不審感
夕食を取り、決めておきたいことはあったがそれがティエルにとってタブーな言葉だったため何かあったらお互いに言う事になってしまったが大体の目的は達してしまいやらないといけないことが無くなってしまう。
外は太陽が完全に地平線の中に隠れてしまい明るくないので出かけることはできない。
そのためヴァイルは就寝の準備を始める。
さあ準備をしようと思いティエルとの話が終わった後に座っていたベッドを立ちそういえば部屋、と言うか寮の内に、と言うかそもそも学校に来る時に生活するうえで必要な寝間着や生活用品を全く用意していないことに今更ながらに気づく。
「……ティエルさん、寝間着や低活用品の用意はしてきましたか?」
「……していない、ですね」
「……そうですか」
そういえば部屋の中を見て回ったときにそれらしいものが無いことをおもいだしたヴァイルは無言で部屋の外に向かう。
扉を開きあたりを見渡したと思えば部屋の中に戻ってくる。
「あの……?」
わかりやすく困惑するティエルだがそれを見てヴァイルは頷く。
それがさらにティエルの困惑を深めてしまうが困惑がそのまま闇に落ちていく前に閉じられた部屋の扉がノックされる。
ティエルは困惑していたことを忘れ大きく体を跳ねさせ無機質な扉を見つめる。
「ヨルです。大丈夫ですよ。私が呼びました」
ティエルノ顔に張り付いている恐怖を見たヴァイルはティエルを安心させるために扉をノックした人物の名前のあげる。
「おーい、はよあけろ」
確かに聞こえてくる声はヨルの物だがティエルの顔から恐怖は剥がれなかった。
「ティエルさん、心配ならそこの浴室に隠れていてください」
ヴァイルはヨルのことをよく知っているがティエルもそうだとは限らないのでこの部屋の中で唯一鍵のかかる場所に隠れることを提案する。
ティエルはヴァイルの視線をたどり浴室を確認し中に入っていくとも割れたが扉を開けて中身をみてすぐにヴァイルがいる方に戻ってくる。
先ほどまでは自分のベッドに腰掛けていたティエルは何故かヴァイルのすぐ隣に来る。
ティエルは一人で密室にいるのが怖い、と言う仮説が立ってしまうが今注力しないといけないのは仮説を立証したりすることではなく外で待機しているヨルのことだ。
しかし扉を開けようとした時も恐怖を感じていたのかもしれないティエルがいるのに扉を開けるのは申し訳なく思ったのでヴァイルは少し大きな声で言う。
「ヨル、荷物はそこにおいて置いてくれ」
「ん、了解。おいて置く」
ヨルのことが聞こえると荷物が床に卸された音とヨルが遠ざかっていく音が聞こえてくる。
「とりに行きましょう」
一人でとりに行ってもよかったがヨルが近くにいないことをティエルに証明したかったのだ。
「わかり、ました」
顔を凍和ばらせたままだがティエルは頷く。頷いたティエルを確認してからヴァイルは歩き出しその半歩後ろにティエルがついてくる。
扉にたどり着くと改めてヴァイルはティエルに確認をしてから扉を開ける。
ヴァイルが扉を開くとそこには大きな麻袋が二つあり炭のようなもので『男』『女』と書かれていた。
「問題ありませんね。ティエルさん、自分の分をもって入ってもらえませんか?」
「わかりました」
ティエルは『女』と書かれている麻袋を手にして部屋の中に持ち運んだ。それに続いてヴァイルも『男』と書かれている麻袋を部屋の中に入れようとして少しもたつく。
いろんなものが入っているせいでそれなりの重量と大きさが麻袋にはあったのでそのせいだろう。
部屋の中に麻袋を入れたヴァイルは扉を閉めて鍵を閉めた。
荷物をベッドのある部屋まで持ってきたヴァイルは中身を確認する。
中に入っていたのはここに来るまで自分が使っていた私服と寝間着、それに加えて新しく補充されたと思われる衣服と金貨が入った財布などが入っていた。
金貨が入った財布を学生に渡すのはいかがなものかと思ってしまうがヴァイルの金銭感覚は庶民の物なので奴隷の首輪をつけているがこの学校に知り合いがいるということは貴族であることが予想されるティエルからすれば普通の音なのかもしれないな、と思っいティエルを見ると財布の中に入っている金貨を見て硬直してしまっていた。
