肉片
「……あなたは、優しくなんてなかった……」
「だそうです」
「な……は? ふざけんなよ! ぼ、僕が何のためにこの決闘を受け入れたのかわからないのか!」
「……………………」
「わからないようですよ」
何も言わないティエルに代わって、ヴァイルがオルスに応じる。
「なんでなんだよ! 僕は、お前が奴隷にされて苦しんでいると思って! 助けなければと思って決闘を受けたんだ!」
「ティエルさん、彼の言葉を聞いて何か言いたいことはありますか?」
「……貴方が私を奴隷から解放したとして、私の扱いはどうなっていましたか?」
「もちろん、今まで通りです! 貴方の存在価値なんてそれぐらいしかないでしょう!?」
「…………」
ティエルは、オルスの言葉に答えることは無かった。
ただ俯き床を見ているだけで何かの動きがあるわけではなかった。
だが、ティエルの足元にはいくつかの雫が出来上がっていた。
それは一つ、一つと増えていく。
「そろそろよろしいでしょうか?」
そんなことを言ったのはヴァイルだった。
息を荒げるオルスも、泣いていると思わしきティエルのことも気にかけず決闘の再開を催促した。
「ええ、もう大丈夫です。結局のところ、貴方が全部悪いという事です。貴方に勝って僕が望むものを手に入れればいい話です」
気持ちを切り替えたのか冷静になり、落ち着いた様子でオルスはそう返した。
「では再開しましょうか」
ヴァイルはオルスの言ったことを何一つとして否定することなく決闘の再開を望んだ。
オルスは非常に淡白な反応しかしないヴァイルにイラつきを覚えながらも武器を構えた。
「…………いや、これでは勝てない」
オルスは構えていた武器を下ろした。
ヴァイルに向けて武器の剣先を向けることで先ほどまでの冒険者のことを思いだしたのだろうか。
「あれを使えば、勝てる」
茫然と、オルスはそんなことを言った。
急に悲観的になったことにヴァイルが違和感を覚えているとオルスは盾と武器を、地面に落とした。
「あれを使えば……!」
オルスは自分の服についているポケットに手を突っ込み、何かを探し始めた。
しかしなかなか見つからないようで一つだけではなく複数の、それこそ衣服についているポケット全てを確認しどこにも探し物が無いことに気づくと震える手で衣服の下に隠れるネックレスを手に取り、目線の高さまで持ち上げる。
持ち上げたペンダントを見るとそこには薄い切れ込みが入っていることに気づいた。
その切れ込みに触れるとネックレスの一部が変形し取っ手のようなものを形成した。
震える手を意志の力で抑えながら何とかネックレスの宝石のようなものがあしらわれている場所を開いた。
中に入っていた物は、肉片だった。
何の肉なのかはオルスには分からなかったが、漂う血の匂いと血液以外で赤く染まっているが外観から触感を推測するのなら間違いなくぷよぷよとしていそうなそれは確かに肉片だった。




