魔法の使用
ティエルの気づきより少し早くにティエルに起きていることを察しこれが誰によって行われたことなのかも同時に察した。
今、ティエルに何かできた相手がいるのだとするとヨルぐらいだ。
ヨルはティエルの治療に向かったのだ。ティエルの口ぶりからすれば先ほどまでヨルが治療を行っていたはずだ。ならヨルがティエルの治療を邪魔させたり状況を悪化させるようなことを許すはずがない。
面倒だからだ。
では、残る可能性として挙げられるのはヨルが必要と判断したうえでティエルに魔法をかけて視界をおかしくさせたという事だ。
なぜこんなことをしたのか考えて、すぐにわかった。
ヴァイルが魔法を使えるようにするために必要なことだから。
なぜ必要なのかはヴァイルにはわからなかったがそれでもそれが必要だということは、それを継続させる必要があると判断したヴァイルはティエルに、言った。
「そのまま魔法を使い続けていてください」
「え、でも……」
「どちらにしろ今のティエルさんに魔法以外を使わせたり移動させたりするのは危険かもしれないので肉塊に攻撃はさせたくありません」
「……分かりました」
そして、ティエルはヴァイルの言う通りに攻撃を再開した。
ティエルから見れば変わらず赤い肉のような物を攻撃しているだけだではあったが。
消滅しているが何度も魔法を浴びているヴァイルは感じていた違和感が大きくなっていくのを感じていった。
魔法を一度浴びれば浴びるほど違和感は大きくなっていき肉塊にも動きはない。
ティエルが動き始めたころから大体八分近くたったころ、ヴァイルの中の違和感は際限なく大きくなり一つの核心を得るほどになった。
「これが、魔力……」
ヴァイルは、今までに感じることができていなかった魔力を今このタイミングで感じることができた。
それと同時に、魔法の使い方も、理解することができた。
しかしそれは、消滅させ続けている魔法を消滅させることなく自分の制御下に置き魔法を使用するという、ティエルの魔法を奪い取るような方法でしかなかった。
だがしかし、だがしかしだ。これは今まで待ち望んでいた魔法の使用は自力でなくても、良かった。魔法を使うということが目的だから。
「これが、魔法……」
ヴァイルは打ち込まれた魔法を消滅させることなく自分の傍に、時を止めたかのような状態で待機させている。
「ティエルさん、そろそろいいです」
「はい」
頃合いを見て、ティエルに魔法の使用を止めるように言う。魔法の使用が止められ、改めて自分の傍にとどめられている魔法を感じる。
「これが……」
ヴァイルは、魔法を見て、ほほ笑んだ。微笑を浮かべた。
ヴァイルは、深く深呼吸をして、待機させた魔法を肉塊に向けて飛ばした。
飛ばされた魔法はティエルが放った時とは威力が増幅されていた。魔法は肉塊に向かって真っすぐに飛んでいき肉塊を灰と化した。
飛ばされた魔法はそれだけにとどまらず闘技場内で破壊の限りを尽くした。
破壊された闘技場内に、立っているのはヴァイルだけだった。ティエルは身体機能に問題が出てその場に倒れてしまった。倒れ方としては乾き、もろい砂で作られた砂山が風に吹かれて削られていくような崩れ方だった。
ゆっくりと、ゆっくりと崩れていったせいで声を上げることができずヴァイルに助けを求めることができなかった。
また、声を上げるたとしてもそこに意味があるのかは分からなかった。ヴァイルは今魔法を使ったという現実に酔いしれているために声を上げたところで気づいてもらえるのかどうか怪しいところだった。
「ヴァ、ヴァ、イ、……」
それでも、何とか声をひねり出した。
ヴァイルは、気づかなかった。




