試行錯誤
少し歩いて、周りに人が誰もいなくなったあたりで、ティエルはヴァイルに聞いた。
「結構口悪く罵りましたね?」
「……嫌でしたか?」
「いえ、私はどちらかと言うとすっきりしました。あの子、かなり自尊心を傷つけられたみたいですからね。あの子は……私に泥を口に含めと、言われたことが、ありますから」
「なるほど……少し聞きたいことがあるのですかあの子は冒険者志望だったりするのでしょうか?」
「どう、でしょう。でもこの学校に冒険者志望で来ている人はそこまで多くのないので違うと思います」
「なるほど……なら仕方がないですね」
「仕方がない、とは?」
「冒険者ならああいう口喧嘩は日常茶飯事なんです。相手が暴言で来るならこちらも暴言で返さないと舐められてしまうので」
「あ、ああぁぁ……それなら、仕方がないですね。そもそも相手がああいった態度で突っかかってきたのが悪いですからね。私は、もうヴァイルさんの所有物ですから」
そのティエルの言葉は、信頼からくる言葉だった。
「はい。ティエルさんは実際お互いの関係をどう思っていたところで事実上、ティエルさんは僕の所有物です。そもそも奴隷は基本的に誰かの所有物なのですから手を出すのは間違っています。これで他の生徒の認識も変わってくれればいいんですけどね」
「そうですね」
「では、今日もよろしくお願いします」
「はい、では先ほども言ったように別視点からのアプローチをしてみたいと思っています。行うのはヴァイルさんの魔法を無効化するという特性を利用して、私が放った魔法を無効化するということをしたいんです」
「それに、どういった意図があるのですか?」
「わからない事をわかるようにしていきたいからです。今わからないことはヴァイルさんのその特性についてとなぜ魔法が使えないのか、と言う事です。魔法に関しては魔力とは何なのかが分からないことが分かりましたがヴァイルさんのその特性は一体何なのかわからないことが分からない状態です」
「確かに、そうですね」
「なので、私が放った魔法の無効化してもらいたいんです」
「わかりました。僕はいつでも大丈夫なのでお願いします」
「では、少し離れてから魔法を使いますね」
ヴァイルとティエルは互いに距離をとり十メートルほど離れた後、ティエルはヴァイルに向けて火球を放った。
放たれた火球はヴァイルに触れることなく途中で消えてしまう。続けてティエルは何十個もの火球を一度で生み出し、一斉にヴァイルに向ける。
しかしこの火球もヴァイルに触れることなく消えその場には何事もなかったかのような行状をしているヴァイルだけが残っている。
ティエルは次に、魔法を使い身体能力の強化をしたのちに、ヴァイルに対して一気に距離を詰める。
いきなり近づいてくるティエルに驚いているとティエルは距離を詰めながらもヴァイルに対して魔法を放つ。この魔法もヴァイルに触れることは無く消え、ヴァイルに接近していったティエルは、ヴァイルの近くで盛大に転んだ。
「大丈夫、ですか?」
あんまりにも勢いよく転んだためティエルに対して心配の声を掛けるとティエルは地面に震える手を突き、ゆっくりと体を起こしてヴァイルの顔を見る。
体のいたるところに擦り傷ができているが出血個所は無い。
「その、魔法を無効化するのは、外的なものでも発動済みの魔法でも、発動し効果が合わられている物でも、内側に起こるものだったとしても、無効化することができるんですね……」
痛みをこらえながら、ティエルは分かったことをヴァイルに伝える。
「……では、僕が魔法を無力化すると言っていたのは間違いで、実際のところは魔力をどうにかするという事なんですかね?」
「多分、そうだと思います。魔力が散らされているのか吸われているのか、消されているのかわかりませんが、魔力に対して何らかの力が働いているんだと思います。ちなみにその力を使っている、と言う実感だったりは在りますか?」
「ありますね。体の一部を膨らませる、とか拡大させている、っていう感じで使っています。手で触れる場合はその必要はありません。あと自分で魔法の無力化をするしないは決められません」
「なるほど……決められないということはその特性が発動するための源は分かっていない、と言う事ですよね?」
「はい。なぜか使えているというのが現状ですね」
「……なら、何度もその力を使ってみるのがいいんでしょうか?」
「多分ですがその方法ではうまくいきません。いつかは忘れましたが修行と称した雑用の処理で一か月近く森の中に潜って魔物と戦っていたことがあるのですが、その時でも特にこれと言ったものは感じませんでしたから」
「そんなことしてたんですね……じゃあ他の方法を考えないといけませんね…………どうやって魔物と戦ったのか聞いてもよろしいですか?」
「最初の内は体を広げるような感覚で力を使っていましたが何度もそんなことをするのは疲れるので次第に魔物に接近して触って攻撃するようになりましたね」
「今回はゴーレムでしたが他の魔物の場合、攻撃したときはどのようになるのですか?」
「攻撃をするとあの時の冒険者のように気を失います。さらに使い続けるとそのまま亡き者になります。なので外傷はつかないですね」
「攻撃するときとそうでない時はどうやって使い分けを?」
「使い分けは特にしていませんよ」
「え? でも、私に触れ得た時は何も起きませんでしたよ?」
「あの時は魔法を無効化していたのでティエルさんまでは効果が行き届かなかった、と言う風に思っているのですが?」
「も、もしそうだったとしてもおかしいですよ。その、入浴中も就寝時もわた、し、はヴァイルさんに触っていましたが特に何も、起きませんでした」
「そのことについて、ティエルさんはどう思いますか? 僕としては力の使い分けなんてしていないんです。僕に分かっていることといえば体の一部を感覚で拡張すると魔法を無効化できるという僕の特性が感覚上で拡張し広がった体の範囲に僕の体に在る特性が広がるという事です。力を使うとは言っていますが力を使っている感覚も実感もありません。なぜか触ると相手を昏倒させそのまま息の根を止めることができる、ただそれだけなんです」
「それだけでも十二分にすごいとは思うんですけど……でも確かによくわからない力を使い続けるのは不安でしょうし、魔法が使えるようになるためにも頑張りましょうね」
「はい、お願いします」
結局のところヴァイルが魔法を使えない原因は分からなかったのだがそれでも二人はお互いに努力していくことを決意した。ヴァイルは自分が魔法が使えるように、ティエルは自分の存在意義がなくなり捨てられてしまわないように。




