元凶
ヴァイルに諭され街の中に変えることにしたティエル達は今、森の中を移動していた。
ティエルが魔法を使い森から出るための最短ルートを歩いている。
森の中を移動するのはそこまで難しくはない。
森の中に激しい起伏はないため崖があるわけでもないし通れない場所があるわけでもない。
しかし、いくら今まで見えなかったとはいえこれからも現れないとは言えない魔物を警戒しながらの移動はがそれなりに体力を使うし疲労はたまっていく。
ティエルは息を切らしてしまうぐらいの戦闘を一度しているため森の中を移動している時、少し辛そうな顔をしていた。
ヴァイル達は持ちの中に入ってから一度も休憩を取っておらず疲労がたまっていくのも無理のないことだった。
対してヴァイルは激しい戦闘をしなかったおかげなのか顔に疲労の一つも出さずに淡々と、そして黙々と森の中を移動していた。
そもそもティエルが魔法を主体としていて近距離で戦うタイプではなかったために学校で行うのは体力や体力づくりではないのと今まで奴隷の首輪によって虐げられていてまともに学校の授業を受ける機会があまりなかったため人並みの体力があるかないかで言えばないのがティエルだった。
体力の消耗を感じながら移動していたティエルだったが警戒は怠っておらずティエルから見て左から聞こえてきた骨が砕けたかのような乾いた音を聞きそびれなかった。
「ヴァイルさん、先ほどの音は……」
「見に行ってみましょう」
その音はヴァイルにも聞こえていたみたいでティエルが説明する必要もなく音が聞こえてきた方向に足を向けた。
音が聞こえた方向へと進むとまたしても乾いた音が鳴り響く。
とても大きい音という訳ではないが先ほどと比べると音は確実に大きくなっていた。
ヴァイルとティエルは自分たちが音を立ててしまわないように注意をしながら、音の鳴る方向に近づいていく。
近づくにつれて乾くような音以外にも固い物がこすりあうような音や金属同士が叩きつけられるような音も聞こえてきた。
確実に何かいることが分かり、ティエルに一層の緊張が走り、そして声を上げてしまった。
「きゃあ!」
緊迫したこの場に合わない可愛らしい悲鳴を上げた理由は、単純に驚いたからだ。
ティエルの目の前にべちゃッと音を立てて赤黒い物体が降って来た。
すぐにはそれが何かわからなかったが突然の飛来物と気色の悪い音で驚いてしまったティエルは次の瞬間に自分が悲鳴を上げてしまったことも一体何が飛んできたのかも理解できた。
飛んできたものは原型をとどめていて全体的に赤黒く染められているが隙間から地肌らしきものが見える。
「ゴブリン……」
飛来してきたものはヴァイル達が探していたゴブリンだった。
「ティエルさん、僕の近くに来てください」
「は、はい!」
焦りながらもちゃんとヴァイルの傍に向かったティエルは先ほどまで定期的に聞こえてきていた金属音だったり乾いた音が聞こえなくなっていることに気づいた。
ティエルは原因が自分にあると理解しているために、背中に冷や汗が流れる。
「補足されましたね」
ヴァイルがそういった次の瞬間。
「ブアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!」
汚らしい雄たけびが聞こえてきた。
「な、なに!?」
いきなりの雄たけびに身をすくめるティエルと全く動じないヴァイルはバキバキと木々をなぎ倒す音とともに現れた全長がゆうに二メートルを超える体躯をしたゴブリンに遭遇した。
このゴブリンは体躯からもそうだがこのゴブリンはただのゴブリンでない。これは、ゴブリンキングで先ほどの雄たけびの主だ。
「で、でかい……」
ティエルは通常のゴブリンとの違いに圧倒されているようだが、ヴァイルは全く動じていない。
「ゴブリンキングですね」
ヴァイルは目の前にいるゴブリンの身長や装備を見て、そう確信する。
ゴブリンキングは遠距離武器を持っておらず手に持っているのは見るからにも固そうな棍棒と盾だ。
その他にも首飾りや不格好だが確かな冠がそのゴブリンをゴブリンキングだと知らしめているようだった。
「ここにいるとは珍しい。ゴブリンがここらにいなかったのはゴブリンキングが原因なのでしょう。ゴブリンキングは配下を集めこの森を掌握しようとしていたのでしょう」
いたって冷静にゴブリンキングについて考えるヴァイルだったがティエルは今にも襲って来ようとするゴブリンキングに戦々恐々としている。
「そして、先ほどからなっている乾いている音はの原因はあの魔物でしょう」
そんなことを言いながらヴァイルがティエルに教えるように指さした先には先ほどまで戦っていたような関節部に筋肉のようなものがついているスケルトンだった。
スケルトンはゴブリンキングに向けてとびかかるがゴブリンキングは振り向きざまに棍棒を振りぬき、スケルトンを後方に吹き飛ばす。棍棒で殴られたスケルトンは骨が潰れる音を立てながら森の中に消えていき、どこかの樹木に直撃したのか骨の砕ける音を鳴らせた。
「音の原因はスケルトンとゴブリンキングの戦闘音のようですね。これでスケルトンと三体遭遇しましたが装備が同じと言う事はリッチでもいるかもしれません」
「り、リッチですか!?」
「あくまでも可能性です」
こんな話をしている場合ではないのだがヴァイルに一切の緊張感がないためにティエルの緊張もだんだんと薄れてしまう。
「ふぎゃぎゃふぎゃあ!」
だがゴブリンキングの汚らしい叫び声で一瞬にしてティエルの体に緊張が張り巡らされた。
今気にしなければいけないのは目の前にいるゴブリンキングで可能性の話なんてしている場合ではなかった。
ゴブリンキングは間違いなくティエル達を捉えていて真っ直ぐとティエル達の元へと向かっている。
「逃げる、と言う選択肢は魔物が僕たちのもとに来たという時点でありません。応戦しましょう」
ヴァイルが逃げようともせずティエルと話していたのはすでに逃げることができないと悟っていたからだった。
「魔法、使います」
ティエルはヴァイルも戦えるようにヴァイルから離れてからティエルは魔法を魔物に向けて放つ。
ティエルは威力ではなく手数を優先したようで様々な属性の魔法が魔物に向かって飛来していった。
対して、魔物は魔法を棍棒で追撃する。
棍棒は木製のように見えるため火属性の魔法を受けると燃えてしまいそうな気がしなくもないのがだ、棍棒はティエルが放った魔法すべてを追撃し身を守った後でも一切の傷はついていなかった。
「やはり、この辺りにはない材質の木材ですね。ここまではるばる移動してきたのか移動させられてきたのか追い立てられるようにして移動してきたのか……」
冷静に分析するヴァイルだったが魔法をすべて防がれてしまったティエルは動揺を隠せていない。
続けて魔法をいくつも放つがやはりすべて棍棒で防がれてしまった。
「ど、どうすれば……! 魔法が効かないなんて……!」
先ほどの魔法が全力だったのかティエルは自分の放った魔法が相手に効かないことをに対して焦りを見せていた。




