そしてその額には青い炎が揺らぐことなくまっすぐに燃えていた。この世界では見たこともない異形の者であったが、神々しいオーラをまとっていた。それが宇宙戦士、ライティの姿だった。
ライティはタイタンに向かって身構えた。その場にいた者はその巨人の姿に見て一瞬、我を忘れた。まるで時間が止まったかのようだった。
「あれが巨大魔人・・・か・・・・」
アイリードはそう呟いた。この町の伝説にある巨大魔人が姿を現したとしか彼には思えなかった。ジャックもしばらくその姿を呆然として見ていたが、両腕に抱える子供がおびえて震えているのに気づいて、あわててその場から離れて行った。