勝者への褒美
サブタイトルは結構てきとうに決めてます。深い意味はありません。
肉スライムはティエルの魔法を避けることがかなわず体の一部をえぐり取られた。一部なので肉スライムに大したダメージは通っていないがティエルが使う魔法の攻撃が有効だということだ。
有効であるなら、倒すことができる。そんな考えのもとティエルは肉スライムに対して様々な魔法を使った。肉スライムは魔法を避けることができておらず肉スライムは少しずつだが体積を減らしていった。
しかし肉スライムの外殻を、体積を一割近く減らした時肉スライムは形態を変えた。
ぐちゃぐちゃと何かを咀嚼でもしているかのような音が響き、縮んだと思いきや肉塊は犬をかたどった。
「……まずいですね。中にいる彼の血肉を使って変形したようです。時間の猶予があまりないかもしれません。ちまちまと削る戦法はあまりよくなかったのでしょうか?」
「え、えぇ……」
ティエルはあやふやなことを言うヴァイルに戸惑いの目を向ける。
「すみません。こういうのにであっても中身のことなんて気にせずに殺していたので確実に生かすための方法を知らないんです」
「あ、いえそういうことが言いたかったわけではなくて……」
二人がこんなに悠長に話しているのは犬をかたどった肉犬が威嚇でもしているのか唸り声をあげるだけで一向に動かないからだ。
先ほどのヴァイルの言葉でただ単に魔法で攻撃するわけにもいかなくなってしまったティエルに今できることは唸っている肉犬を警戒しながらもヴァイルのことを抱きかかえともに回避行動をとることぐらいだ。
「安易に近づくのも危険なので、相手が近づいてきたら僕を魔物の方に投げ飛ばしてください」
「そ、それはいいんですか?」
「これぐらいしか思いつきません」
「…………分かりました」
ティエルは悩んで末に、代案がなにも浮かばなかったためヴァイルの案に賛成した。
ティエルが賛成した時も肉犬は動かないが、唸り声がより一層大きくなった。唸り声と言ってもちゃんとした発音器官がないため歯ぎしりのような骨と骨をこすり合わせるような音なので、聞こえるだけで不快感に襲われ集中が途切れそうになってしまう。
不快な音に耐えていると肉犬は唐突に飛び出していきヴァイル達を噛み殺そうとして口ではなく頭部がひび割れて開け内部にびっしりと這えている牙のような白く鋭利な破片を露見させた。
「お願いします」
ヴァイルは自分のことを抱き上げているティエルに声を掛けた。ティエルは頷くと、ヴァイルを肉犬に向けて投げつけた。
ヴァイルはティエルに投げられ、肉犬に向かって飛んでいく。肉犬はそれを交わすことができずヴァイルの能力によって外殻が剥がすべて剥がれる、そんな風にティエルは思っていた。
しかし、魔物のもとに飛んでいったヴァイルは抵抗もなしに開かれた頭部に突っ込んでいった。
「ヴァイルさん!?」
まさかの無抵抗にティエルは驚愕の声を上げるが今、魔法を使うと間違いなくヴァイルに当たってしまい魔法が消えてしまうので魔法を使ったとしても効果は見られないだろう。
そのため、ティエルは身体強化魔法を維持したままのその体を使い全力で駆けだした。
駆け出したティエルはヴァイルと肉犬を通り過ぎ、オルスが取り落とした武器にもとまで向かい、武器を握った。
オルスが今日の決闘に持ち込んでいたのは片手両刃斧。対人であるならこの斧でも十分に脅威になるだろうが今、頭を割ってヴァイルをくらっている肉犬を相手にするには心もとない。
それでもティエルに今できることはそれぐらいなのでしっかりと武器を握り強く床を蹴る。
身体強化魔法と言う、パーティー全体でCランクはある冒険者達でも容易には使えない魔法を用いる。ティエルは一瞬で肉犬のもとにたどり着き、片手両手斧を肉犬の胴体に対してほぼ垂直に叩きつける。
斧の刃は肉犬には通らず人間からすれば鈍器で殴られたというぐらいの感覚の物で瞬時に致命傷に至ることは無いだろう。しかしながらティエルはこうなることをある程度は予想していた。
