昼食
机は長方形なのでまだ昼食を食べているティエルのスペースを減らしてしまわないように向き合うことになる席に座る。
「あ……の、じゃま、ですか?」
席に座るなりまだ食べている途中にも関わらずティエルはそう言った。
一瞬ティエルが何を言っているのかわからなかったヴァイルだが机の上に置かれた強く握られている拳を見て、ティエルが何を思っているのかが分かる。
「……邪魔ではないです。そもそも食事とは誰かとともにとるものでしょう。貴方がいなければ始まりませんよ。食べ始めるタイミングはおいて置くとしても」
「え、あ、は、い」
なぜかさらに拳を強く握りだしたティエルを視界にとらえながらも黙々と用意した食事を続けるヴァイルはとある可能性について考えていた。それはティエルが中等教育を受けている間に生徒たちから”躾”を受けていたのではないか、と言う可能性だ。
ティエルの首輪が本物であることは先ほどの命令を聞いたことから分かることではあるが教室にいた時の反応やここまで自分の存在を否定するようなティエルの態度を見ているとそういう可能性が浮き出てしまうのもしかたがないのかもしれない。
しかし、とヴァイルは思う。
奴隷には当然だが主人がいないと成り立たない。自分から奴隷の首輪をはめたのなら主人がいないことも納得できるがそんなことをする奴なんていないだろうし奴隷の首輪は自分ではつけることができないようになっているのでそれもあり得ない。
だが奴隷は基本的に主人のそばにいないといけない。
主人が自分のそばにいることを望まなかった場合こうなるのかもしれないがもしそういう理由ならわざわざ奴隷を学校に入学させる必要もない。
矛盾やわからないことを解決しようとするとそのたびに矛盾やわからないことが湧いて出てきてしまうのでヴァイルはすぐにティエルについて考えることをやめて食事をとることに集中した。
ヴァイルが食事を終えるころにはティエルも食事を終えていて食べ終わったお皿をそのままにずっと席に着いたままだったがヴァイルは何故ティエルがそんなことをしているのかを考えずに自分の食器とティエルの食器をもってキッチンに向かう。
「あ、あ、あ、あ、あ」
後ろからティエルの喘ぎ声が聞こえてくたため振り向いてみるヴァイルだが中途半端に席を立っているだけで何か問題が起きたわけではなさそうなので無視してキッチンに入り使った食器を洗っておく。
夜も洗わなくてはいけない食器が出てくるだろうからその時にまとめて洗ってしまえばいいのかもしれないが洗い物が多いとやる気をなくしてしまうのでできるだけ減らしておきたい。
ヴァイルが時間をかけずに食器を洗って食器乾燥棚においてからキッチンを出ると、ティエルは中途半端に席から立った状態を維持していた。
「何をしているんですか……」
思わず聞いてしまったヴァイルにティエルはおどおどしながらも答える。
「あ、な、なんでも、ない、です」
「そうですか」
何でもないと言われてしまったので簡素な返事しかできなかったヴァイルは暇を持て余すことになってしまう。
ティエルとの会話はできそうにないし午前中かなり顔色の悪かったティエルを置いて寮の外に出るのは忍びない。
することのないヴァイルは夕食に何を作ろうかと考えながら先ほどティエルが腰掛けていたのとは別のベッドに寝ころんで時間を潰した。
いまだにティエルは中途半端に席から立った状態を維持していて太陽が地平線にかかるころに席に着いたが、それだけだった。