貴族からしても子供に金貨を使わせるのはおかしなことだと荷物を持ってきたヨルのことを心の中で非難するが持っていることに越したことは無いのでありがたく受け取っておく。
荷物の中にはもちろんだが入浴する際に必要な物も用意されていてヴァイルは入浴の準備を始める。
浴室に言ったヴァイルは寮にしては珍しい設けられている浴槽にお湯を溜める。
この学校の寮にももれなく大浴場はある。それなのにこの部屋には浴槽がある。これもきっとヨルが手配したのだろうがこれに関しては何の不便もないのでヴァイルは気にしないことにした。
ちょうどいい温度のお湯が蛇口から浴槽に溜まっていくことを確認したヴァイルはベッドのある部屋に戻り荷物の整理整頓でもしようかと思い浴室の出入り口扉の方を見るといまだに顔を強張らせているティエルが立っていた。
「……どうかされましたか?」
間を開けて聞いたヴァイルに、ティエルはゆっくりと答える。
「…………一人に、しないでくだ、さ、い」
その声は小さかったもののティエルの意思がヴァイルには伝わってきた。
「すみませんでした」
ヴァイルは謝罪をしてティエルと一緒に浴室に出てベッドのある部屋に行き、それぞれのベッドに腰掛ける。
ヴァイルが同じ部屋にいることを確認したティエルは安どのため息をついて麻袋に入った物の整理を行い始めた。
それに倣いヴァイルも出したままにはしておけない衣服などをクローゼットに収納する。
荷物を片付けている間二人に会話はなく黙々と作業をしていた。
静かな環境で作業をしているヴァイルは一つ、考え事をしていた。どんな考え事化と言うと、い一体なぜティエルは自分のことを信頼、信頼、もしくはなついてくれているのか、と言う事だった。
ヴァイルとティエルは、今日が初対面だ。
幼いころに出会っていたとかそういう可能性はなく、完全に初対面だ。
また、ヨルが来た時にあんなに怯えていたのならヨルかあヴァイルについて聞いていたとも思えない。
一体どの自分を見てなついてくれたのかが分からなかった。
考えているうちに浴槽にお湯がたまるぐらいの時間がたったのでヴァイルは浴室に向かう。
後ろからティエルがついてきていることが確認できたが気にせずに浴室に入り浴槽の八割近くがたまっていたためお湯を止めて、ふと気になってティエルがいる方を向く。
ティエルはいまだに顔を強張らせていて、いまだに一人にしないで欲しいと思っていることが分かる。
そして再度浴槽を見る。当然だが混浴なんてものは関係が進んだ時ぐらいで初対面の男女がするようなことではない。
改めて、ティエルのことを、ヴァイルは見る。そして念には念を入れて聞いてみる。
「ティエルさん、入浴はどうなさいますか?」
「え……あ。……で、できれば、一緒、に」
ティエルはほんのりと頬を赤く染めた後、すぐに顔を強張らせてヴァイルに一緒に入って欲しいと言う。
相手が男ならヴァイルは了承していたかもしれないがティエルは女でしかも身分的にも離れていることが予想される。
そもそも同棲するだけでも問題になりそうだとヴァイルは思っているのに混浴なんて聞いてみたもののするつもりはない。
「すみませんが、さすがにそれはできません」
「そう、ですよね。……すみません」
「先にティエルさんが入ってください。タイミングは任せます」
「わかり、ました。ありがとうございます」
少し落ち込んだ声で答えるティエルを見てヴァイルはとうとうティエルを不審に思ってしまう。
ティエルの見せる反応はどう考えても初対面の異性に見せるものではない。相手が痴女であったり性別がヴァイルとティエルで逆だったらまだ理解できなくもないがティエルは女でどちらかと言うと淑女であるとヴァイルは思っている。
残された可能性は多くなく、残された可能性の中で一番高いのはティエルがヴァイルに危害を加えようとしている可能性だ。
ヴァイルは正規の順序を踏まずにこの学校に入学してきている。
それをよしとしなかった貴族たちが自分を陥れようとしてその結果ティエルが俺を陥れる役割を任されたかもしれない。
しかしそこに証拠がないためティエルをないがしろにできないヴァイルだがその分ティエルに不審感を覚えてしまうのもしかたのない話だ。