むしろ、中身を殺してしまわないためにもそちらの方が都合が良かった。
だがティエルには想定通りにいかないこともあった。それは斧を叩きつけても肉犬はヴァイルのことを離さなかったことだ。
肉犬の胴体は確実に地面に叩きつけられていて若干ではあるがティエルにの手には小さな何かを砕いた感触があった。だから攻撃は効果があったはず。
しかし肉犬は先ほどからヴァイルをかむ力を弱めていないような気がいしている。肉犬の噛む力、捕食する力が及ばず胴体をせん断させたり丸呑みにしたりはまだ起こっていない。
だが確かにヴァイルは噛まれていて歯が突き立てられている箇所からは血がとめどなく流れていて噛む力が強いことが分かる。もしかすると骨にまで影響に出るかもしれない、そんなことを思い不安視したティエルは片手両刃斧を捨て置き割れてヴァイルを捕食している肉犬の頭部に手を突っ込む。
身体強化魔法を使っていているにもかかわらず冒険者のメイスをも受け止めたティエルの手や腕に歯が突き刺さる。
ブツッとわずかな抵抗をした皮膚が突き破られる音とともに激痛が、なぜか全身に走った。
「ぃだ! あう゛ぎ、あ゛ぃ」
それでも手を離すことなく必死で力を込めると、ゆっくりとゆっくりとヴァイルの体と肉犬の歯の間に隙間ができ始めた。
「ティエルさん、今すぐ逃げてください」
「で、も゛!」
「早く。もう数秒もすればあなたは死んでしまいます」
「な゛んで゛」
「訳は後で、早く」
「う゛あ゛あぁ!」
ティエルはヴァイルの言ったことを聞かず、腕をできた隙間にねじ込み強引に口を開けさせた。それはヴァイルが体を起こし口の中から退避できるほどの隙間を生み出した。
ティエルはヴァイルの救出には成功したが口を開かせるために要した時間は二秒。たった二秒ではあるが猶予はヴァイル曰く数秒。それはもしかしたら一秒なのかもしれないし二秒なのかもしれないし三秒なのかもしれないしはたまた三十秒近くの余裕があるのかもしれない。
だが、ティエルには一秒経つ頃にはさらなる痛みに襲われ、二秒、口を開かせた瞬間全身に電流が走ったかのような感覚とともに全身が痺れてしまった。
全身が痺れてしまい動けないティエルに対しヴァイルは何とかティエルを連れてその場から退避しようとするが肉犬は先ほどと同じように頭部を開きヴァイル達に噛みつこうとしてくる。
ヴァイルの肉犬の攻撃を避ける手段は持ち合わせていない。とりあえずティエルがこれ以上攻撃されてしまわないように庇い先ほどと同じように肉犬に体の半分が肉犬の中に入る。
肉犬の口の中は、特にこれと言ったものは無く先のない穴のようだ。元がただの肉の塊なので外見は赤黒く切れめや割れ目などが至る所にある。ヴァイルは体の半分が肉犬の中にあるために自由に動かせる腕を穴の一番深い場所に当てる。それは先ほどまでもしていたことで肉塊の中にいるオルスを殺さずに出すために必要な行為だった。
ヴァイルが口の中で何をしているのかと言うと、わざと肉犬に食われるという大胆な行動をとったにもかかわらずとても地味な、口の中の少しずつ削いでいくことだった。
そいでいくと言ってもヴァイルは特に鋭い物を持っておらず手を使って肉をかき分けるようにして肉を削いでいった。
元が一つながりならこうもいかなかっただろうがこれは肉片の塊のような物だ。ティエルの攻撃は通らなかったがそれは肉犬が外壁を固くしているからであってもとは柔らかい。
おかげで本当に少しずつだが肉を削いでいくことができている。先ほどまでも同じことをしていたためにかなり削れている肉犬の口の中をさらに削いでいくと、繊維状のものが手に触れた。
肉犬にそんなものは無いのでこれは肉犬の中に取り込まれたオルスの髪の毛だろう。ヴァイルはそれを遠慮なしに掴み引っ張り出そうとする。
