ぼやけた視界
とうとう両方の腕を駄目にしてしまったヴァイルは投げた槍が致命傷になるかどうかを確かめようとしたが槍は肉塊にかすることなくヴァイルのいるところと反対方向にある壁に突き刺さっただけだった。
「……どうしたものか……」
ヴァイルは、緊張のカケラも無い声でぼやいた。そしてその言葉は現状を正しくとらえていた。
と言うのも腕を駄目にしたヴァイルに残っているのは足ぐらいなのだが身体強化魔法も使えないヴァイルには足を使った攻撃なんてできなかった。
どう頑張っても不格好な攻撃ぐらいしかできないためにもし足を使った攻撃ができたとしても肉塊に対して有効な手段になるはずもなかった。
肉塊は反撃されてからもう一度ただの肉塊に形を戻した後、ヴァイルと対峙しているだけで攻撃を再度仕掛けてこようとする風貌は見せていなかった。
ヴァイルは、停滞している状態をいいことに思考を巡らせる。
今、何をすればこの現状を打破できるのか、どうすればあの肉塊に対してダメージを負わせることができるのか、どうすればヨルの言っていたように魔法が使えるようになるのかなどを考えていた。
先ほどまでとは自身の状態が変化していることを自覚しているために再度、今まで感じなかったような、何かを感じようとする。
もちろんその間肉塊からは目を離さないようにしながらだ。
一向に肉塊の動きがないままにヴァイルは一つの結論を出した。
それは、何も感じないという事だった。しかし若干ながらも違和感のようなものをヴァイルは感じていた。それを言葉として表すことはできなかったが、それでも何かを感じていた。
「……これ、は……?」
違和感を覚えながらもそれが何かなのかわからず自分の体にヴァイルは視線を向けた、向けてしまった。
しかしなががら現在は肉塊との戦闘中だ。相手に動く気配がないとはいえ視線を逸らすのは愚行だ。さらに言うならヴァイルと肉塊を比べるとヴァイルの方が実力が圧倒的に足りていない。
それなのに視線を外す、その行為は自殺行為だった。
肉塊に自我があるのかはわからないが肉塊はその隙にヴァイルにとびかかった。
ヴァイルは肉塊がとびかかってくることに気づける状態に今は無くただ、自分の体を見つめているだけだ。
肉塊に気づけないヴァイルは、肉塊の攻撃を防御もできずに受けてしまう、そう思われたがヴァイルと肉塊が接触する一瞬前に横から蹴りが入った。
蹴りを放った足は肉塊にめり込みわずかな弾力とともにけり込まれた方向と同じ方に肉塊が吹っ飛んでいく。
「ごほ……ごほ……その、大丈夫、です、か?」
ヴァイルを助けに入ったのはヴァイルと肉塊が戦い始めるときまで意識を失い安否不明のティエルだった。
「僕は大丈夫ですがティエルさんはティエルさんで大丈夫ですが?」
腕が無くなっているヴァイルから見てもティエルの状態は中々に悲惨な状態だった。
衣服の合間から見える肌だけでも半分近くが紫がかっていたのだ。
「……それは動いても大丈夫なんですか?」
「た、多分……ヨ、ルさんに大丈夫だって言われました……十分限定で……」
「十分限定ですか……まあとりあえず戦いに参戦してくれると助かります」
「はい、もちろんです」
ティエルは返事をするのとともに魔法を放つ。放たれた魔法は肉塊、ではなくヴァイルに向かって行き消滅した。
「す、すみません。視界が、ぼやけてて……」
「いえ、問題ありません」
ティエルはヴァイルの返事を聞いてから再度魔法を使ったがやはり魔法はヴァイルのもとに向かった。
「ティエルさん?」
一度目ならまだしも二回連続で、しかもティエルとヴァイルの立ち位置、肉塊の位置すら変わっていない。さすがにおかしいと気づいたヴァイルは改めてティエルの状態を確認する。
ティエルはティエルで標的だと思っている物に魔法を向けたはずなのに魔法が直撃した時に異質な反応、魔法が消失するという反応で魔法が直撃した相手がヴァイルだと確信することができた。
「すみません、何度も……」
「ティエルさん」
「え、はい」
ティエルの顔も半分近く紫がかっていて問題となっている目は充血しているだけではなく目を霧のようなものが目を隠していた。
ティエルもおかしいとは感じていた。身体強化魔法を使い飛び蹴りを食らわせたのは間違いなく赤い肉のようなもので蹴り飛ばしたはずなのに地面に着地し前を向いたとき、赤い肉のような物との距離はかなり近かった。
ヴァイルの声は近くから聞こえていたが姿が見えずとりあえず敵と見える赤い肉を攻撃をしたのだがそれはヴァイルのようで、ぼやける視界の中でも見間違いしないようにしながら魔法を使ったのだがまたしてもそれはヴァイルだった。
ぼやける視界であっても見えるのは肉の塊のような物であることに間違いはないがそこにいるのはヴァイルだ。
少し考えて、自分の視界がおかしくなっているかもしれないということがティエルは気づいた。




