再出発
次の日になった。キャラバン隊が中央の広場に集まった。荷物を載せたラクダにそれを扱う運び屋、そして集められた術者たち、形だけは何とか整った。そこに両脇を抱えられてアイリードが出てきて椅子に座った。彼は重傷を負い、体の自由が利かなくなっている。もうキャラバン隊を率いていくことができなかった。
(ジャックは・・・やはりジャックは来なかったか・・・)
アイリードはため息をついた。こうなればルマンダに指揮をとらせて王都に戻るしかない。横にいるゲオルテ大使が尋ねた。
「アイリード隊長。体はどうだ?」
「ええ、よくはなっていますがこの有様です。もう一緒に行くことはできません。」
「では指揮は? ルマンダが執るのか?」
「そうなると思います。」
「やはり王都に戻るしかないか。」
「残念ながら・・・」
もしジャックがいたら・・・それなら何とか旅を続けられるかもしれない。しかし全体の指揮を執るべき隊長が不在で、戦闘には向かない副官のルマンダが指揮を執るようでは・・・王都に戻るのも難しいかもしれなかった。いや、その前にタイタンがこの町を襲ってきてキャラバン隊だけでなく町全体を破壊するかもしれない。いずれにしてもキャラバン隊が壊滅する危機なのだ。ゲオルテ大使もそれは分かっているようだった。
そんな悪いことしか思い浮かべられない状況ではあったが、ゲオルテ大使は少しでも気休めになればと、この町の言い伝えについて話し始めた。
「ところでこの町は守られているそうだ。その伝説を知っておられるかな?」
「いえ、知りませんが・・・」
「なんでも町の危機に巨大魔人という守り神が現れるようだ。それがこの町を救うようだ。そんな伝説が残っている。その守り神がこの町と、そして我らもご加護くださいと祈るばかりだ。」
その話でアイリードが安心できるわけではなかった。だが思い悩んでいても仕方がない。とにかく今はタイタンが襲来する前にここを離れねばならない・・・アイリードは準備ができ次第、王都に向けて出発させようと考えていた。
ルマンダは書類を見て人員とラクダ、そして荷物をチェックしていた。彼女の周りには術者や運び屋が集まっている。
「術者は魔法使いのリーナ、剣士のロイアン、同じく剣士のトロイカ、魔導士のジュール、弓使いのメレ、そして槍使いのダルレ・・・・ん?」
ルマンダは最後の男の顔を見た。そこにはちゃっかりダルレも参加していたのだ。たくさんの金貨を渡したが4人がやっとというところだったのだろう。残りの金をもらうために自ら参加してきたのだ。
「いや、なかなか集まらなくてよ。俺も槍の術者だから加わったのさ。」
と涼しい顔で言っていた。欲深いダルレらしかった。単なる人数合わせだが、いないよりいる方がマシとルマンダは思った。
「まあ、いいでしょう。」
ルマンダはそう言うと今度は運び屋の方に来た。そこには10人以上が集まっていた。
「ドーグ、モンテ、ジーク、新入りのワンズ、ニコ、スライズ、ヨーク・・・・・、オイゲン。大きいのね。」
確かにオイゲンは、背はみんなより頭一つ大きくてしかも太っていた。ジークの話ではラクダを自在に扱っていたらしい。ろくなスキルを持っていない者が多いが、このオイゲンだけはかなり使えそうだった。
「動物と話せるそうね。期待しているわ。」
ルマンダの言葉にオイゲンはそれににっこり笑って答えた。そして運び屋はもう一人いた。
「ハンカ・・・女なのね。」
力仕事は男だと相場が決まっており、ルマンダは女の運び屋は見たことはなかった。そのルマンダの言葉から役に立たないと思われているかもしれないと思ったハンカは、横の大きな荷物を軽々と持ち上げて見せた。
「ふふん。そこいらの男には負けないよ。試してみるかい?」
「いや、いいわ。頼むわね。」
ハンカはイエム武術の達人らしい。このスキルは役に立ちそうだとルマンダは書類を閉じた。これで人員はそろった。後は出発命令を出すだけだった。
そのキャラバン隊の様子を町のはずれからうかがっている者がいた。それは黒い服に黒いスカーフで髪を覆い、顔をヴェールで隠している老女だった。彼女の腰は曲がり、露出した両手はしわくちゃだったが、その目だけは鋭かった。その目がキャラバン隊をしっかりととらえていた。
「今度こそ逃しはせぬ。奴らにやられて若さを失ったが、仕留めて帰ればまた若さをいただける。待っておれ!」
老女は町に向かって走り出し、そして呪文を唱えた。すると周囲から黒い煙が湧き出て巨大な人型を形作った。それはまがまがしい雰囲気を醸し出していた。老女は、
「召喚! タイタン!」
と叫んだ。するとそれに老女は吸い込まれるように姿を消した。そしてその人型がタイタンに変貌していった。それは大きく腕を振り上げ、
「グワーッ」
と咆哮するとエイスンの町に走り出した。