だが簡単に引っ張り出すことはできずいくつかの髪の毛が抜けるだけに終わる。ティエルの安否が気になるためさっさとこの肉犬を倒してしまいたいところだがどうにもうまくいきそうな感じではなかった。
引っ張り出せないのなら掘り出してしまおうとヴァイルは再び口の中の肉を削ぐ。オルスの周りに肉は外殻よりも口の中の肉よりも柔らかく肉を削いでいるというよりか泥を書き出しているような感覚だった。
あという間にオルスの頭が肉からでるが先はまだまだ長い、そんな風に思っているとオルスの目が勢いよく開かれた。
「だずげ」
かと思えば断末魔のような助けを求める声を発し、目を見開いたまま気絶した。
まさか意識があるとは思わなかったヴァイルだったが都合がいいとばかりにオルスに首根っこを掴みあっさりと引っこ抜いた。
ここまで簡単にオルスを肉犬の中から取り出すころができたのはオルスに意識があったからだ。意識が無い場合肉犬の元となっている肉塊と完全に融合してしまいただの形のある肉塊となってしまっているので今のように簡単に引き抜くことはできない。
意識がある場合、肉塊に融合したわけではなくあくまでも別々の個体をして存在しているため周りの肉は柔らかくなるし引き抜こうとしたとくの抵抗も少なくなる。それでも髪の毛を引っ張ったぐらいでは抜けはしないぐらいの強度はある。
オルスを引き抜くと痛みでも感じたのか何かに寄生でもしない限り生きていけない肉塊にとっての心臓部分のような扱いであるオルスがいきなり引き抜かれたことに驚愕でもしたのかわからないが肉犬は閉じていた口を開いた。
ヴァイルはその隙間を見逃すことなく体をスライドさせてヴァイルから先に口から出る。
体が完全に外に出る前にヴァイルはオルスの足首を掴みオルスを肉犬の口の中から引きずり出す。
肉犬はオルスを口の中から外に出そうとしている時には不意に開いてしまった口を閉じようとしていたがヴァイルの方が少し早くオルスの体殆どを口の外に出した。
腕は肉犬によって噛み千切られてしまったがオルスはまだ生きている。それはヴァイルにとって一番重要でその後がどうなろうと、オルスが生きようが死のうがどうでもよかった。
「ヨル。現状はこんな感じだ。こいつはもう戦闘の続行はできない。俺たちの勝ちだ。」
ヴァイルは審判のために設けられている席がある方向を見て言う。そこにヨルは見えずヨルは観客席にいるのが見て取られるため今の声がヨルに届くはずはなかった。
ヴァイルの声は届かない、そのはずなのにヨルは観客席から魔法を使い自身の声を拡張し声を上げた。
「今回の決闘の商社が決定した! 勝者はヴァイルだ! オルスは今にも死にそうだが現段階ではまだ息がある! 相手はまだ死んでいないため決闘のルールに対しての違反もない! 多少のトラブルはあったようだが完全に今回の決闘の勝者は、ヴァイルだ!!!!」
闘技場全体にヨルの声が響き渡る。会場内ではパラパラとまばらな拍手が勝者に送られた。拍手を送る生徒たちはつまらない物でも見たかのような表情をしている人が全体の一割近くいた。残りの九割は顔色を悪くして声を出す余裕がない人やそもそも決闘なんかに興味がない人などさまざまであった。
ヨルはその中でつまらない物でも見たかのような表情をしている生徒を見て決闘が開始された時と同じように嫌らしい笑みを浮かべ再び口を開いた。
「今回予定されていた決闘はつつがなく終了したが時間に猶予があるため、今回の後始末を行う! 現在も会場内に残っている謎の生物の討伐を勝者であるヴァイルに行ってもらう!」
高らかに、声を拡張し会場全体に声が行き届くぐらいの声量でヨルは宣言した。
「さぁ! 戦闘開始だ!」
ヨルの宣言とともに会場全体に、ヨルの言葉よりも大きく透き通るような美しい音とともにすべてを塗りつぶすような、おぞましい鈴の音が響きわかった。
「さあ、ヴァイル。お前のための会場だ。存分に楽しんでくれ」
誰にも聞こえないように、ヨルは独り言でも呟くようにそう言った。




