救いようのない愚者
「お、おい! 来てるぞ!」
「なら早くたてよ!」
「体に力が入んねーんだよ!」
「なんでなんだ! なんで僕の、僕の……があんなにも強いんだ! おかしいですよ!」
「わかったからもう一度身体強化魔法を付与してください!」
思ってもみなかった人物からの反撃をくらい動揺し身体強化魔法の付与が無くなってしまった。
「も、もう無理です! これの起動にはかなりの量の魔力が必要なんです! 次起動できてもすぐに魔力切れを起こして使い物にならなくなってしまいます!」
「ッッ――これ以上の戦闘継続は困難です。ギル、カーマリウスを担ぎなさい。逃げますよ」
「お、おい! 審判こんなの許されませんよね!――審判!?」
オルスは決闘の開始を宣言したときにヨルがいた場所に目を向ける。
そこにヨルはいなかった。
本来闘技場近くに設けられている審判専用の席のようなものがありそこにいなければいけないのだがなぜかヨルは観客席にいてオルスの大声はヨルには届かなかった。
「おい! 聞こえてんのか!」
焦りからか段々と言葉遣いが荒くなってきたオルスだがその声すらヨルが聞き取ることは無く夜に動きはない。
「いつでも大丈夫だ!」
その間に逃走の準備を済ませた冒険者達は地面にいくつかの玉や筒を叩きつける。
するとそこから大量の煙が噴出され、ヴァイルもオルスもティエルも冒険者達の姿を見失う。
煙が薄まり煙を介しても向こう側が見えるぐらいに薄くなったときには冒険者達は姿を消していた。
煙幕の範囲はかなり広くヴァイルが一番最初に気絶させた冒険者の姿を隠していて、その冒険者は他の冒険者と一緒に決闘場からいなくなっていた。
「くそっ! あのゴミかす共が! 使えない!」
もう一切を隠すことなく暴言を吐くオルスは目を吊り上げヴァイル達を見る。
「大体な! ふざけんなよお前! どこから来たかわからない下等な平民ごときが僕の邪魔をするなよ! 僕は彼女を愛しているんだ! 立場関係なく僕は彼女を愛しているし彼女も俺のことを愛してくれている! なのにお前は! 下劣なその行いで僕たちのはぐくむ愛をぶち壊しにしやがって! 殺す! 殺してやる!」
オルスは、ひどく興奮し大声で先ほどとは違う乱暴な口調でヴァイルを殺すと叫んだ。
ヴァイルは殺す、と言われて特に何かを感じることも無かった。
対してティエルは殺す、と言う言葉より以前にオルスが放った言葉に頭の中が真っ白になってしまった。
彼女にとってオルスの言葉は支離滅裂ように感じるのとともにオルスからされた行為の数々が理解できてしまうという訳のわからない状態に陥っていた。
「な、なに……なに、を……」
声を震わせ、自然と口から出てきた言葉はティエルの心の内をさらけ出した。
「どのくちで、そんなことを……私を焼いて切って焦がして殴って蹴って、しまいには私に欲情して自慰を見せつけて私を使って売春しようとしたのに、愛して……る? ふざけているの? ……ふざけないでよ! 気持ち悪いよ! あなたはどこにでもいる私を虐げる人の一員だったでしょ! 私のこと愛してるなんて言うなら! なんで助けてくれなかったの! 助けてくれたら! 貴方のこと愛してあげるぐらいに! 私は苦しかったのに!!」
言い切ったティエルは肩を上下させ息を切らしている。
目尻には大粒の涙がたまり今にもこぼれ落ちてしまいそうだ。
「らしいですよ?」
ヴァイルは愕然としているオルスに話しかける。
「助けてあげたのなら愛してくれていたそうですよ? まあ、貴方ははティエルさんと想いあっているなんて勘違いをしていたようですからよくわからないとは思いますけど」
ヴァイルは再度、独り言のように、誰かに訴えかけるつもりもない雰囲気のヴァイルは言った。対してオルスは唇をわなわな震わせ、額に青筋を浮かべていた。
「は、はぁ……? ぼ、僕がお前を使って遊んでやったんだぞ……? なのに、なんだその態度は……? 僕の玩具に、僕のストレス発散相手に選ばれたんだぞ……? 女にしては栄誉なことだろう……? それに、僕は他の奴らより、優しかっただろ……?」
怒鳴りつけるのを何とかこらえているようで、ティエルに言い聞かせるように、説得させるようにまるで自分が正しいことを言っているんだと、そんな風な雰囲気でオルスは震える声で言葉を紡いだ。




