ただの暴言
何の対策も無いままに迎えた魔法学の時間、とても残念なことにヴァイルの予想通り、ちょっかいを掛けてくる輩が現れた。
「あら、無断で学校を休んだ奴隷がなぜこんなところに? 躾が必要なのかしら?」
声を掛けてきたのはヴァイルにとっては名前も姿も始めて見た人だった。
その顔には嫌らしい笑みが浮かんでいて明らかにティエルのことを下に見ていた。
実際、前日までティエルは目の前にいる彼女に抵抗する気力も意思もなかったのは確かで、奴隷や躾と言った単語に異常なまでに怯えを見せていたのも事実。
しかし今のティエルにとって奴隷と言うのはステータスであり怖がる必要のあるものではなくなっていた。
それは、ヴァイルの奴隷でいる以上、躾と評した酷い暴力を受けることも無ければ恥辱を受けることも無いからだ。
「……………………」
だからと言ってすぐに強気に出ることができるわけではない。いまだに彼女や他の人に暴虐を受け傷ついた心は癒えきってはいないから。
「僕の所有物に何か用でも?」
怯えるそぶりを見せていなくとも声が出せないティエルに変わり、ヴァイルが彼女に答えた。
「所有物? いつからその奴隷が貴方の所有物になったんですか? そこの奴隷に何をされたのか知りませんけど、情にほだされて正義感を馬鹿みたいに振るってると、痛い目見ますわよ?」
「そうですか、忠告感謝します。ところで、僕に話しかけている人がどこにいるのかわかりますか?」
ヴァイルは近くにいるティエルの方を向いて尋ねる。
聞かれるまでもなくヴァイルに話しかけた人はヴァイルの目の前にいるのだから誰が話しかけてきたのかと言うヴァイルの質問にティエルは戸惑う。
戸惑うティエルを見て同情するかのようにうなずいてから、とてつもない悪気地を口にする。
「ですよね、分かりませんよね。僕たちの前にいるのは金切り声がうるさいサルだけですからね。人間の姿が見えません。ところで、ここにいるサルは、誰のペットでしょうか?」
その声に、嫌味があったわけではない。いつも通りの声でヴァイルは淡々と、まるで事実を述べているのだと言わんばかりの態度で、そんなことを言った。
その言葉に誰も、何も言えないでいるとヴァイルはまたしても頷いて、言った。
「言葉選びを間違えたみたいですね」
平然とそんなことを口にしたヴァイルはティエルに目配せをしてその場を去っていた。ティエルも特に何かを言うことなくヴァイルについて行った。




