反動
ヴァイルは、魔法を使ったという現実に酔いしれていた。
魔力を感じ、魔法を使い、夢に見ていたことを現実にしたから。
そして、吐いた。
「ごほ、ごほ……なるほど……これは中々……」
胃液を床にびちゃびちゃと吐き出した後、ヴァイルは悪態をついた。それは、まるで悪臭を無理やりに吸い込んだ時のような反応で、それでいて何かがのどに詰まって息ができないような、そんな反応だった。
「は、はははは……これが魔力」
それでも乾いた声でヴァイルは笑う。
「ははは、これが、魔法……」
笑う。
「ははははは」
笑う。
「はははははははははははははははははは」
笑った。乾いた声で、感慨も感動もなくただただ、嗤った。
「汚らしくおぞましい。これが魔法か……いや、元が悪いのか?」
そして、真剣に悩み始めた。
「なら、綺麗な魔力や魔法とは何なのだろうか……」
「ゥ゛……」
真剣に悩み始めたヴァイルの耳にティエルの呻き声が聞こえてきた。
「ああ、忘れていました。大丈夫ですか?」
ヴァイルは慌ててティエルのもとに駆け寄る。衣服の間から見える肌の半分はいまだに紫がかっている。
「……命に別状はなさそうですが……必要最低限の治療しかされていませんね……」
ティエルは荒い呼吸を繰り返していて辛そうだ。ティエルは死にはしないだろう、死にはしないだろうが確実に死に近づいて、その実感はティエルも感じていた。
「……ぁ…………ぁ…………ぁ……」
死が接近し死神の鎌が首にかかっていることを幻視したティエルは目を見開き何かを言おうとしていた。
しかし、一向に死神の鎌は振るわれなかった。
「大丈夫です。死にはしません」
恐怖にかられ無茶な動きをしないように、ヴァイルはティエルに言い聞かせる。そしてふと思いついて、ティエルに触れた。
そして、ヴァイルはティエルに魔力を送り込んだ。
これは闘技場内に満ちていた魔力の残滓だ。肉塊を消滅させるときにほとんど使った魔力だったがほんの少し残っていた。
魔力を送りんだところで何とかなるとは思わなかったが、経験則からこうすれば何とかなるのではないか、そんな風に思っての行動だった。
結果としては全く意味はなくただティエルの魔力が回復しただけだ。
魔力を送ったこと自体に意味はなかったがその行為を行ったことでヴァイルは一つの気づきを得た。ティエルの体を蝕むのは呪詛のように重く連なる真っ黒で鎖のような、魔法だということに、気づいた。




